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出稼ぎします

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  「ルーウェン卿。失礼しました。こちらの女性が城内に兄がいるというのですが」



 ケビンたちが頭を下げたので私も慌てて頭を下げた。



 「…なるほど、事情はわかった。…お嬢さん、失礼だがお名前を伺ってもよろしいか?」 

 「ヴィッセ伯爵が長女、ルナリア・ヴィッセと申します。いつも兄がお世話になっております」

 「…あなたはマリウスの妹ですか」

 「はい。ですが、私が妹だと示せる証拠はなく…」

 「構わない。顔を上げてくれ。そこの冒険者たちもだ」



 よかった。マリウス兄のことを知っている人だった。

 思わずホッとして顔を上げると馬車の中にいた男性が扉を開けて出てきた。

 御者の人は驚きもしないらしい。



 「念の為、君たちの名前も教えてもらえるかい?」

 「Bランク冒険者の金色の剣です」

 「Bランク冒険者か。ならば大丈夫か。念の為聞くが彼女が身分を偽り、それに君たちが加担している、ということは?」

 「金色の剣の名にかけて致しておりません」

 「よろしい。一応冒険者カードも見せてほしい」



 ケビンさんたちはそれぞれカードを出してルーウェン様に見せている。

 その様子をハラハラしながら見守っていると、ルーウェン様は御者に馬車を戻すように伝えた。



 「このまま歩いていく。また迎えにきてくれ」

 「御意に」

 「も、申し訳」

 「構わないさ。職場は目の前だからね」



 ルーウェン卿はあっけらかん、と言い放った後、じっと私の顔を覗き込んだ。



 「……きみはセシリア様に似ているね」



 ルーウェン様のいうとおり、私は母によく似ている。記憶の中の母はもっとたおやかで優しくて貴賓あふれる人だった。私みたいにガサツではない。



 「母をご存知で?」

 「何度かお会いしたことがあるよ。私はフィリクス・ルーウェン。マリウスの上司だ」

 

 マリウス兄は城勤めの文官をしている。具体的には宰相様の小間使いみたいなことを言っていた。人使いが荒くて困る、とよく手紙で愚痴をこぼしている。



 それでもまさか…まさか、よね?



 「それでマリウスに何の用かな?」



 あ、そうだった!

 本来の目的を忘れそうになって慌てて理由を説明した。



 「お仕事を探していまして。兄に口利きをお願いできないかと」

 「仕事?伯爵家のご令嬢が?」

 「はい。お恥ずかしい話ですが、経済的に苦しく…」



 思わず視線を下げると、ルーウェン様が「ふむ」とひとつ頷いた。



 「王城は今大陸議会に向けて猫の手でも借りたいほど仕事はたくさんある。が、君は確か学院を卒業していないね?」

 「……おっしゃる通りです。ですが、読み書き計算、語学はできます。掃除洗濯給仕なんでもします。もし試験等あれば受けさせてください」

 「…わかった。マリウスは知ってるかい?」

 「昨夜手紙で知らせました」

 

 ルーウェン様が鷹揚にうなづく。



 「この後のご予定は?」

 「と、特にございません」

 「なら、この後すぐに試験を受けても?」

 「は、はい!ありがとうございます!」



 思わずガバリと頭を下げると、ルーウェン様に苦笑された。

 「元気がいいね」と続く言葉に「はい!」と元気よく返す。



 「そうだな。マリウスにも会いたいだろう。帰りはうちの馬車で送ろう。ここからは私が引き継ぐ。冒険者の皆様は申し訳ないが、ここで」

 「承知した。では、ルナリア様、またお宿で」

 「はい!ありがとうございました!」

 

 ケビンたちが辞去の礼をし、私はルーウェン様の後を続いて城に入った。

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