影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
23 / 140
1章 ~現在 王宮にて~

閑話

しおりを挟む
 ギデオンはこの世に生まれ落ちたその瞬間から王太子になることが決まっていた。
 国王カールが世継ぎを生ませる為だけ・・に娶った側妃が生んだ王子なのだ。暗黙の了解ではあったが、誰もが当然のこととして受け入れていた。
 この時ばかりはカールもギデオンの誕生を喜んでいたという。

 幼い頃のギデオンは、それなりに幸せだった。
 周りの大人たちは幼いギデオンに丁重に接していたし、我儘はなんでも叶えられた。
 まだ王太子の位は与えられていなかったけれど、周りの態度から自分は特別な存在なのだとぼんやり理解していた。





 この国では王家に子が生まれても、3歳になるまでその存在を隠される。
 幼いうちは病に罹りやすく、儚くなるのも珍しくないからだ。また大勢の側妃がいる時は、妃たちの間で幼い命を奪い合うこともあった。

 だけど実際には妃の懐妊をまったく知られないなど有り得ないのだ。
 正妃であれば受け持つ公務があるし、貴族との交流を大切にしている。舞踏会で踊れなくても、国王の隣で貴族たちの挨拶を受けるのも重要な役目だ。
 側妃にも交友関係があるので親しい友人たちとお茶会を開くこともあれば、サロンに顔を出すこともある。野心の強い側妃であれば、味方に引き入れたい貴族を密かに集めているだろう。
 だから本当に妃の懐妊を知らないのは宮廷に繋がりのない一部の地方貴族や下位貴族、それに民衆だけで、大方の貴族の間では暗黙の了解となっているのだ。

 だからギデオンが3歳になり、その存在が公表された時はちょっとした騒ぎになった。
 ギデオンの存在を――、ルイザの懐妊を知っている者がほとんどいなかったからだ。
 知っていたのは国王と王妃、宰相や大臣たちといった一握りの人間だけで、あとは百合の宮で2人の身の回りの世話をしている使用人だけだった。 

 それにはルイザの育ち方が関係している。
 ルイザの実家であるヴィラント伯爵家は王宮と繋がりの薄い地方の田舎貴族だ。更にルイザが幼い頃に領地が大規模な災害に見舞われていた。少しずつ復興しているものの何年も財政難に苦しんでおり、子どもたちを王都の学園へ通わせることができなかった。
 要するにルイザは王都に1人も知り合いがいない状態で嫁いだのである。

 その後の友人作りもうまくいかなかった。
 国王がルイザに一欠片の愛情も持っていないことが知れ渡っていたからである。
 
 嫁いで半月ほど経つと新しく迎えた側妃を披露する為の舞踏会が開かれた。
 だけど国王がエスコートをしたのはルイザではなく王妃である。国王は舞踏会の間中王妃に寄り添い、ルイザの方を見ようともしない。
 国王と王妃の後ろでポツンと佇むルイザに、王妃の方が気遣い、話しかけたり国王とルイザの間を取り持とうとしていた程だった。

 今にして思えば国王は幼い子を亡くしたばかりで夫の新しい妻を迎え入れなければならない王妃が気がかりだったのだろう。出席していた貴族たちも王妃に同情的だったのだと思う。
 だけど事情を知らないルイザの目には王妃の振る舞いが偽善的に映り、やつれたような青白い顔もわざとらしく思えた。
 結局舞踏会はルイザの中に不満と憤りだけを残して終わったのである。





 存在が公表されるとギデオンはすぐに立太子した。3歳の幼い王太子である。
 授けられた剣は重く、着慣れない豪華な式典用の軍服も動きづらくて嫌いだったが、母方の祖父母が祝いに駆けつけてくれた。これがギデオンとヴィラント伯爵夫妻の初対面だ。

 そして何より嬉しかったのは、普段滅多に会うことができない父と食事を共にしたことである。
 立太子を祝う昼餐会に過ぎなかったが、ギデオンにそんなことがわかるはずなく、食事の間中はしゃぎながら喋っていた。
 
 百合の宮には立太子を祝うたくさんの贈り物が届けられ、訪ねてくる人も1人、2人と増えてくる。
 ギデオンやルイザに取り入り、甘い汁を吸おうとする者たちだったが、初めてできた友人に浮かれたまま数年を過ごすことになった。


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

その日がくるまでは

キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。 私は彼の事が好き。 今だけでいい。 彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。 この想いを余す事なく伝えたい。 いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。 わたしは、彼に想いを伝え続ける。 故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。 ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。 確実に訪れる、別れのその日がくるまで。 完全ご都合、ノーリアリティです。 誤字脱字、お許しくださいませ。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...