22 / 140
1章 ~現在 王宮にて~
21
しおりを挟む
「私からもお伺いしたいことがあるのですが……。よろしいでしょうか」
シェリルが国王へ声を掛けた。
国王もルイザに「不実」と言われたことが堪えたようで項垂れている。
但し国王には自身の行いが不実であるという自覚があった。ただルイザが不満を口にしないので目を逸らしていただけだ。だから落ち込む資格などないことも理解していた。
顔を上げるとシェリルに話すよう促す。
「恐れながら、王妃殿下のお加減はいかがなのでしょうか」
「!!」
息を呑む国王をシェリルはじっと見ていた。
王妃の体調について正式な発表はもう何年もされていない。それどころか話題にしてはいけないような雰囲気がずっと流れていた。それはシェリルがギデオンの婚約者だったことと関係ないだろう。
先程侍従が手渡したのは、王妃の様子を知らせるメモだ。国王は30分ごとに王妃の様子を報告させている。
何ともなければそれで良いが、熱を出したり具合が悪くて侍医を呼んだと言われれば慌てて王妃の元へ駆けつけるのだ。
だけど王妃の体調について疑問に思っているのはシェリルだけではないはずだ。
体調不良で療養中と言われる王妃は、シェリルが物心ついた時にはもう公の場に出ることはなくなっていた。
だけど薔薇の宮の庭園を国王と2人で歩く姿は度々目撃されている。エドワードの学校行事にも毎回参加しているのだ。王立学園の卒業式より数日早く行われた騎士学校の卒業式にも国王と2人で参席していた。
だけど公務を行わない王妃を非難する声はほとんど聞こえてこない。
騎士学校の行事で顔を合わせた貴族も、「久しぶりにお姿を見れて良かった」「少し窶れておられたが、お元気そうでホッとした」と言うばかりで、「そろそろ公務を……」と言う者はいないのだ。
何かシェリルの知らない事情があるのかと思うのが普通だろう。
「王妃の体調は……、良い時と悪い時の境目が難しい。心の病というのはそういうものだそうだ」
「え……?」
シェリルは驚いた。
ギデオンが生まれた時に、子を産めなかった王妃が精神的に追い詰められていたと聞いたことはあった。
だからエドワードが養子として迎えられたのだ。
その不調が今も続いているというのだろうか。
「シェリル、やめなさい」
「そうよ。必ずしもすべてを知らなくてはならないわけではないの」
「いや、良い」
アンダーソン公爵夫妻がシェリルを止める。
それを抑えたのは国王だった。
「ギデオンももうすぐ19になる……。事情を知らない者たちが成長しているのだな」
国王が僅かに笑う。
その顔は苦しそうであり、若者の成長を喜ぶものでもあった。
「そなたたちは王妃が子を産めぬので側妃を迎えたと聞いているだろう。だが実際には子を産んでいるのだ。ただ生まれた子は弱く……、育つことができなかった」
「ええっ?!」
シェリルが驚いて声を上げる。
だけど驚いているのはシェリルだけではなかった。
ルイザもシェリルと同じくらい驚いている。ルイザも知らなかったということだ。
そしてそれが、ルイザが側妃に選ばれた理由でもあった。
シェリルが国王へ声を掛けた。
国王もルイザに「不実」と言われたことが堪えたようで項垂れている。
但し国王には自身の行いが不実であるという自覚があった。ただルイザが不満を口にしないので目を逸らしていただけだ。だから落ち込む資格などないことも理解していた。
顔を上げるとシェリルに話すよう促す。
「恐れながら、王妃殿下のお加減はいかがなのでしょうか」
「!!」
息を呑む国王をシェリルはじっと見ていた。
王妃の体調について正式な発表はもう何年もされていない。それどころか話題にしてはいけないような雰囲気がずっと流れていた。それはシェリルがギデオンの婚約者だったことと関係ないだろう。
先程侍従が手渡したのは、王妃の様子を知らせるメモだ。国王は30分ごとに王妃の様子を報告させている。
何ともなければそれで良いが、熱を出したり具合が悪くて侍医を呼んだと言われれば慌てて王妃の元へ駆けつけるのだ。
だけど王妃の体調について疑問に思っているのはシェリルだけではないはずだ。
体調不良で療養中と言われる王妃は、シェリルが物心ついた時にはもう公の場に出ることはなくなっていた。
だけど薔薇の宮の庭園を国王と2人で歩く姿は度々目撃されている。エドワードの学校行事にも毎回参加しているのだ。王立学園の卒業式より数日早く行われた騎士学校の卒業式にも国王と2人で参席していた。
だけど公務を行わない王妃を非難する声はほとんど聞こえてこない。
騎士学校の行事で顔を合わせた貴族も、「久しぶりにお姿を見れて良かった」「少し窶れておられたが、お元気そうでホッとした」と言うばかりで、「そろそろ公務を……」と言う者はいないのだ。
何かシェリルの知らない事情があるのかと思うのが普通だろう。
「王妃の体調は……、良い時と悪い時の境目が難しい。心の病というのはそういうものだそうだ」
「え……?」
シェリルは驚いた。
ギデオンが生まれた時に、子を産めなかった王妃が精神的に追い詰められていたと聞いたことはあった。
だからエドワードが養子として迎えられたのだ。
その不調が今も続いているというのだろうか。
「シェリル、やめなさい」
「そうよ。必ずしもすべてを知らなくてはならないわけではないの」
「いや、良い」
アンダーソン公爵夫妻がシェリルを止める。
それを抑えたのは国王だった。
「ギデオンももうすぐ19になる……。事情を知らない者たちが成長しているのだな」
国王が僅かに笑う。
その顔は苦しそうであり、若者の成長を喜ぶものでもあった。
「そなたたちは王妃が子を産めぬので側妃を迎えたと聞いているだろう。だが実際には子を産んでいるのだ。ただ生まれた子は弱く……、育つことができなかった」
「ええっ?!」
シェリルが驚いて声を上げる。
だけど驚いているのはシェリルだけではなかった。
ルイザもシェリルと同じくらい驚いている。ルイザも知らなかったということだ。
そしてそれが、ルイザが側妃に選ばれた理由でもあった。
36
お気に入りに追加
523
あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。
まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。
この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。
ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。
え?口うるさい?婚約破棄!?
そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。
☆
あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。
☆★
全21話です。
出来上がってますので随時更新していきます。
途中、区切れず長い話もあってすみません。
読んで下さるとうれしいです。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
その日がくるまでは
キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。
私は彼の事が好き。
今だけでいい。
彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。
この想いを余す事なく伝えたい。
いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。
わたしは、彼に想いを伝え続ける。
故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。
ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。
確実に訪れる、別れのその日がくるまで。
完全ご都合、ノーリアリティです。
誤字脱字、お許しくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる