僕に名前をください

鈴原りんと

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Name8:サプライズ前夜

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 その後も、僕らは話をした。学生というものはいくら話し合っても話題が尽きないもので、まだしばらく賑やかな時間が続いた。
 こんな風に、友人と笑い合って馬鹿みたいに楽しい時間を過ごすのは初めてかもしれない。面倒だと自ら手放した青春が返ってきたみたいだ。賑やかなのはそこまで好きじゃないはずなのに、碓氷さんや高宮たちと過ごす時間は悪くない。

 そんな騒がしい時間は、光のようにあっという間に過ぎていった。

「げっ、もう六時近いじゃん……!」
「もうそんな時間かよ!?そろそろ帰らねぇとなぁ……」

 外が暗くなっても気にせず盛り上がっていた 。ふいに立花さんが腕時計を見たことで、僕らはようやく面会の終了時刻が迫っていることに気づく。
 僕以外はそそくさと荷物をまとめ、慌てて立ち上がった。

「碓氷さん、また来るからな!」
「うん、今日はありがとね」
「また困ったことがあったら言ってくれ。クラスは違えど、同じ学校に通う者だ。力は貸そう」
「お固いなぁ委員長様は。……愛來、また今度ね!」
「みんな、ありがとう。また会おうね!」

 三人はそれぞれ碓氷さんに挨拶をすると、足早に病室を出ていった。部屋を出る寸前に、立花さんが僕の方を見てウィンクをしていく。立花さんなりに気を遣ってくれたのかもしれないと、僕は心の中で彼女にお礼を言った。

「……嵐が去った後みたいだね」
「ふふ、確かにね。でも賑やかでとても楽しかったよ」

 呆れたようにそう言えば、碓氷さんは教科書を閉じながらやんわりと目を細めた。

「勉強もそれなりにやったし、わりと有意義な時間だったんじゃない?」
「うん。正直、学校よりも勉強が捗ったし楽しめた。みんなのお蔭だね」

 碓氷さんは優しい声と笑顔でそう告げる。
 騒がしい時間だったが、彼女にとっても、もちろん僕にとっても楽しい時間になったと思う。長々と忘れていた、友人たちとの賑やかな時間の楽しさをまさかここに来て知るとは思わなかった。それもこれも、碓氷さんのお蔭だ。僕はやっぱり、彼女との時間が好きだ。

「ねぇ碓氷さん、明日もここに来ていい?」
「え?うん、明日も特に用事はないから大丈夫だよ」

 いつの間にか数を増している繋がれた管を揺らしながら、碓氷さんはにこりと笑う。

「分かった。明日も午前授業だから、また午後から来るね」
「楽しみにしてるね」

 椅子を畳み、鞄の紐を両肩にかける。すると、碓氷さんが僕を呼び止めた。

「……名無しくん」
「ん?」
「また明日ね」

 その言葉を聞くのは、なんだか久しぶりのような気がした。最初の頃、病院の前でそう交わして手を振りあったのを思い出す。
 なんとなく懐かしくて切ない気持ちになった。

「うん、また明日」

 それを悟られないように笑顔を押し出し、手を振って病室を後にした。

 白い廊下を歩き、途中すれ違った瀬良さんに軽く挨拶をして病院の外へ出る。
 すると、何故か先に帰ったはずの三人が病院の入り口に立っていた。寒そうに息を吐きながら、僕が出てきたのを認識すると真っ先に立花さんが大きく手を振ってきた。

「あれ、帰ったんじゃなかったの?」
「お前を待ってたんだよ」
「僕を?」
「あぁ。立花が話したいことがあると言ってな」
「そうそう!ねぇ、サプライズは好き?」

 突然ニヤニヤと悪だくみでもするような表情で尋ねてくる立花さんに、「サプライズ?」と復唱した。サプライズは別に興味ない。ただ、多少なりともワクワクする気はする。

「明日さ、愛來の誕生日なんだよ」

 そう言われて、僕は携帯で日付を確認した。
 今日は12月18日。
 植物園の時に、碓氷さん本人の口から聞いた誕生日は、明日に迫っていた。

「そういえばそうだね」
「だからさ、皆でサプライズパーティしない?」
「おっ、いいねぇそれ!」
「具体的には何をするんだ?」

 こういう類のことが好きな高宮はすかさず目を輝かせた。意外にも相川も乗り気で正直驚いた。

「うーん……愛來はもう食事はまともにとれないらしいし……食べ物関係のことはやめた方がいいよね」

 立花さんは眉間に皺を寄せて小さく唸る。

「だね。普通にプレゼント各自で渡せばいいんじゃない?」
「それだけじゃつまんなくね?」
「今日みたいに皆で遊べばいいんじゃないかな。碓氷さん、賑やかで楽しかったって言ってるし」
「賛成!それに、あたしは明日会いに行く約束してないからサプライズになりそうだし!」

 僕が伝えれば、立花さんはガッツポーズをして笑った。

「あ、僕は明日行くって言っちゃったな」
「いいんじゃないか?お前以外はサプライズだし、なかなかいい感じになりそうだろ」
「相川にしては安直な考えだね。まぁ、僕はプレゼントで何とかするさ」

 珍しく固い考えを吐かなかった彼に感心しつつ、僕の頭はすぐにプレゼントのことを考え始めた。生まれてこの方、誕生日プレゼントというものを渡したことがない。だから、一般の人がどんなものを渡しているのかがまるで見当がつかない。

「よーし、じゃあ明日は愛來の誕生日パーティーだ!授業終わったら校門前に集合!」
「おっけー!とりあえず今から明日盛り上げられるもん用意しにいくわ!」
「俺も付き合おう」

 やる気満々の二人は、テキパキと話を進めて今にも駆け出しそうな勢いだった。相川は冷静でいるものの、その目は楽し気に細められていた。

「あたしはこれからバイトだから、そっちの準備は任せるね!」
「僕もこれから行くところがあるから」
「なんだよつれねぇなぁ。ま、いっか。じゃあ、明日は皆で盛り上げるぞ!」

 何故か強引に手を引っ張られ、全員の手が重なる。運動部がやりそうな円陣を組み、ここが病院前だということも忘れて主に二人が掛け声をあげる。

 気合い入れをしたところで、今日は解散となった。明日のサプライズのため、各々が準備に向かう。
 そんな中、僕はある場所に向かっていた。明日のサプライズを成功させるために、助言を頼みたい人がいる。

 彼女のために最高のプレゼントを用意しようとワクワクするサプライズ前夜。
 僕は目的地に向けて歩き出した。
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