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1章 ~現在 王宮にて~
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「感情のまま殿下を詰ってしまいそうで怖かったのです」
そう言って俯いたシェリルをギデオンは信じられない気持ちで見つめた。
ギデオンが知っているシェリルは、ギデオンが何をしていても興味を示さない、父と同じように冷たい女だったからだ。
だけどシェリルは我慢していた?
本当は母と同じように泣き喚いて、ギデオンに縋りたかったというのだろうか。
「だ、だったらそう言えば良かっただろう?!他の女を見るな、傍にいてくれと言ってくれれば俺だって……っ!」
「……学園に入学する頃の私たちは、既にそのような関係ではありませんでした。覚えておられるでしょうか」
幼い頃のような親しい関係であれば、シェリルももっと違う言葉で縋ることができただろう。
「あの女性と親しくなさらないで」
「私だけを見て!」
そう言えたらどんなに良かっただろうか。
だけどシェリルとギデオンの間にはすっかり壁ができてしまっていた。
シェリルを婚約者としての役目を果たすだけの女と見做して距離を取るギデオンにシェリルが言えたことは、「婚約者ではない女性とあまり親しくされていては良くない噂が立ってしまいます」「公の場に婚約者以外の女性を連れて出てはいけません」というような、行いを諫める言葉だけだった。
「そのような言葉が、殿下の心に響かないことはわかっていました。ですが少しでも感情的な言葉を言ってしまっていたら、誰に見られていたとしても止めることができなくなっていたでしょう……」
「だから、そうすれば良かっただろう?!言いたいことを言えよ!!泣いて喚いて俺を責めれば良かったんだ!そうすれば俺だって……っ」
「おまえはそれを、シェリル嬢に許していたのか?」
言葉を挟んだのは国王だった。
ギデオンとシェリルが2人だけで話していても、このままでは平行線を辿るだけだろう。そう危惧した国王がシェリルに助け舟を出してくれたのだ。実際ギデオンは「え……?」と呟き、動きを止めている。
「そなたとシェリル嬢では身分が違う。いくら婚約者という立場にあってもだ。シェリル嬢が親しく口をきくにはそなたからの許可がいる」
まだきちんとした礼儀を知らない幼い頃は親しく話していたかもしれない。
だけど立場を自覚し、礼儀を身に着けるにつれて言葉遣いも態度も改まっていくものだ。
それを淋しく思うならば、「これまでと同じように話して良い」「2人だけの時は改まった態度を取る必要はない」と、ギデオンが許可を出さなければならなかった。
そこで国王はちらりとミーシャへ視線を向けた。
国王はずっと気になっていたのだ。長年婚約者であったシェリルはずっとギデオンを殿下と呼んでいたのに、ミーシャはずっとギデオン様と呼んでいた。
それをギデオンが許しているからだと思っていたけれど、これまでの礼儀を知らない振る舞いを考えると勝手に呼んでいたのかもしれない。
「それに淑女は人前で感情を表に出したりしない。妃教育を終えて完璧な淑女と呼ばれるシェリル嬢が、人前で感情的に振る舞うことなどあるはずがないだろう」
「で、ですが母上は……っ!」
ギデオンが弾かれたように声を上げる。
ギデオンの中で基準となっているのは母のルイザだ。
ルイザはいつも得られない国王の愛を求めて嘆き悲しんでいた。
「淑女は人前で感情を表に出したりしない」
それではまるでルイザが淑女ではないと言っているようではないか。
こんな時まで父上は母上を侮辱するのか――。
ギデオンはギリッと奥歯を噛み締めた。
そう言って俯いたシェリルをギデオンは信じられない気持ちで見つめた。
ギデオンが知っているシェリルは、ギデオンが何をしていても興味を示さない、父と同じように冷たい女だったからだ。
だけどシェリルは我慢していた?
本当は母と同じように泣き喚いて、ギデオンに縋りたかったというのだろうか。
「だ、だったらそう言えば良かっただろう?!他の女を見るな、傍にいてくれと言ってくれれば俺だって……っ!」
「……学園に入学する頃の私たちは、既にそのような関係ではありませんでした。覚えておられるでしょうか」
幼い頃のような親しい関係であれば、シェリルももっと違う言葉で縋ることができただろう。
「あの女性と親しくなさらないで」
「私だけを見て!」
そう言えたらどんなに良かっただろうか。
だけどシェリルとギデオンの間にはすっかり壁ができてしまっていた。
シェリルを婚約者としての役目を果たすだけの女と見做して距離を取るギデオンにシェリルが言えたことは、「婚約者ではない女性とあまり親しくされていては良くない噂が立ってしまいます」「公の場に婚約者以外の女性を連れて出てはいけません」というような、行いを諫める言葉だけだった。
「そのような言葉が、殿下の心に響かないことはわかっていました。ですが少しでも感情的な言葉を言ってしまっていたら、誰に見られていたとしても止めることができなくなっていたでしょう……」
「だから、そうすれば良かっただろう?!言いたいことを言えよ!!泣いて喚いて俺を責めれば良かったんだ!そうすれば俺だって……っ」
「おまえはそれを、シェリル嬢に許していたのか?」
言葉を挟んだのは国王だった。
ギデオンとシェリルが2人だけで話していても、このままでは平行線を辿るだけだろう。そう危惧した国王がシェリルに助け舟を出してくれたのだ。実際ギデオンは「え……?」と呟き、動きを止めている。
「そなたとシェリル嬢では身分が違う。いくら婚約者という立場にあってもだ。シェリル嬢が親しく口をきくにはそなたからの許可がいる」
まだきちんとした礼儀を知らない幼い頃は親しく話していたかもしれない。
だけど立場を自覚し、礼儀を身に着けるにつれて言葉遣いも態度も改まっていくものだ。
それを淋しく思うならば、「これまでと同じように話して良い」「2人だけの時は改まった態度を取る必要はない」と、ギデオンが許可を出さなければならなかった。
そこで国王はちらりとミーシャへ視線を向けた。
国王はずっと気になっていたのだ。長年婚約者であったシェリルはずっとギデオンを殿下と呼んでいたのに、ミーシャはずっとギデオン様と呼んでいた。
それをギデオンが許しているからだと思っていたけれど、これまでの礼儀を知らない振る舞いを考えると勝手に呼んでいたのかもしれない。
「それに淑女は人前で感情を表に出したりしない。妃教育を終えて完璧な淑女と呼ばれるシェリル嬢が、人前で感情的に振る舞うことなどあるはずがないだろう」
「で、ですが母上は……っ!」
ギデオンが弾かれたように声を上げる。
ギデオンの中で基準となっているのは母のルイザだ。
ルイザはいつも得られない国王の愛を求めて嘆き悲しんでいた。
「淑女は人前で感情を表に出したりしない」
それではまるでルイザが淑女ではないと言っているようではないか。
こんな時まで父上は母上を侮辱するのか――。
ギデオンはギリッと奥歯を噛み締めた。
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