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好き色変化
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好きかどうか、わからなくなってたのに。急に足を止めた私を振り返る彼。私はその彼の腕に指を伸ばした。
好きかどうか見極めなきゃ。好きじゃない相手だったらどうするの? 化粧をしながらミカはそう言っていたし、私もそう思うと今の今までそんな答えはどこにも無かった。
私は彼の袖を捕まえる。
ずっと、この距離が欲しかった。
求めてしまえばそんなものはどうでもよかった。求めた瞬間から、私は決めていたのに。どうしても、この人が好き。この人じゃなきゃ、ダメなんだ。私。
「……いい流れでは?」
今日書けた分を読み返して、私は一人頷く。
先輩との約束から五日。あれから私はひたすら小説に打ち込んでいた。
自分の恋路は横に置き、主人公たちの恋路をただひたすらに書き上げていた。
小説はことのほか順調で終わりまであと少し。
『これなら大きな直し、いらないんじゃない?』
現在進行形で私の小説を読んでくれているモモちゃんからはお墨付きを貰っている。
『ページ数も余裕が出て来たし、あと三日もあれば書ききれそうだね』
『うん。多分、大丈夫。まだ出す段階でもないのに、緊張するね』
『公募はねー。私も、たまに出すけど緊張するよ?』
『え、モモちゃん出してるの?』
『うん。でも、落ちてばっかり』
大人気恋愛Web作家のモモちゃんでさえ険しい道のりなのか。
そうなると、私なんかの作品って読んでもらう価値すらないんじゃない? と、思えてくる。
いつもみたいに、私なんて。そう打ち込もうとした指がピタリを私はピタリと止めた。私なんて。そんな言葉が、この作品に関係あるのか? そう思うと、指を止めざる得なかった。ダメなのはダメかもしれない。人の感覚なんてよくわからないし、書いてる私自身で客観的な判断は無理だ。でも、だからと言って私なんかの作品と落とす必要はないんじゃないだろうか? 私という存在のせいでこの話をダメだと思うのは、なんだか嫌だし、違う気がする。
それは、今まで書いてきた主人公たち自体を否定してしまうことしゃないのか。
書いているのは私だけど、恋を頑張っているのはこの主人公なのだから。
そこに私なんてって言葉は、とても場違いで、何よりもいらなくないか?
『私も多分、落ちると思う。色々、力不足とか感じるし……。けど、この話しかけて良かったし、私の中では百点満点。好きな話だし、最後まで頑張るよ』
『お、いいね。前向きなの私好き』
『主人公が前向きに頑張ってくれてるもん。私も、頑張らなきゃ』
私は、作者として、それと同時に読者としてこの物語の登場人物たちを尊敬してるし、愛している。彼らの物語の中に、自信がない私はいらないんだ。
こんなこと、今まで知らなかった。
『何かあった?』
『え?』
『アンズ、変わったなって思って』
変わった? 私が?
『そう、かな?』
『うん。本当は、いつ応募やめるって言うかなって思ってた』
『え? この話、ダメ?』
『そんなわけないじゃん! 私、すごく好き! 最高だと思ってる! そうじゃなくて、アンズはさ、こんなにいい話書くのに、すぐに自分じゃダメって言うじゃん?』
あ、そうだ。
『私の話なんてって』
それが、私の口癖だった。
『あれ、すごく悲しかったんだ。私、アンズの話初めて読んだ時、結構衝撃を覚えてさ。恋愛小説って、一口で言っても色々な種類があるじゃない? 現実的なものから、ファンタジー色が強いものまで。それでも大体恋愛の流れって決まってるし、読んでる私らだって書いてなくてもこの流れなんだなって無意識に感じて、書いてる私らも必要な場面だけを抜き出して書いて、他は省略なんてしちゃったりして、誰も彼も作業みたいな恋愛小説に慣れちゃってて。そんな中でアンズの話を読んだ時、私は驚いたの』
『どんな、風に?』
『アンズの作品はどれも一歩ずつ確実に近づき合う二人を誰よりも丁寧に綴ってあるの。そこに慣れ親しんだ省略なんてない。そこに一切手は抜いてないし、妥協もない。すごいよね。ああ、恋愛ってこういうものだなって、恋愛小説を読んで私も恋愛がしてみたいと思ったのはアンズの話が初めてだった』
初めて聞くモモちゃんの告白に、胸が熱くなる。
私の物語をこんな風に思ってくれてる人がいるんだ。私の物語をこんなにも愛してくれるている人がいるんだ。
『だからね、いくらアンズからでも自分の話なんてって言われるのが悲しかったんだ。だから、公募を出せば自信もつくしいいところまで行けば、やっぱりアンズの書く話は凄いんだって、アンズ自身もわかってくれるかと思って勧めたの。アンズがやっぱり自信がなくてやめると言ったら、私がどんな手を使ってでも自信をつけて書き切らせてやるってずっと思ってたの。けど、杞憂だったね』
『……ごめん』
私の自信のなさに傷つく人がいるなんて思いもしなかった。
『今まで、自信のなさを自分の書く小説になすりつけていたかも。読まれなくて、目立たなくて安心してるのに、どこかでモモちゃんや他の人と比べては落ち込んで、その矛盾を埋めるように自分の小説を落としてたんだと思う。私、少しだけ変わったかも。私、小説書くの、やっぱり好き。私は憧れのモモちゃんみたいになれないけど、私は、私だけの小説を書けるんだって、気付いたの。まだ人と比べて自信ないかもしれないけど、これはモモちゃんが公募を勧めてくれたお陰で気づけたことだと思う。モモちゃんのお陰だよ! ありがとう』
私にしかかけない話を、私なんてとくだらない言葉で水を差す。私なんかが調子に乗って、私なんかが皆んなに好かれるんけもなく、私なんかの小説なんて何の価値があると言うのか。そんな言葉で汚して来たんだな。
今モモちゃんに言われて、はじめて自分の愚かさに気づいた。
きっと、いつものように公募から逃げてたら知らず知らずに、今もまだ私が私を守るためにモモちゃんを傷つけてしまっていただろう。
『そうだよ。私は、私がアンズの作品が好きだからずっと応援してる。好きだから、心を動かされたから、アンズの小説に感想を送ったの。アンズにしか書けない話はこんなにすごいのにって、ずっと思ってたんだ』
『ありがとう』
おかしな話だけど、はじめてモモちゃんの言葉を素直に飲み込めたと思う。
いつも、そんなことないよ。モモちゃんの方が凄いよ。そんな言葉が次に出てたのに。
勿論、モモちゃんの方が凄いのは当たり前なんだけど、今、それを褒められた免罪符として使いたくなかった。
『モモちゃん、いつも応援してくれて、ありがとう』
ありがとう。
心の底から、貴女に褒められて誇らしいという気持ちが湧き上がって来た。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「えっ? 今日出さないの?」
「うん。結局、最後の最後まで見直したいって気持ちになって、明日出すことにしたの」
「明日って、明日が締め切りでしょ? 大丈夫?」
「うん。学校終わってたから郵便局にいけば十分間に合うし、大丈夫だよ」
「ポスト投函しないの?」
「あれだけ分厚いと、切手の値段合ってるか自信ないから……」
ついに、明日。小説を賞に出す日がやって来た。
「結局、今回は最後まで私たち読めずだったね」
「うん。本当は読んで欲しかったけど、そんな時間取れなくて……」
いつもは、小説が書き終わると二人に読んでもらっていた。
けど、今回は締め切りの時間も決まっていて、結局直前まで手直しをしたいと思い二人には読んでもらう時間がなかったのだ。
「えー。いいじゃん、賞取ったら本で読めるでしょ? それまで楽しみにしてれば」
「く、クマ?」
え? 私の小説が? 賞を?
「流石に、それは無理だって。初めてだし」
多少自信がついたとはいえ、それは流石に大きく出すぎ。そこまでなんて絶対いけないって。
「それもそうだね。クマちゃん頭いい」
「でっしょ?」
「二人とも、ちょっとそれは言い過ぎだから。モモちゃんでさえ、落ちてるんだよ?」
慌てて否定しようとする手を、二人が握って止める。
「私達は、そう信じてるし」
「そう。伊鶴の話なら、いけるって」
そう笑う二人に、私は手を止める。
そうか。この二人にも、私はモモちゃんと同じことをしていたんだな。
「……うん。有難う」
少しだけ、気恥ずかしい。
私なんかが、随分と驕るじゃん? そんな心の声が聞こえてくるけど、今ならそれに聞こえないふりができる。
「でも、頑張ったから送った後に読んでよ。すぐ読んで欲しいし」
「伊鶴は欲張りだなー。仕方がないなー!」
「伊鶴がそうして欲しいなら喜んで」
私、ずっとこんないい友達に囲まれて来たのに、気づかなかったなんだ。
傷つくこともあるけど、それだけじゃない。顔を上げて初めて気付くこともあるんだな。
縮こまって、膝を抱えてたから何も見えなかった。
その時だ。
「また小説書いてるって言ってる」
「えー。恥ずかしくないのかな?」
「もう中学生なのにね」
私達が話してる隣を、クラスの女子たちがそう喋りながら、クスクス笑って通り過ぎる。
そうだよね。こんな声ばかりが大きく聞こえて、余計に自分が恥ずかしい存在だと感じて、縮こまってた。
「伊鶴、気にすることないよ!」
「そうだよ。あいつら、伊鶴が会長と仲良いからって、妬んでるんだから!」
「あ、うん。大丈夫だよ」
いつもなら、落ち込んでだ。気にして、気にして。消えたくなってた。今は何も思えないのは、本当に皆んなのおかげだと思う。
でも、最近こんな事がよくあるんだよね。
知らない女子生徒からクスクス笑われたり、悪口言われたり。前からあるけど、最近は前とは違って私が聞こえるように今みたいに露骨で、小説を書いてなかったら多分心折れてた。
私、なにかしたのかな? って思ってたけど、そうか。会長関係かと思えば納得だ。
佐藤妹の悪口を思い出せば、まだマシな方か。
「でも、会長もしばらく教室に来てないのに、まだ妬んでるの? 暇だねー」
「ねー。それに、もう手遅れだし?」
「そうだよねー。だって、小説出し終わったら告白するんだもんね?」
ニヤニヤと二人が私を見てくる。
これだけは、まだちょっと嫌なんだけど。
「ついに伊鶴にも彼氏が出来るのか」
「しかも、会長とか」
「流石に、飛躍しすぎ。彼氏とか、告白とかではなくて、気持ちを伝えるだけ」
同じことだけど、照れ隠しでついつい言い換えてしまう。
「でも、好きって言うんでしょ?」
クマが笑う。
「小説も、先輩も。ついに明日だね。両方いい結果になること祈ってるから」
泉美も笑う。
「頑張ってね、伊鶴」
そして、私が笑う。
「うんっ!」
心の底から。
好きかどうか見極めなきゃ。好きじゃない相手だったらどうするの? 化粧をしながらミカはそう言っていたし、私もそう思うと今の今までそんな答えはどこにも無かった。
私は彼の袖を捕まえる。
ずっと、この距離が欲しかった。
求めてしまえばそんなものはどうでもよかった。求めた瞬間から、私は決めていたのに。どうしても、この人が好き。この人じゃなきゃ、ダメなんだ。私。
「……いい流れでは?」
今日書けた分を読み返して、私は一人頷く。
先輩との約束から五日。あれから私はひたすら小説に打ち込んでいた。
自分の恋路は横に置き、主人公たちの恋路をただひたすらに書き上げていた。
小説はことのほか順調で終わりまであと少し。
『これなら大きな直し、いらないんじゃない?』
現在進行形で私の小説を読んでくれているモモちゃんからはお墨付きを貰っている。
『ページ数も余裕が出て来たし、あと三日もあれば書ききれそうだね』
『うん。多分、大丈夫。まだ出す段階でもないのに、緊張するね』
『公募はねー。私も、たまに出すけど緊張するよ?』
『え、モモちゃん出してるの?』
『うん。でも、落ちてばっかり』
大人気恋愛Web作家のモモちゃんでさえ険しい道のりなのか。
そうなると、私なんかの作品って読んでもらう価値すらないんじゃない? と、思えてくる。
いつもみたいに、私なんて。そう打ち込もうとした指がピタリを私はピタリと止めた。私なんて。そんな言葉が、この作品に関係あるのか? そう思うと、指を止めざる得なかった。ダメなのはダメかもしれない。人の感覚なんてよくわからないし、書いてる私自身で客観的な判断は無理だ。でも、だからと言って私なんかの作品と落とす必要はないんじゃないだろうか? 私という存在のせいでこの話をダメだと思うのは、なんだか嫌だし、違う気がする。
それは、今まで書いてきた主人公たち自体を否定してしまうことしゃないのか。
書いているのは私だけど、恋を頑張っているのはこの主人公なのだから。
そこに私なんてって言葉は、とても場違いで、何よりもいらなくないか?
『私も多分、落ちると思う。色々、力不足とか感じるし……。けど、この話しかけて良かったし、私の中では百点満点。好きな話だし、最後まで頑張るよ』
『お、いいね。前向きなの私好き』
『主人公が前向きに頑張ってくれてるもん。私も、頑張らなきゃ』
私は、作者として、それと同時に読者としてこの物語の登場人物たちを尊敬してるし、愛している。彼らの物語の中に、自信がない私はいらないんだ。
こんなこと、今まで知らなかった。
『何かあった?』
『え?』
『アンズ、変わったなって思って』
変わった? 私が?
『そう、かな?』
『うん。本当は、いつ応募やめるって言うかなって思ってた』
『え? この話、ダメ?』
『そんなわけないじゃん! 私、すごく好き! 最高だと思ってる! そうじゃなくて、アンズはさ、こんなにいい話書くのに、すぐに自分じゃダメって言うじゃん?』
あ、そうだ。
『私の話なんてって』
それが、私の口癖だった。
『あれ、すごく悲しかったんだ。私、アンズの話初めて読んだ時、結構衝撃を覚えてさ。恋愛小説って、一口で言っても色々な種類があるじゃない? 現実的なものから、ファンタジー色が強いものまで。それでも大体恋愛の流れって決まってるし、読んでる私らだって書いてなくてもこの流れなんだなって無意識に感じて、書いてる私らも必要な場面だけを抜き出して書いて、他は省略なんてしちゃったりして、誰も彼も作業みたいな恋愛小説に慣れちゃってて。そんな中でアンズの話を読んだ時、私は驚いたの』
『どんな、風に?』
『アンズの作品はどれも一歩ずつ確実に近づき合う二人を誰よりも丁寧に綴ってあるの。そこに慣れ親しんだ省略なんてない。そこに一切手は抜いてないし、妥協もない。すごいよね。ああ、恋愛ってこういうものだなって、恋愛小説を読んで私も恋愛がしてみたいと思ったのはアンズの話が初めてだった』
初めて聞くモモちゃんの告白に、胸が熱くなる。
私の物語をこんな風に思ってくれてる人がいるんだ。私の物語をこんなにも愛してくれるている人がいるんだ。
『だからね、いくらアンズからでも自分の話なんてって言われるのが悲しかったんだ。だから、公募を出せば自信もつくしいいところまで行けば、やっぱりアンズの書く話は凄いんだって、アンズ自身もわかってくれるかと思って勧めたの。アンズがやっぱり自信がなくてやめると言ったら、私がどんな手を使ってでも自信をつけて書き切らせてやるってずっと思ってたの。けど、杞憂だったね』
『……ごめん』
私の自信のなさに傷つく人がいるなんて思いもしなかった。
『今まで、自信のなさを自分の書く小説になすりつけていたかも。読まれなくて、目立たなくて安心してるのに、どこかでモモちゃんや他の人と比べては落ち込んで、その矛盾を埋めるように自分の小説を落としてたんだと思う。私、少しだけ変わったかも。私、小説書くの、やっぱり好き。私は憧れのモモちゃんみたいになれないけど、私は、私だけの小説を書けるんだって、気付いたの。まだ人と比べて自信ないかもしれないけど、これはモモちゃんが公募を勧めてくれたお陰で気づけたことだと思う。モモちゃんのお陰だよ! ありがとう』
私にしかかけない話を、私なんてとくだらない言葉で水を差す。私なんかが調子に乗って、私なんかが皆んなに好かれるんけもなく、私なんかの小説なんて何の価値があると言うのか。そんな言葉で汚して来たんだな。
今モモちゃんに言われて、はじめて自分の愚かさに気づいた。
きっと、いつものように公募から逃げてたら知らず知らずに、今もまだ私が私を守るためにモモちゃんを傷つけてしまっていただろう。
『そうだよ。私は、私がアンズの作品が好きだからずっと応援してる。好きだから、心を動かされたから、アンズの小説に感想を送ったの。アンズにしか書けない話はこんなにすごいのにって、ずっと思ってたんだ』
『ありがとう』
おかしな話だけど、はじめてモモちゃんの言葉を素直に飲み込めたと思う。
いつも、そんなことないよ。モモちゃんの方が凄いよ。そんな言葉が次に出てたのに。
勿論、モモちゃんの方が凄いのは当たり前なんだけど、今、それを褒められた免罪符として使いたくなかった。
『モモちゃん、いつも応援してくれて、ありがとう』
ありがとう。
心の底から、貴女に褒められて誇らしいという気持ちが湧き上がって来た。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「えっ? 今日出さないの?」
「うん。結局、最後の最後まで見直したいって気持ちになって、明日出すことにしたの」
「明日って、明日が締め切りでしょ? 大丈夫?」
「うん。学校終わってたから郵便局にいけば十分間に合うし、大丈夫だよ」
「ポスト投函しないの?」
「あれだけ分厚いと、切手の値段合ってるか自信ないから……」
ついに、明日。小説を賞に出す日がやって来た。
「結局、今回は最後まで私たち読めずだったね」
「うん。本当は読んで欲しかったけど、そんな時間取れなくて……」
いつもは、小説が書き終わると二人に読んでもらっていた。
けど、今回は締め切りの時間も決まっていて、結局直前まで手直しをしたいと思い二人には読んでもらう時間がなかったのだ。
「えー。いいじゃん、賞取ったら本で読めるでしょ? それまで楽しみにしてれば」
「く、クマ?」
え? 私の小説が? 賞を?
「流石に、それは無理だって。初めてだし」
多少自信がついたとはいえ、それは流石に大きく出すぎ。そこまでなんて絶対いけないって。
「それもそうだね。クマちゃん頭いい」
「でっしょ?」
「二人とも、ちょっとそれは言い過ぎだから。モモちゃんでさえ、落ちてるんだよ?」
慌てて否定しようとする手を、二人が握って止める。
「私達は、そう信じてるし」
「そう。伊鶴の話なら、いけるって」
そう笑う二人に、私は手を止める。
そうか。この二人にも、私はモモちゃんと同じことをしていたんだな。
「……うん。有難う」
少しだけ、気恥ずかしい。
私なんかが、随分と驕るじゃん? そんな心の声が聞こえてくるけど、今ならそれに聞こえないふりができる。
「でも、頑張ったから送った後に読んでよ。すぐ読んで欲しいし」
「伊鶴は欲張りだなー。仕方がないなー!」
「伊鶴がそうして欲しいなら喜んで」
私、ずっとこんないい友達に囲まれて来たのに、気づかなかったなんだ。
傷つくこともあるけど、それだけじゃない。顔を上げて初めて気付くこともあるんだな。
縮こまって、膝を抱えてたから何も見えなかった。
その時だ。
「また小説書いてるって言ってる」
「えー。恥ずかしくないのかな?」
「もう中学生なのにね」
私達が話してる隣を、クラスの女子たちがそう喋りながら、クスクス笑って通り過ぎる。
そうだよね。こんな声ばかりが大きく聞こえて、余計に自分が恥ずかしい存在だと感じて、縮こまってた。
「伊鶴、気にすることないよ!」
「そうだよ。あいつら、伊鶴が会長と仲良いからって、妬んでるんだから!」
「あ、うん。大丈夫だよ」
いつもなら、落ち込んでだ。気にして、気にして。消えたくなってた。今は何も思えないのは、本当に皆んなのおかげだと思う。
でも、最近こんな事がよくあるんだよね。
知らない女子生徒からクスクス笑われたり、悪口言われたり。前からあるけど、最近は前とは違って私が聞こえるように今みたいに露骨で、小説を書いてなかったら多分心折れてた。
私、なにかしたのかな? って思ってたけど、そうか。会長関係かと思えば納得だ。
佐藤妹の悪口を思い出せば、まだマシな方か。
「でも、会長もしばらく教室に来てないのに、まだ妬んでるの? 暇だねー」
「ねー。それに、もう手遅れだし?」
「そうだよねー。だって、小説出し終わったら告白するんだもんね?」
ニヤニヤと二人が私を見てくる。
これだけは、まだちょっと嫌なんだけど。
「ついに伊鶴にも彼氏が出来るのか」
「しかも、会長とか」
「流石に、飛躍しすぎ。彼氏とか、告白とかではなくて、気持ちを伝えるだけ」
同じことだけど、照れ隠しでついつい言い換えてしまう。
「でも、好きって言うんでしょ?」
クマが笑う。
「小説も、先輩も。ついに明日だね。両方いい結果になること祈ってるから」
泉美も笑う。
「頑張ってね、伊鶴」
そして、私が笑う。
「うんっ!」
心の底から。
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