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三、だれ?(2)
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公園の近くにある図書館に入ると、私たちは別々の方向へ歩みだした。
ムツ君はインターネットが使えるパソコンがあるブースへ。ゴローちゃんは図書館案内のボランティアをしていたお婆さんの方へ。
そして私は、妖怪図鑑や怪談がある本棚へ。
ここに怖い本があるのは標識や案内で知っていたけど、この棚の前に立つのは初めてなの。
だって、私はずっと怖いものが嫌いだったから。
遠くの棚からも目が合いそうな鬼の怖い表紙や、おどろおどろしい血みたいな赤い色がまんべんなく塗られている本。
それらが目に飛び込んで来たら、すぐさまママの後ろに隠れて逃げ出していた。
けど、今の私はそんなことなんてしない。
私は怖さを吐き出すように長く息を吐くと、目に入った妖怪図鑑に怪談話、地獄の扉などの本を手に取っては次々とページをめくる。
ところせましと怖い顔や気味の悪い姿、身の毛もよだつような恐ろしい単語が並ぶ中で『ドアトントン』の文字を探す。
「ない……」
けど、どれだけページをめくっても、ドアの文字すらない。
そもそも、ドアトントンって妖怪なの?
おばけって、妖怪でも幽霊でもないの?
今まで逃げてきたから、私にはおばけの知識がまったくない。
こんなことなら、笑われながらでも少しずつみんなの怖い話をきいておけばよかった。もっと早く逃げずに立ち向かえばよかった。
後悔は途切れないけど、目も手も休めない。
早く見つけなくっちゃ。
焦りながら妖怪図鑑、怪談話をめくっているとふいに手が止まる。
でも、そのページには、ドアの文字もトントンの文字もどこにもなかった。
そこにいたのは、聞いたこともない妖怪。
「呼び、女?」
右端には太い文字で書かれていたその妖怪の名前を口に出す。彼女の名前が書かれた見開きのページには、妖怪の姿とその妖怪の情報、説明が見開き二ページにわたり書かれていた。
「呼び、女……」
繰り返し唱えてみる。
うん。名前的には怖くない。
ページに書かれている絵だって、怖い姿ではなく二つの長い長い三つ編みを垂らして微笑んでいる赤い着物を着た女の子。
前のページや後ろのページで描かれている妖怪たちとは違って、私たちと変わらない姿をしている。
こんな姿では女って呼ぶのに違和感を感じてしまう。だって、女って言ったら大人の女性をさすことが多いでしょ? この呼び女は私たちと変わらない子供だもん。少女の方がしっくりくるんじゃないかな。呼び少女って。
でも、彼女の説明を呼んでいるとそんな考えは吹き飛んでしまった。
なんでもこの呼び女さんは、江戸時代初期からいるらしい。ということは、何百歳……。これは流石に、大人の女性かも。私たちと同じだからって、全部が同じなわけじゃない。見た目だけで決まらないのは、人間だけじゃないよね。妖怪も一緒だよ。
心の中で呼び女さんに謝りながら文字を追っていくと、彼女の仕事についての説明が書かれていた。なんでも、他の妖怪や怪談を呼び百鬼夜行の手伝いとかをしてあげる妖怪なんだって。地方によっては、かのぬらりひょんの娘だと言われているみたい。
「ぬらりひょん……」
確か、妖怪の一人だったよね。少し前にママに買ってもらった和風ファンタジー小説で名前がでていたことを思い出す。
能力も地獄に引きずり込むとか怖いものではなくて、いつのまにか家にいて知らないはずなのに誰も気付かずその家の主人だとみんなが思っちゃうんだよね。
本を読んだとき、私もなんだその能力っ! て、驚いちゃったから覚えているの。もちろん、怖くないこともとても印象的なんたけど、それよりも知らない人が家の中にいたら絶対に気付くと思わない?
ムツ君やハッチがドアトントンなんてドアを開けなければいいと言っていたのと同じだと思うけど、学校ならまだしも家の中なら誰だって気付くでしょ? だって、家族の顔は毎日見ているもの。
友達だってそう。
ずっと一緒にいる友達なら覚えているもの。
どこかのクラスで一人増えたと言われても気付かないけど、同じクラスでも、それがいつも遊んでいる仲のいい友達だったら気付くものでしょ?
私だって、いつも遊んでいる四人組に誰か知らない人がいたらすぐに気付くもの。
私、ハッチ、ムツ君、ゴローちゃん、ナナ。
いつも仲良く遊んでる私たちの中に一人だけ……。
「……あれ?」
おかしくない?
あれ?
一人、多く……。
「ククっ」
「きゃっ!」
突然背中を叩かれ、私は驚いて持っていた本を落としてしまう。
うわわわっ。び、びっくりした。まだ心臓がドクドク鳴っているよ……。
「む、ムツ君?」
後ろを振り返ると、ムツ君がいた。
「ごめん。名前呼んでも気付いてくれなかったからさ」
「え。名前呼んでくれていたの? まったく気付かなかった……」
「ずいぶん本に集中していたんだな。ドアトントンのこと、わかった?」
「あ、うんん。まだ名前すら見つけられなくて……」
私は急いで本を広い、棚に返した。
私、何を読んでいたっけ? 驚き過ぎて忘れちゃったけど、ドアトントンのことではないよね。
「ムツ君の方はどう?」
インターネットなら、なにかしらの手がかりは本より集めやすいんじゃないかな。
「いや、俺もダメだった。なにもヒットしない」
「そっか……」
そうなると、やはりナナの言っていた本を探す他ないのかな……。まだ、私が読んでいた棚には沢山の本がある。三人で手分けをしても今日中は難しいかも。
でも、そんな弱気なこと言っちゃダメだよね。私がムツ君に本は任せてもらっているし、私がなんとかしないとっ。
「ムツ君っ、私っ」
提案しようと手をあげると、ムツ君が先に口を開いた。
「でも、ゴローが『なにか』を見つけたぞ」
「え?」
開いたのは口だけじゃない。その時開いたのは、突破口もだった。
ムツ君はインターネットが使えるパソコンがあるブースへ。ゴローちゃんは図書館案内のボランティアをしていたお婆さんの方へ。
そして私は、妖怪図鑑や怪談がある本棚へ。
ここに怖い本があるのは標識や案内で知っていたけど、この棚の前に立つのは初めてなの。
だって、私はずっと怖いものが嫌いだったから。
遠くの棚からも目が合いそうな鬼の怖い表紙や、おどろおどろしい血みたいな赤い色がまんべんなく塗られている本。
それらが目に飛び込んで来たら、すぐさまママの後ろに隠れて逃げ出していた。
けど、今の私はそんなことなんてしない。
私は怖さを吐き出すように長く息を吐くと、目に入った妖怪図鑑に怪談話、地獄の扉などの本を手に取っては次々とページをめくる。
ところせましと怖い顔や気味の悪い姿、身の毛もよだつような恐ろしい単語が並ぶ中で『ドアトントン』の文字を探す。
「ない……」
けど、どれだけページをめくっても、ドアの文字すらない。
そもそも、ドアトントンって妖怪なの?
おばけって、妖怪でも幽霊でもないの?
今まで逃げてきたから、私にはおばけの知識がまったくない。
こんなことなら、笑われながらでも少しずつみんなの怖い話をきいておけばよかった。もっと早く逃げずに立ち向かえばよかった。
後悔は途切れないけど、目も手も休めない。
早く見つけなくっちゃ。
焦りながら妖怪図鑑、怪談話をめくっているとふいに手が止まる。
でも、そのページには、ドアの文字もトントンの文字もどこにもなかった。
そこにいたのは、聞いたこともない妖怪。
「呼び、女?」
右端には太い文字で書かれていたその妖怪の名前を口に出す。彼女の名前が書かれた見開きのページには、妖怪の姿とその妖怪の情報、説明が見開き二ページにわたり書かれていた。
「呼び、女……」
繰り返し唱えてみる。
うん。名前的には怖くない。
ページに書かれている絵だって、怖い姿ではなく二つの長い長い三つ編みを垂らして微笑んでいる赤い着物を着た女の子。
前のページや後ろのページで描かれている妖怪たちとは違って、私たちと変わらない姿をしている。
こんな姿では女って呼ぶのに違和感を感じてしまう。だって、女って言ったら大人の女性をさすことが多いでしょ? この呼び女は私たちと変わらない子供だもん。少女の方がしっくりくるんじゃないかな。呼び少女って。
でも、彼女の説明を呼んでいるとそんな考えは吹き飛んでしまった。
なんでもこの呼び女さんは、江戸時代初期からいるらしい。ということは、何百歳……。これは流石に、大人の女性かも。私たちと同じだからって、全部が同じなわけじゃない。見た目だけで決まらないのは、人間だけじゃないよね。妖怪も一緒だよ。
心の中で呼び女さんに謝りながら文字を追っていくと、彼女の仕事についての説明が書かれていた。なんでも、他の妖怪や怪談を呼び百鬼夜行の手伝いとかをしてあげる妖怪なんだって。地方によっては、かのぬらりひょんの娘だと言われているみたい。
「ぬらりひょん……」
確か、妖怪の一人だったよね。少し前にママに買ってもらった和風ファンタジー小説で名前がでていたことを思い出す。
能力も地獄に引きずり込むとか怖いものではなくて、いつのまにか家にいて知らないはずなのに誰も気付かずその家の主人だとみんなが思っちゃうんだよね。
本を読んだとき、私もなんだその能力っ! て、驚いちゃったから覚えているの。もちろん、怖くないこともとても印象的なんたけど、それよりも知らない人が家の中にいたら絶対に気付くと思わない?
ムツ君やハッチがドアトントンなんてドアを開けなければいいと言っていたのと同じだと思うけど、学校ならまだしも家の中なら誰だって気付くでしょ? だって、家族の顔は毎日見ているもの。
友達だってそう。
ずっと一緒にいる友達なら覚えているもの。
どこかのクラスで一人増えたと言われても気付かないけど、同じクラスでも、それがいつも遊んでいる仲のいい友達だったら気付くものでしょ?
私だって、いつも遊んでいる四人組に誰か知らない人がいたらすぐに気付くもの。
私、ハッチ、ムツ君、ゴローちゃん、ナナ。
いつも仲良く遊んでる私たちの中に一人だけ……。
「……あれ?」
おかしくない?
あれ?
一人、多く……。
「ククっ」
「きゃっ!」
突然背中を叩かれ、私は驚いて持っていた本を落としてしまう。
うわわわっ。び、びっくりした。まだ心臓がドクドク鳴っているよ……。
「む、ムツ君?」
後ろを振り返ると、ムツ君がいた。
「ごめん。名前呼んでも気付いてくれなかったからさ」
「え。名前呼んでくれていたの? まったく気付かなかった……」
「ずいぶん本に集中していたんだな。ドアトントンのこと、わかった?」
「あ、うんん。まだ名前すら見つけられなくて……」
私は急いで本を広い、棚に返した。
私、何を読んでいたっけ? 驚き過ぎて忘れちゃったけど、ドアトントンのことではないよね。
「ムツ君の方はどう?」
インターネットなら、なにかしらの手がかりは本より集めやすいんじゃないかな。
「いや、俺もダメだった。なにもヒットしない」
「そっか……」
そうなると、やはりナナの言っていた本を探す他ないのかな……。まだ、私が読んでいた棚には沢山の本がある。三人で手分けをしても今日中は難しいかも。
でも、そんな弱気なこと言っちゃダメだよね。私がムツ君に本は任せてもらっているし、私がなんとかしないとっ。
「ムツ君っ、私っ」
提案しようと手をあげると、ムツ君が先に口を開いた。
「でも、ゴローが『なにか』を見つけたぞ」
「え?」
開いたのは口だけじゃない。その時開いたのは、突破口もだった。
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