ドアトントン

富升針清

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二、遊んで、遊んで(3)

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 体が震えだしそうなぐらい怖かった。
 大人から助けてもらえないかもしれないってことが、どうしようもなく怖かった。
「……クク、大丈夫か?」
「ムツ君……、ごめん。私……」
 嫌なこと、怖いこと。そんなことばかりが私の頭に詰め寄ってきて、どうしていいのかわからなくて泣きそうになる。
 そんな私の手に、温かい温度が触れた。
 温度の先を見れば、ゴローちゃんが心配そうに私を見ている。
 その瞬間、はっとなった。
 ゴローちゃんは実際に私が考えた恐怖を体験したんだ。私よりも小さくて、怖がりのゴローちゃんが。
 私はぐっと涙を押し込むと、ナナの方を向いて口を開いた。
 まだ、私たちにはきっと出来ることがあるはずだ。
「ねぇ、ナナ。ドアトントンからハッチを取り返す方法はないの?」
 ナナはドアトントンが呼び出した人しか音が聞こえないことを知っていた。他にもドアトントンの秘密があれば知っているはず。
「確か、ドアトントンが遊べなくなったら、さらわれた人も戻ってくるみたい」
「遊べなくなる?」
 それって、どんな状況?
「倒したらってことか?」
「詳しくはわからないけど、倒したら遊べなくなるし、そうなんじゃないかな」
「倒すって退治するってこと?」
「お化けを? それって超能力とかいるよね?」
「ゲームとかだと、お札とかあるよな」
「お札なんて私たちで用意できないよ?」
 私たちはなんたって普通の小学生だもん。お化けと戦う超能力なんて使えるはずもなければ、お化けに効くお札なんて持っているわけもない。
「だよな……。お化け退治なんて初めてなにをするべきなのかも、俺たちにはわからないもんな……」
「うん……」
 ムツ君の言うとおりだ。私たちは何も知らなすぎる。
 けど。
「知らないからってなにもしないのはおかしいよ」
 私はムツ君の手を握る。
「クク?」
「知らないからこそ、いろんなことを考える必要があるんじゃないかな。私たち、四人もいるんだもん。きっといい案が浮かぶはずだよっ」
 初めてこんなにも弱気なムツ君を見た気がする。ムツ君はいつもだれかを勇気づけてくれる人だったから。
 私も幼稚園の時から勇気づけられている一人だった。
 だからこそ、今日だけは私が。
「ゴローちゃんは何かない?」
「へ? オレ? えっと……、あっ。お化けには塩が効くって爺ちゃんが言ってた!」
「お塩?」
 おばけをしょっぱくするの?
「それはお清めの塩だね」
「お清めの塩?」
 わからないことだらけで、言葉を繰り返すことしかできない。
「そう。名前通り、清めるための塩だよ。悪いものを払い断ち切って綺麗になるために体に振りかけたりするの」
「あ、俺も知ってる。葬式の後とかにするんだよな?」
「そうそう。家に悪いものがついてこないようにね」
「それって、特別なお塩なの?」
 悪いものを払って、断ち切る。この悪いものの中にドアトントンが入るなら、今の私たちに必要なものかもしれない。
「そこまでは俺にはわかんない。ごめん」
「あ、うんん、ごめん。私なんて、お清めの塩って言葉も初めて知ったぐらいなのに……」
 無神経に聞きすぎだよね、私ったら。
「んー。確か料理で使ってる普通の塩でもいいはずだよ」
「ナナ、それ本当っ!?」
「塩ならうちにあるぞっ! ちょっと待ってろ!」
「うん。本当なんだけど……」
「けど?」
「ドアトントンには効かないかもしれない」
「えっ!?」
 せっかくいい案だと思ったのにっ!
「ナナ、なんでだ?」
「悪いものの中にドアトントンが入らないから」
「ハッチをさらったのにっ!?」
「うん……。ごめんね、クク。ドアトントンを呼びだして遊んでと頼んだのは私たちの方。彼女はなにもわるいことをしてないの」
 そんな……。
 じゃあ、ドアトントンはどうしようもないの……? ハッチを助けられないの? 私たちは。
「……ナナ、なんでそんなことを知ってるんだ?」
「え? 借りてきた本に書いてあったからだけど? 私、そこからドアトントンを知ったの」
「ムツ君? どうしたの?」
「なら、その本には書いてなかったのか? ドアトントンの倒し方は」
「うーん……。多分書いてなかったと思う」
「本当に? よく思い出して」
「うーん。えっと……、うーん……」
 そう言いながらナナは私をずっと見つめていた。私の顔になにかがついていたりするの? 両手で隈なく自分の顔を触るけど何もついてないみたい。
 一体どうして?
「あっ!」
 私がナナを見つめ返して首を捻ると、笑った瞬間にナナが大きな声を出して急に立ち上がった。
「ナナ? なにか思い出したの?」
「うんっ。けど、みんなが知りたがっていた答えをそのままってわけじゃないの。ただはっきりとは書いてなかったけど、これかもって単語はあったのを思い出したの」
「本当にっ!?」
「十分だっ。それ、覚えているか?」
「うん。でも、私一人じゃ意味がわからなくて……。でも、皆で力を合わせたらきっと解けるよっ」
 ドアトントンを倒す方法がある。
 その事実に、私やゴローちゃんだけではなくムツ君までもが目を輝かした。
「で、その単語は?」
「それは、か……」
 ナナが私の手を見ながら単語を言いかけた瞬間、玄関から音がする。

 トントン、トントン。

 ドアを叩く音が。
「ひっ!」
 思わず、ゴローちゃんが悲鳴を上げて私たちは玄関のドアを緊張した面持ちで見つめることしかできなかった。
 もしかして、もしかして……。
 ドアトントンが来たの? 私をさらうために?
 いやっ! こないでっ!
 そう叫ぼうとした時、玄関の向こうからのんきな声が聞こえた。
「ただいまー。あれ? 誰もいないの? お母さん? ゴロー? 開けてよー」
 えっ?
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