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1章 ~現在 王宮にて~
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また国王の後ろの扉が開いた。あれから更に30分が過ぎたのだ。
本来であれば国王から婚約破棄の決定が告げられ、シェリルが了承して話は終わるはずだった。
想定されていた時間より長引いているのは間違いない。
入って来た侍従が国王へメモを差し出す。
受け取った国王は初めて読むのを躊躇う様子を見せた。
だけどやはり内容が気になるのだろう。メモを開いて目を走らせる。
「……こんな時でも、やはりあの方が気になるのですか。ほんの一時でも私たちのことを……、ギデオンのことだけを考えて下さることはできないのですか」
「!!」
これには誰もが驚いた。ルイザが隣に座る国王へ厳しい目を向けている。
1番驚いているのは国王だろう。これまでルイザが非難めいたことを口にしたことはなかったのだ。これ以上疎まれることがないように、そっと視線を伏せてやり過ごしてきたのである。
だけどそれがいけなかったのだと、ルイザは今になって気がついていた。
どれだけ蔑ろにされても何も言わなかったから、そんな扱いで良いと思われてしまったのだ。
それにこれ以上疎まれたからといって、何か違いがあるだろうか。
今だって顔を合わせるのは年に数えられるほどだけで、共に過ごしていても視線が交わることはない。優しい言葉を掛けられることもなければ、笑顔を向けられることもないのだ。
それならば、もっと早くに不満をぶつければ良かった。
どれだけ疎まれたとしてもギデオンが国王の唯一の王子であることに変わりはなく、ルイザがギデオンの生母であることに変わりはないのだ。
世継ぎを産ませる為だけにルイザを娶った国王が、2人を追い出すことなどできないのだから。
そうしたらギデオンがおなしな思い込みをすることもなかったかもしれない。
「私が間違っていました。不満があるのならそれを陛下に直接伝えるべきだったのです」
シェリルのこともそうだ。
少なくともギデオンが男爵令嬢に傾倒しだした時に、もっと婚約者を大切にするよう諭しておくべきだった。
だけどルイザはギデオンと向き合うのではなく、シェリルの機嫌を取ることを選んでしまった。
それは何があってもこの婚姻は成るだろうという慢心があったからだが、それ以前にギデオンと向き合うことを止めてしまっていた。自分の不満を聞かせるばかりで、ギデオンの思いを聞いたことなどあっただろうか。
結局ルイザもギデオンは自分の思い通りに動くもの、と思い込んでいたのだ。
「シェリル嬢には申し訳ないことをしました。私がもっとギデオンを気にかけ、向き合うべきだったのです。私であれば陛下と同じような不実な真似をしないように、諭すこともできたでしょうに……」
「……父上と同じ?俺が?!」
「シェリル嬢はあなたの正式な婚約者だったのですよ。その婚約者を放っておいて他の女性と懇意にしていれば不実としか言いようがないでしょう」
ギデオンはお茶会や舞踏会という公式な場にミーシャを伴うことはなかったけれど、学園では常にミーシャと過ごしていていた。想い人が他にいたとしても政略結婚が主な貴族であれば、それを周りに悟らせないのが当然のマナーだ。
ギデオンは側妃や愛妾を持てる立場なのだから、結婚まで隠し通し、然るべき期間をおいてミーシャを望めば良かったのである。
それなのに人前でシェリルを立てることもなくミーシャを優先していたのだから言い訳のしようもない。
それは正に国王と同じ所業だった。
ルイザだって国王の正式な妃だ。だけど国王に妻として遇されたことはない。
先日の卒業式だってギデオンの両親として共に参席していたけれど、ルイザは先を行く国王の後ろを一歩下がって付き従っていただけだった。当然言葉をかわすこともほとんどなかった。
国王に正妃がいるのは嫁ぐ前からわかっていたことだ。
例え王妃を愛しているのだとしても、ルイザを妃の1人として尊重してくれていたらこれほど思い煩うことはなかっただろう。
「私は大切にするべきものを見誤っていたのですね。周りをきちんと見ていれば、私を大切に思ってくれている者たちはたくさんいたのに……。何より私が1番愛を注ぐべきなのはギデオンでした。それなのにどれだけ想いをかけても返してくださらない方ばかりを見て、あなたから目を逸していたなんて……。本当にごめんなさい」
ルイザがギデオンへ頭を下げた。
ギデオンは呆然としてそれを見ている。自分の行いが国王と同じと言われたことが余程ショックだったようだ。
そのまましばらく呆然としいたギデオンだったが、自分の中で納得したのだろう。
やがてシェリルへ頭を下げた。
本来であれば国王から婚約破棄の決定が告げられ、シェリルが了承して話は終わるはずだった。
想定されていた時間より長引いているのは間違いない。
入って来た侍従が国王へメモを差し出す。
受け取った国王は初めて読むのを躊躇う様子を見せた。
だけどやはり内容が気になるのだろう。メモを開いて目を走らせる。
「……こんな時でも、やはりあの方が気になるのですか。ほんの一時でも私たちのことを……、ギデオンのことだけを考えて下さることはできないのですか」
「!!」
これには誰もが驚いた。ルイザが隣に座る国王へ厳しい目を向けている。
1番驚いているのは国王だろう。これまでルイザが非難めいたことを口にしたことはなかったのだ。これ以上疎まれることがないように、そっと視線を伏せてやり過ごしてきたのである。
だけどそれがいけなかったのだと、ルイザは今になって気がついていた。
どれだけ蔑ろにされても何も言わなかったから、そんな扱いで良いと思われてしまったのだ。
それにこれ以上疎まれたからといって、何か違いがあるだろうか。
今だって顔を合わせるのは年に数えられるほどだけで、共に過ごしていても視線が交わることはない。優しい言葉を掛けられることもなければ、笑顔を向けられることもないのだ。
それならば、もっと早くに不満をぶつければ良かった。
どれだけ疎まれたとしてもギデオンが国王の唯一の王子であることに変わりはなく、ルイザがギデオンの生母であることに変わりはないのだ。
世継ぎを産ませる為だけにルイザを娶った国王が、2人を追い出すことなどできないのだから。
そうしたらギデオンがおなしな思い込みをすることもなかったかもしれない。
「私が間違っていました。不満があるのならそれを陛下に直接伝えるべきだったのです」
シェリルのこともそうだ。
少なくともギデオンが男爵令嬢に傾倒しだした時に、もっと婚約者を大切にするよう諭しておくべきだった。
だけどルイザはギデオンと向き合うのではなく、シェリルの機嫌を取ることを選んでしまった。
それは何があってもこの婚姻は成るだろうという慢心があったからだが、それ以前にギデオンと向き合うことを止めてしまっていた。自分の不満を聞かせるばかりで、ギデオンの思いを聞いたことなどあっただろうか。
結局ルイザもギデオンは自分の思い通りに動くもの、と思い込んでいたのだ。
「シェリル嬢には申し訳ないことをしました。私がもっとギデオンを気にかけ、向き合うべきだったのです。私であれば陛下と同じような不実な真似をしないように、諭すこともできたでしょうに……」
「……父上と同じ?俺が?!」
「シェリル嬢はあなたの正式な婚約者だったのですよ。その婚約者を放っておいて他の女性と懇意にしていれば不実としか言いようがないでしょう」
ギデオンはお茶会や舞踏会という公式な場にミーシャを伴うことはなかったけれど、学園では常にミーシャと過ごしていていた。想い人が他にいたとしても政略結婚が主な貴族であれば、それを周りに悟らせないのが当然のマナーだ。
ギデオンは側妃や愛妾を持てる立場なのだから、結婚まで隠し通し、然るべき期間をおいてミーシャを望めば良かったのである。
それなのに人前でシェリルを立てることもなくミーシャを優先していたのだから言い訳のしようもない。
それは正に国王と同じ所業だった。
ルイザだって国王の正式な妃だ。だけど国王に妻として遇されたことはない。
先日の卒業式だってギデオンの両親として共に参席していたけれど、ルイザは先を行く国王の後ろを一歩下がって付き従っていただけだった。当然言葉をかわすこともほとんどなかった。
国王に正妃がいるのは嫁ぐ前からわかっていたことだ。
例え王妃を愛しているのだとしても、ルイザを妃の1人として尊重してくれていたらこれほど思い煩うことはなかっただろう。
「私は大切にするべきものを見誤っていたのですね。周りをきちんと見ていれば、私を大切に思ってくれている者たちはたくさんいたのに……。何より私が1番愛を注ぐべきなのはギデオンでした。それなのにどれだけ想いをかけても返してくださらない方ばかりを見て、あなたから目を逸していたなんて……。本当にごめんなさい」
ルイザがギデオンへ頭を下げた。
ギデオンは呆然としてそれを見ている。自分の行いが国王と同じと言われたことが余程ショックだったようだ。
そのまましばらく呆然としいたギデオンだったが、自分の中で納得したのだろう。
やがてシェリルへ頭を下げた。
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