マモルとマトワ

富升針清

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二 魔永久と対価と大蛇の話(2)

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 ぷっと噴き出す音が聞こえる。
「めっちゃおもしろぉいじゃーん。めっちゃ笑う」
「え?」
「子供ならもっとわがまま言っていいんよ? 死にたくないでも、約束をたがえてやるぅ! とかでもいいのよ? 逆にオレがお前のような悪い妖怪を退治してやるとかでも言っていいのにねぇ」
「……どういこと?」
「本当に命くれそうな勢いだからさ、バカにしてんの」
「はぁ? だって約束したじゃんっ!」
「したけどさぁ、普通の人間は簡単に命くれないの」
「え? そうなの?」
「うん」
「え? てことは、オレの命をくれってのは、嘘?」
 なーんだ。オレはてっきり……。
「いや、嘘ではないかな?」
「えっ」
 違うのかよっ! バカにまでしといてそれはおかしいだろっ!
「ちょっと、ちょっと。むっとした顔やめな? 文句あるならお口で言おう?」
「でも……」
 オレは助けてもらった立場なんだし、それはおかしくないか?
「マモルっておもしろいね。まっすぐ過ぎて愚直な性分かと思いきや、ちゃんと生きていたいと思う願望もある。けど、変なところで謙虚。助けてもらった立場でそんなことを言うべきじゃないよなって顔したよ」
「ぐちょく? けんきょ?」
「今の時代調べられる場所なんていっぱいあるんだからゆっくりと調べなよ。きっと驚くよ? マモルの自己紹介みたいなこと書いてあるから」
「それ、悪口?」
「はは。おもしろ。命の恩人に悪口言われたくない感じ? 今からマモルの命貰っちゃうのに?」
「……貰われるなら余計に最後は優しい言葉がいいだろ」
 なんたが面白がられてるのがバカにされた気になってきて、ついついむっとした顔をしてしまう。
 どうせオレのことを食べるなら、こんなバカにしたり喋ったりするよりもひと思いにパクって食べてほしい。
「そうなの? 人間ってとっても不思議。でも、おもしろいね。ボク嫌いじゃないよ、マモルはね。じゃあ優しい言葉かけちゃおっかなぁ?」
「どんな?」
「そうさね、とりあえず茶色の液体よりもこの透明でシュワシュワする飲み物のお替り沢山持ってきてからにしていい? ボク、人間とか命とか食べるタイプじゃなくてお菓子とか食べたい系の可愛い系日本刀なんだよね」
「えっ!? ちょっと待ってよ」
「なに?」
「だって、魔永久はオレの命が欲しいって、食べるんじゃないの!?」
 ちょっと話が違ってくる。
「おいしいものは好きだけど、ボクおいしくないものは嫌いなんだよねぇ。それに、命を差し出せとは言ったけど、食べるなんてボク一言も言ってなくない?」
 そう言えば……。
「勝手にマモルが一人で勘違いしていただけでしょ?」
「じゃあ、なんで命を? やっぱり嘘じゃないか」
「それは本当だってば。マモル、ボクは君の命を貰ったの。命を貰ったということは、」
「体を貰ったってこと」
 急にオレの口が動き始め、魔永久の続きを話し出した。
 口を抑えようにも手すら、いや、視界すら動かない。
「つまりマモルの命、つまりこの体を勝手に使わしてもらいますよ~ってこと。勿論それだけで命を差し出せっていうのはちょっと違うよね。それは大正解」
 オレの体の動きを奪ったまま、魔永久は自身であるはずの日本刀を手に窓を開ける。
「命は貰うよ。ボクとマモルは文字通り今、一心同体になってる」
 オレの体が窓を越えて、夜空に駆ける。
 落ちるっ!
 オレはいずれくる衝撃に目を閉じたいが、魔永久が体の自由を奪っているせいでそれすらできない。
「はは、大丈夫。夜空ぐらい走れなきゃマモル、女の子にモテないよ? わたくし、夜空の散歩がしたいですわぁって言われた時どうすんの?」
 そんなものどうもできないに決まってる。
「あ、でもマモルって羽が生えてないから飛べないのか」
 え?
 不思議な力で、オレも飛べるんじゃないのっ!? 女の子に言われる前に、今どうするんだよっ!
「はは、うっかり」
 どうすんのっ!?
 落ちていく視界に恐怖を覚えていると、オレの体はくるりと態勢を変えて近くにあった電柱を蹴り上げた。
 わっ。
「はは、久々の外って楽しいねっ」
 体が力強く跳ね上がり、隣の家の屋根の上に着地する。
 ふわりと、風がオレの頬を髪と一緒に撫ぜた。
「あー。ここまで風が強いとそろそろボクの封印が解かれたこと、噂になってると思うんだよね。風は噂好きだし」
 噂?
「ボクの封印が解けたことを良く思っていない雑魚って多いんだ」
 ざこ?
「ああ。雑魚って言うのはね、小さくて売れない価値のない魚たちのことを言うんだよ。それが転じて大したこことないやつらのことを雑魚っ呼ぶの。例えばね」
 突然オレたちの視界が遮られた。
 背中には冷や汗を覚える。
 それはなにかが確かにおかしかった。でも、オレにはなにがおかしいかわからない。
 魔永久に言われるまでは。
「ほらほら、マモル。よく目を見開いて。ボクを通して自分の見えないものを見てみな。目だけじゃない。匂い、感覚、風の味、全てを味わって、全てを感じて、全てを使って見てごらん」
 魔永久の言葉が、使い方の説明が多くなるほどオレの目には見えてはいけないものが見えてくる。
 夥しい数の『化け物』たち。
 家よりでかいやつもいれば、空を飛んでるやつもいる。ずっと燃えている奴がいると思えば、ずっとこちらに武器を向けているやつもいた。
 寺の墓で会った、あの包丁の化け物よりも形がはっきりしているし、強そうなやつばかりだ。
「マモル、見えた? これがね」
 オレの手の中にある日本刀の鞘はいつの間にか消えていた。
「雑魚ってやつさ」
 大勢の化け物たちのうねり、影をつくる。影は真っ黒で、そう笑った魔永久を、いや、オレの体を覆うのだった。
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