6 / 17
二 魔永久と対価と大蛇の話(2)
しおりを挟む
ぷっと噴き出す音が聞こえる。
「めっちゃおもしろぉいじゃーん。めっちゃ笑う」
「え?」
「子供ならもっとわがまま言っていいんよ? 死にたくないでも、約束をたがえてやるぅ! とかでもいいのよ? 逆にオレがお前のような悪い妖怪を退治してやるとかでも言っていいのにねぇ」
「……どういこと?」
「本当に命くれそうな勢いだからさ、バカにしてんの」
「はぁ? だって約束したじゃんっ!」
「したけどさぁ、普通の人間は簡単に命くれないの」
「え? そうなの?」
「うん」
「え? てことは、オレの命をくれってのは、嘘?」
なーんだ。オレはてっきり……。
「いや、嘘ではないかな?」
「えっ」
違うのかよっ! バカにまでしといてそれはおかしいだろっ!
「ちょっと、ちょっと。むっとした顔やめな? 文句あるならお口で言おう?」
「でも……」
オレは助けてもらった立場なんだし、それはおかしくないか?
「マモルっておもしろいね。まっすぐ過ぎて愚直な性分かと思いきや、ちゃんと生きていたいと思う願望もある。けど、変なところで謙虚。助けてもらった立場でそんなことを言うべきじゃないよなって顔したよ」
「ぐちょく? けんきょ?」
「今の時代調べられる場所なんていっぱいあるんだからゆっくりと調べなよ。きっと驚くよ? マモルの自己紹介みたいなこと書いてあるから」
「それ、悪口?」
「はは。おもしろ。命の恩人に悪口言われたくない感じ? 今からマモルの命貰っちゃうのに?」
「……貰われるなら余計に最後は優しい言葉がいいだろ」
なんたが面白がられてるのがバカにされた気になってきて、ついついむっとした顔をしてしまう。
どうせオレのことを食べるなら、こんなバカにしたり喋ったりするよりもひと思いにパクって食べてほしい。
「そうなの? 人間ってとっても不思議。でも、おもしろいね。ボク嫌いじゃないよ、マモルはね。じゃあ優しい言葉かけちゃおっかなぁ?」
「どんな?」
「そうさね、とりあえず茶色の液体よりもこの透明でシュワシュワする飲み物のお替り沢山持ってきてからにしていい? ボク、人間とか命とか食べるタイプじゃなくてお菓子とか食べたい系の可愛い系日本刀なんだよね」
「えっ!? ちょっと待ってよ」
「なに?」
「だって、魔永久はオレの命が欲しいって、食べるんじゃないの!?」
ちょっと話が違ってくる。
「おいしいものは好きだけど、ボクおいしくないものは嫌いなんだよねぇ。それに、命を差し出せとは言ったけど、食べるなんてボク一言も言ってなくない?」
そう言えば……。
「勝手にマモルが一人で勘違いしていただけでしょ?」
「じゃあ、なんで命を? やっぱり嘘じゃないか」
「それは本当だってば。マモル、ボクは君の命を貰ったの。命を貰ったということは、」
「体を貰ったってこと」
急にオレの口が動き始め、魔永久の続きを話し出した。
口を抑えようにも手すら、いや、視界すら動かない。
「つまりマモルの命、つまりこの体を勝手に使わしてもらいますよ~ってこと。勿論それだけで命を差し出せっていうのはちょっと違うよね。それは大正解」
オレの体の動きを奪ったまま、魔永久は自身であるはずの日本刀を手に窓を開ける。
「命は貰うよ。ボクとマモルは文字通り今、一心同体になってる」
オレの体が窓を越えて、夜空に駆ける。
落ちるっ!
オレはいずれくる衝撃に目を閉じたいが、魔永久が体の自由を奪っているせいでそれすらできない。
「はは、大丈夫。夜空ぐらい走れなきゃマモル、女の子にモテないよ? わたくし、夜空の散歩がしたいですわぁって言われた時どうすんの?」
そんなものどうもできないに決まってる。
「あ、でもマモルって羽が生えてないから飛べないのか」
え?
不思議な力で、オレも飛べるんじゃないのっ!? 女の子に言われる前に、今どうするんだよっ!
「はは、うっかり」
どうすんのっ!?
落ちていく視界に恐怖を覚えていると、オレの体はくるりと態勢を変えて近くにあった電柱を蹴り上げた。
わっ。
「はは、久々の外って楽しいねっ」
体が力強く跳ね上がり、隣の家の屋根の上に着地する。
ふわりと、風がオレの頬を髪と一緒に撫ぜた。
「あー。ここまで風が強いとそろそろボクの封印が解かれたこと、噂になってると思うんだよね。風は噂好きだし」
噂?
「ボクの封印が解けたことを良く思っていない雑魚って多いんだ」
ざこ?
「ああ。雑魚って言うのはね、小さくて売れない価値のない魚たちのことを言うんだよ。それが転じて大したこことないやつらのことを雑魚っ呼ぶの。例えばね」
突然オレたちの視界が遮られた。
背中には冷や汗を覚える。
それはなにかが確かにおかしかった。でも、オレにはなにがおかしいかわからない。
魔永久に言われるまでは。
「ほらほら、マモル。よく目を見開いて。ボクを通して自分の見えないものを見てみな。目だけじゃない。匂い、感覚、風の味、全てを味わって、全てを感じて、全てを使って見てごらん」
魔永久の言葉が、使い方の説明が多くなるほどオレの目には見えてはいけないものが見えてくる。
夥しい数の『化け物』たち。
家よりでかいやつもいれば、空を飛んでるやつもいる。ずっと燃えている奴がいると思えば、ずっとこちらに武器を向けているやつもいた。
寺の墓で会った、あの包丁の化け物よりも形がはっきりしているし、強そうなやつばかりだ。
「マモル、見えた? これがね」
オレの手の中にある日本刀の鞘はいつの間にか消えていた。
「雑魚ってやつさ」
大勢の化け物たちのうねり、影をつくる。影は真っ黒で、そう笑った魔永久を、いや、オレの体を覆うのだった。
「めっちゃおもしろぉいじゃーん。めっちゃ笑う」
「え?」
「子供ならもっとわがまま言っていいんよ? 死にたくないでも、約束をたがえてやるぅ! とかでもいいのよ? 逆にオレがお前のような悪い妖怪を退治してやるとかでも言っていいのにねぇ」
「……どういこと?」
「本当に命くれそうな勢いだからさ、バカにしてんの」
「はぁ? だって約束したじゃんっ!」
「したけどさぁ、普通の人間は簡単に命くれないの」
「え? そうなの?」
「うん」
「え? てことは、オレの命をくれってのは、嘘?」
なーんだ。オレはてっきり……。
「いや、嘘ではないかな?」
「えっ」
違うのかよっ! バカにまでしといてそれはおかしいだろっ!
「ちょっと、ちょっと。むっとした顔やめな? 文句あるならお口で言おう?」
「でも……」
オレは助けてもらった立場なんだし、それはおかしくないか?
「マモルっておもしろいね。まっすぐ過ぎて愚直な性分かと思いきや、ちゃんと生きていたいと思う願望もある。けど、変なところで謙虚。助けてもらった立場でそんなことを言うべきじゃないよなって顔したよ」
「ぐちょく? けんきょ?」
「今の時代調べられる場所なんていっぱいあるんだからゆっくりと調べなよ。きっと驚くよ? マモルの自己紹介みたいなこと書いてあるから」
「それ、悪口?」
「はは。おもしろ。命の恩人に悪口言われたくない感じ? 今からマモルの命貰っちゃうのに?」
「……貰われるなら余計に最後は優しい言葉がいいだろ」
なんたが面白がられてるのがバカにされた気になってきて、ついついむっとした顔をしてしまう。
どうせオレのことを食べるなら、こんなバカにしたり喋ったりするよりもひと思いにパクって食べてほしい。
「そうなの? 人間ってとっても不思議。でも、おもしろいね。ボク嫌いじゃないよ、マモルはね。じゃあ優しい言葉かけちゃおっかなぁ?」
「どんな?」
「そうさね、とりあえず茶色の液体よりもこの透明でシュワシュワする飲み物のお替り沢山持ってきてからにしていい? ボク、人間とか命とか食べるタイプじゃなくてお菓子とか食べたい系の可愛い系日本刀なんだよね」
「えっ!? ちょっと待ってよ」
「なに?」
「だって、魔永久はオレの命が欲しいって、食べるんじゃないの!?」
ちょっと話が違ってくる。
「おいしいものは好きだけど、ボクおいしくないものは嫌いなんだよねぇ。それに、命を差し出せとは言ったけど、食べるなんてボク一言も言ってなくない?」
そう言えば……。
「勝手にマモルが一人で勘違いしていただけでしょ?」
「じゃあ、なんで命を? やっぱり嘘じゃないか」
「それは本当だってば。マモル、ボクは君の命を貰ったの。命を貰ったということは、」
「体を貰ったってこと」
急にオレの口が動き始め、魔永久の続きを話し出した。
口を抑えようにも手すら、いや、視界すら動かない。
「つまりマモルの命、つまりこの体を勝手に使わしてもらいますよ~ってこと。勿論それだけで命を差し出せっていうのはちょっと違うよね。それは大正解」
オレの体の動きを奪ったまま、魔永久は自身であるはずの日本刀を手に窓を開ける。
「命は貰うよ。ボクとマモルは文字通り今、一心同体になってる」
オレの体が窓を越えて、夜空に駆ける。
落ちるっ!
オレはいずれくる衝撃に目を閉じたいが、魔永久が体の自由を奪っているせいでそれすらできない。
「はは、大丈夫。夜空ぐらい走れなきゃマモル、女の子にモテないよ? わたくし、夜空の散歩がしたいですわぁって言われた時どうすんの?」
そんなものどうもできないに決まってる。
「あ、でもマモルって羽が生えてないから飛べないのか」
え?
不思議な力で、オレも飛べるんじゃないのっ!? 女の子に言われる前に、今どうするんだよっ!
「はは、うっかり」
どうすんのっ!?
落ちていく視界に恐怖を覚えていると、オレの体はくるりと態勢を変えて近くにあった電柱を蹴り上げた。
わっ。
「はは、久々の外って楽しいねっ」
体が力強く跳ね上がり、隣の家の屋根の上に着地する。
ふわりと、風がオレの頬を髪と一緒に撫ぜた。
「あー。ここまで風が強いとそろそろボクの封印が解かれたこと、噂になってると思うんだよね。風は噂好きだし」
噂?
「ボクの封印が解けたことを良く思っていない雑魚って多いんだ」
ざこ?
「ああ。雑魚って言うのはね、小さくて売れない価値のない魚たちのことを言うんだよ。それが転じて大したこことないやつらのことを雑魚っ呼ぶの。例えばね」
突然オレたちの視界が遮られた。
背中には冷や汗を覚える。
それはなにかが確かにおかしかった。でも、オレにはなにがおかしいかわからない。
魔永久に言われるまでは。
「ほらほら、マモル。よく目を見開いて。ボクを通して自分の見えないものを見てみな。目だけじゃない。匂い、感覚、風の味、全てを味わって、全てを感じて、全てを使って見てごらん」
魔永久の言葉が、使い方の説明が多くなるほどオレの目には見えてはいけないものが見えてくる。
夥しい数の『化け物』たち。
家よりでかいやつもいれば、空を飛んでるやつもいる。ずっと燃えている奴がいると思えば、ずっとこちらに武器を向けているやつもいた。
寺の墓で会った、あの包丁の化け物よりも形がはっきりしているし、強そうなやつばかりだ。
「マモル、見えた? これがね」
オレの手の中にある日本刀の鞘はいつの間にか消えていた。
「雑魚ってやつさ」
大勢の化け物たちのうねり、影をつくる。影は真っ黒で、そう笑った魔永久を、いや、オレの体を覆うのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる