影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
5 / 140
1章 ~現在 王宮にて~

4

しおりを挟む
 頭を抱えて蹲るギデオンに国王は困惑していた。
 国王にとって、正妃に迎える令嬢の身分が限定されているのは当然のことだ。
 この国を古くから支えている貴族たちは功績を重ねて高い地位についている。反対に子爵や男爵といった低位貴族の多くはここ数代で爵位を与えられたばかりの新興貴族だ。
 貴族間の信頼も人脈も高位貴族と低位貴族では段違いである。低位貴族では王太子の後ろ盾にはなれない。

 国王は自分が父親としてギデオンに深く関わってこなかったことを自覚していた。
 顔を合わせるのも言葉を交わすのも必要な時だけだ。

 側妃にもギデオンにも申し訳ないと思う。
 だけど国王が愛しているのは……、正妃であるエリザベートだけなのだ。

「そなたの芳しくない噂はわたしの元にも届いていた。カッとなりやすく他家の子息たちとよく揉め事を良く起こしていることも、乱暴な言葉遣いを恐れた令嬢たちがそなたから距離を置いていることも、な」

 王太子の動向はどんなことでも国王へ報告されることになっている。
 国王も息子としては愛情を掛けていなくても、世継ぎとしては気に掛けていた。なんといっても愛する王妃エリザベートを悲しませ、苦しめても迎えた側妃が生んだ唯一の王子なのだ。まだ学園に入学する前の、幼い子どもの頃は言葉遣いや物に当たるを直接注意したこともあった。

 だけどギデオンは学園に入学した後もそのが治らなかった。
 学園は社交界に出る前の準備期間だ。側近として取り立てるような信頼できる友人を作り、人脈を広げるのも学園へ通う目的である。
 それなのにギデオンは子息たちと揉め事ばかりを起こし、令嬢たちには避けられていた。
 ギデオンの代わりに頭を下げ、間に入って関係を取り持ってくれるシェリルがいなければどうなっていたのかと頭を抱えたことも一度や二度ではない。

 だがそんなギデオンの問題行動が、ディゼル男爵令嬢と過ごすようになってからパタリと止んだのだ。
 最も正式な婚約者を持ちながら男爵令嬢と懇意になること自体が問題行動なのだが、ともかく他家の子息と揉め事を起こすことも、物に当たって備品を壊すこともなくなっていた。

「ディゼル男爵令嬢と過ごす時間がそなたに安らぎをもたらすのかもしれない。だからわたしは、そなたがディゼル男爵令嬢を愛妾として迎えるといっても反対するつもりはなかった。勿論シェリル嬢と婚姻を結び、1年以上期間を開けてから、シェリル嬢の許可があれば、だがな」

 だけどギデオンは男爵令嬢を愛妾にする道を選ばなかった。
 大勢の前でシェリルに婚約破棄を告げ、男爵令嬢と婚約するという。
 王太子妃は侯爵家以上の家柄の娘でなければならない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 だから王位を捨て、王籍を抜けてでも男爵令嬢と生きていく道を選んだのだと思ったのだ。

 1人の女性ひとを愛したら他の女性は目に入らない。
 そんな性質を知ってしまっているから、そんなところはわたしに似たのだな、と妙な感心をしたくらいである。

「そなたには父親として何もしてやることができなかった。それは申し訳ないと思っている。これまで何もしてやれなかった分、王位を捨ててでも愛する者と結ばれたいというそなたの願いを、何としてでも叶えてやりたいと思ったのだ……」

 だけどそれが良いことなのか、既にわからなくなっていた。ギデオンには王太子位を降りるつもりなどなかったのだ。
 頭を抱えて蹲る息子を見て、国王は途方に暮れていた。
 

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

処理中です...