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ナナ、あれ?
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「結局、なんだったんだろうね」
「ん?」
大事を取って数日学校を休むことになったハッチにプリントを届ける途中、呟いたムツ君の言葉に私は首をかしげた。
一体、なんの話だろ?
「ドアトントン。一体、なんで妖怪なんかになっちゃったんだろうな」
「んー……。遊んでもらえなくて、寂しかったからって言ってなかった?」
「それはわかるけど、そんなことを言ったらどんなものも妖怪化しない? うちにも遊ばなくなった玩具も使わなくなったものも沢山あるし。けど、どれも妖怪になってないだろ? なんでドアトントンは妖怪になっちゃったんだろうな」
「そう、だね」
うちにもあるかも。遊んでないぬいぐるみは私のクロ―セットの天井高くに仕舞ってあるし、ママが買っても使わなかったものも家の押し入れに入っていたりする。
「きっと、遊んでくれていた子がすごく大事にしてくれていたんじゃないかな? その思い出がずっとずっとあって、もしかしたらその子を探していたのかも」
その子がお人形遊びをする時、必ずドアトントンに言ったのかもしれない。優しく、楽しそうに。
『一緒に遊ぼう』
と。
「でも、大人になるにつれ、ドアトントンのことを忘れちゃったんだと思うの。私だって、幼稚園の時に遊んでいたぬいぐるみやおままごとセットなんて遊ばないし」
「そうだね。もし俺がククのぬいぐるみだったら寂しいかもね」
「ムツ君とはまだ遊んでるし、ぬいぐるみじゃないでしょ?」
ムツ君がぬいぐるみになったら、きっと学校中の女子たちが取り合いをしちゃうよ。
「ははそうだけどね。だけど、ククと話していたらドアトントンの寂しさが少しわかった気がしてさ」
ずっと一人で暗い暗い蔵の中で、遊ぼうと声をかけられるのを待っている寂しさ。
私には想像することさえできないぐらい、寂しくて、惨めで、悲しかったんだね。
「……今日帰ったらママと相談して、遊ばなくなったぬいぐるみを誰かにプレゼントしたりできないかって聞いてみようかな」
「いい案だと思うよ」
「うん。狭い場所に一人は寂しいもんね」
人じゃないからって、大切にしないなんておかしいよね。
おもちゃだって、ものだって。心があるのかもしれない。
きっとドアトントンみたいに、妖怪にも。
「ねぇねぇ、知ってる?」
後ろで何処かで聞いた声がする。でも、振り向いてもそこにいたのは違う学校の女の子たち。
「あ。川の向こうの学校の子たちだ。今日帰るのが早いんだな」
「だね」
いいなーとボヤくムツ君に笑う私たちの隣を、女の子たちはキャッキャッと騒ぎながら、追い越して通り過ぎて行く。
「子供って元気だね」
「たまにムツ君、そういうこと言うから大人っぽく思われているんじゃない? ムツ君も子供なのに」
そう笑う私の横を、二つの長い三つ編みを垂らした赤いランドセルの女の子が見えた。
「なら、呼んでみない? 今から学校でっ」
そう笑う、女の子を見て私は口を開いた。
「あれ? 私達、何か忘れてる?」
おわり
「ん?」
大事を取って数日学校を休むことになったハッチにプリントを届ける途中、呟いたムツ君の言葉に私は首をかしげた。
一体、なんの話だろ?
「ドアトントン。一体、なんで妖怪なんかになっちゃったんだろうな」
「んー……。遊んでもらえなくて、寂しかったからって言ってなかった?」
「それはわかるけど、そんなことを言ったらどんなものも妖怪化しない? うちにも遊ばなくなった玩具も使わなくなったものも沢山あるし。けど、どれも妖怪になってないだろ? なんでドアトントンは妖怪になっちゃったんだろうな」
「そう、だね」
うちにもあるかも。遊んでないぬいぐるみは私のクロ―セットの天井高くに仕舞ってあるし、ママが買っても使わなかったものも家の押し入れに入っていたりする。
「きっと、遊んでくれていた子がすごく大事にしてくれていたんじゃないかな? その思い出がずっとずっとあって、もしかしたらその子を探していたのかも」
その子がお人形遊びをする時、必ずドアトントンに言ったのかもしれない。優しく、楽しそうに。
『一緒に遊ぼう』
と。
「でも、大人になるにつれ、ドアトントンのことを忘れちゃったんだと思うの。私だって、幼稚園の時に遊んでいたぬいぐるみやおままごとセットなんて遊ばないし」
「そうだね。もし俺がククのぬいぐるみだったら寂しいかもね」
「ムツ君とはまだ遊んでるし、ぬいぐるみじゃないでしょ?」
ムツ君がぬいぐるみになったら、きっと学校中の女子たちが取り合いをしちゃうよ。
「ははそうだけどね。だけど、ククと話していたらドアトントンの寂しさが少しわかった気がしてさ」
ずっと一人で暗い暗い蔵の中で、遊ぼうと声をかけられるのを待っている寂しさ。
私には想像することさえできないぐらい、寂しくて、惨めで、悲しかったんだね。
「……今日帰ったらママと相談して、遊ばなくなったぬいぐるみを誰かにプレゼントしたりできないかって聞いてみようかな」
「いい案だと思うよ」
「うん。狭い場所に一人は寂しいもんね」
人じゃないからって、大切にしないなんておかしいよね。
おもちゃだって、ものだって。心があるのかもしれない。
きっとドアトントンみたいに、妖怪にも。
「ねぇねぇ、知ってる?」
後ろで何処かで聞いた声がする。でも、振り向いてもそこにいたのは違う学校の女の子たち。
「あ。川の向こうの学校の子たちだ。今日帰るのが早いんだな」
「だね」
いいなーとボヤくムツ君に笑う私たちの隣を、女の子たちはキャッキャッと騒ぎながら、追い越して通り過ぎて行く。
「子供って元気だね」
「たまにムツ君、そういうこと言うから大人っぽく思われているんじゃない? ムツ君も子供なのに」
そう笑う私の横を、二つの長い三つ編みを垂らした赤いランドセルの女の子が見えた。
「なら、呼んでみない? 今から学校でっ」
そう笑う、女の子を見て私は口を開いた。
「あれ? 私達、何か忘れてる?」
おわり
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