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1章 ~現在 王宮にて~
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一体何が起きた?
ギデオンは呆けた頭で考える。
だけど目の前には息を荒げてミーシャを睨みつけるシェリルと頬を押さえるミーシャがいるのだ。
考えなくても答えは明らかだった。
自分の身に何が起きたか理解できずにギデオンと同じく呆けていたミーシャだったが、すぐに気を取り直す。シェリルをキッと睨みつけ、「何をするのよ!」と声を上げた。
だけどシェリルはもうミーシャを尊重するつもりはない。
「あなたがそんな方だったなんて!そんな方だったなんて……っ!!」
言いながら怒りで体が震えてくる。
叩き込まれた淑女としての振る舞いなんて、どこかへ消えてしまっていた。
「私がギデオン殿下を諦めたのは、あなたなら殿下を幸せにしてくれると思ったからよ……っ!あなたと過ごす殿下は嬉しそうで楽しそうで……っ」
言いながら涙がポロポロ溢れてくる。
ギデオンの幸福を願っていたけれど、他の女性と過ごすギデオンを見るのが辛くなかったわけではないのだ。
私にもあんな風に笑いかけて欲しい。
愛し気に名前を呼んで欲しい。
形式ばったエスコートではなく、恋人のように手を繋いで歩いてみたい……。
そんな気持ちを押し殺してきたのは、これまで見たことがないくらいギデオンが幸せそうだったからだ。
王宮にいても心から安らげることのないギデオンをミーシャが癒してくれている。
本当はその役目をシェリルが果たしたかったけれど、ギデオンがミーシャを選んだのなら仕方がない。
自分にそう言い聞かせてきた。
だけどミーシャの本音を知った以上、ミーシャと共にいてもギデオンが幸せになることはないだろう。
待っているのはまた愛のない生活だ。
「……あなたに殿下を想う気持ちがないのなら、私は諦めないわ!だって殿下を愛しているもの。婚約破棄なんて絶対に受け入れない……っ!」
そう言うとシェリルは国王に向き直った。国王はシェリルの迫力に飲まれてしまっている。
優秀な成績で妃教育を終え、淑女の鏡と言われるシェリルが感情を曝け出していることに驚いているのだ。
「陛下、発言をお許しいただけますか」
発言の許可を求めるシェリルに国王はコクコクと頷く。
既に随分話しているけれど、それを指摘する者はいなかった。結局国王が許せばそれで良いのだ。
許可を得たシェリルは覚悟を決めた表情で口を開く。
「先程殿下との婚約破棄を承りましたが、前言撤回致します。婚約破棄は受け入れられません。私はギデオン殿下と添い遂げたく存じます」
「おい、シェリル!」
アンダーソン公爵が慌てた声を上げる。
だけど振り返ったシェリルが視線を送ると、渋々といった表情で口を閉ざした。ここが国王の面前であることを理解しているのだ。
それにアンダーソン公爵も公爵夫人も、シェリルがギデオンを愛していると知っている。邸を出る前、兄のイアンが心配していたのもそのことだ。
婚約破棄を告げられてもシェリルは傷つくことになるが、反対に破棄が認められず、ギデオンに王位を継がせる為に「結婚しろ」と言われていても、シェリルはきっと受け入れていた。
だけどそうしたらシェリルは、エリザベートばかりを大事にして少しもこちらを顧みない国王を待ち続けるルイザと同じ思いをすることになる。
華やかに見える王宮には、影となる部分が存在するのだ。
ギデオンは呆けた頭で考える。
だけど目の前には息を荒げてミーシャを睨みつけるシェリルと頬を押さえるミーシャがいるのだ。
考えなくても答えは明らかだった。
自分の身に何が起きたか理解できずにギデオンと同じく呆けていたミーシャだったが、すぐに気を取り直す。シェリルをキッと睨みつけ、「何をするのよ!」と声を上げた。
だけどシェリルはもうミーシャを尊重するつもりはない。
「あなたがそんな方だったなんて!そんな方だったなんて……っ!!」
言いながら怒りで体が震えてくる。
叩き込まれた淑女としての振る舞いなんて、どこかへ消えてしまっていた。
「私がギデオン殿下を諦めたのは、あなたなら殿下を幸せにしてくれると思ったからよ……っ!あなたと過ごす殿下は嬉しそうで楽しそうで……っ」
言いながら涙がポロポロ溢れてくる。
ギデオンの幸福を願っていたけれど、他の女性と過ごすギデオンを見るのが辛くなかったわけではないのだ。
私にもあんな風に笑いかけて欲しい。
愛し気に名前を呼んで欲しい。
形式ばったエスコートではなく、恋人のように手を繋いで歩いてみたい……。
そんな気持ちを押し殺してきたのは、これまで見たことがないくらいギデオンが幸せそうだったからだ。
王宮にいても心から安らげることのないギデオンをミーシャが癒してくれている。
本当はその役目をシェリルが果たしたかったけれど、ギデオンがミーシャを選んだのなら仕方がない。
自分にそう言い聞かせてきた。
だけどミーシャの本音を知った以上、ミーシャと共にいてもギデオンが幸せになることはないだろう。
待っているのはまた愛のない生活だ。
「……あなたに殿下を想う気持ちがないのなら、私は諦めないわ!だって殿下を愛しているもの。婚約破棄なんて絶対に受け入れない……っ!」
そう言うとシェリルは国王に向き直った。国王はシェリルの迫力に飲まれてしまっている。
優秀な成績で妃教育を終え、淑女の鏡と言われるシェリルが感情を曝け出していることに驚いているのだ。
「陛下、発言をお許しいただけますか」
発言の許可を求めるシェリルに国王はコクコクと頷く。
既に随分話しているけれど、それを指摘する者はいなかった。結局国王が許せばそれで良いのだ。
許可を得たシェリルは覚悟を決めた表情で口を開く。
「先程殿下との婚約破棄を承りましたが、前言撤回致します。婚約破棄は受け入れられません。私はギデオン殿下と添い遂げたく存じます」
「おい、シェリル!」
アンダーソン公爵が慌てた声を上げる。
だけど振り返ったシェリルが視線を送ると、渋々といった表情で口を閉ざした。ここが国王の面前であることを理解しているのだ。
それにアンダーソン公爵も公爵夫人も、シェリルがギデオンを愛していると知っている。邸を出る前、兄のイアンが心配していたのもそのことだ。
婚約破棄を告げられてもシェリルは傷つくことになるが、反対に破棄が認められず、ギデオンに王位を継がせる為に「結婚しろ」と言われていても、シェリルはきっと受け入れていた。
だけどそうしたらシェリルは、エリザベートばかりを大事にして少しもこちらを顧みない国王を待ち続けるルイザと同じ思いをすることになる。
華やかに見える王宮には、影となる部分が存在するのだ。
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