夏の思い出

朱里 麗華(reika2854)

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夏の思い出

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 ゆうりは1人、海辺を歩いていた。
 波打ち際。
 時折足元の砂を蹴り上げながら歩く。
 人が見たら何をしていると思うだろうか。

――何もしていないと思うだろう。
 ただ歩いているだけ。

 そう見えるように歩いている。
 決して探し物をしているようには、見えないように。

 昨日ゆうりは上の通りから指輪を捨てた。
 左手の薬指を飾っていた7号の指輪。
 海へ届いたようには見えなかったけれど、波間を漂っているのだろうか。それとも砂に埋もれているのだろうか。

 少なくとも、こんな探し方では見つけられないだろう。
 だけどしゃがみ込んで、砂をかき分けて、必死に――。
 そんな探し方はしたくなかった。
 必死になっていると思われるのは嫌だ。


 自分だけの探し物。
 見つかれば嬉しいけれど、見つからなくてもそれで良い。

 あの指輪をくれたあいつは、昨日も他校の女の子に囲まれて笑っていた。
 ノリが良く、人好きのするお祭り男であるあいつは人気がある。
 そんなことぐらいわかりきっていたのに。


 同じクラスの友人グループ皆で遊びに行った日。
 人混みに流されて逸れてしまったゆうりを探しに来てくれたあいつ。

 その日たまたま出ていた露店で指輪を買ってくれた。
 左手の薬指にはめてくれた。
 嬉しかった。
 ずっとずっと好きだったから、気持ちが届いていたのだと有頂天になった。

 だけどあいつは変わらない。
 ゆうりは今でも仲が良いクラスメイトの1人に過ぎない。
「なんで私に指輪を買ってくれたの?」
 そう訊いたら、「そこにいたのがたまたまおまえだったから」と、そう答えるに違いない。


 ノリが良く、人好きのする人気者のお祭り男。
 そんなあいつが好きだから、ゆうりは何も言えずにいた。
 あの指輪に意味はないと、思い知るのが怖かったから。
 だけど。

 昨日ゆうりの目の前で他の女とふざけて抱き合う姿を見て、ゆうりは1人店を出た。
 家へと続く海岸沿い。
 家の近いあいつと何度も一緒に歩いたその道から、指輪を海へ捨てたのだ。
 意味のない指輪を持っているのが辛かったから。

 だけど今日。
 教室に入ったゆうりに何事もなかったように笑いかけてきたあいつ。
 男友達とふざけ合いながら、ゆうりを見つけて笑った笑顔。
 その笑顔を見た時に、霧が晴れたように見えた気持ちがあった。

 あいつが私をどう思っているかじゃない。
 私が、あいつを好きなんだ。

 あいつが笑っている顔が好きで、ずっと笑っていて欲しい。

 そう想えた時、ゆうりは指輪を捨てたことを後悔した。
 あいつがゆうりを好きなのか、友達の1人なのか。本当のところはわからない。
 だけど指輪を買って、指にはめてくれたあの時だけは。
 あいつもゆうりを想ってくれていると信じられたから。

 たとえそれが幻想であったとしても、誰にも邪魔されないゆうりだけの真実。
 それだけで良い。


 そしてゆうりは今、指輪を探している。
 誰にもわからないように。
 3/4くらい諦めていたって、それがゆうりの気持ちだから。

 まだ好きで、これからも好きなままで良いと思えたから。



 コツン…と踏み出した足に軽い感触があった。
 掘り返されて、陽の光を浴びて煌めく小さな輪っか。

 ゆうりは屈んでその小さな輪っかを拾い上げた。
 握り締めたその顔には鮮やかな笑顔が浮かんでいた。




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