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6章 秘事
蠱惑
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「夜景を見よう。」
こちらが恥ずかしくなる程に、優しくて綺麗な微笑みで彼は言った。
個室居酒屋は相変わらずに賑わいでいて、左右から酒に酔った笑い声や話し声が聞こえる。そんな中で、この個室はとても静かだ。
「明日から無理矢理休み入れられたんでしょ。だから俺も休みとったから。」
悪びれる様子もなく笑う佐良。
「佐良さん…。大丈夫なんですか?それに、実は仕事が…」
「駄目。許さない。休みは休むんだよ。それにさ、いつも仕事終わった後ばっかりじゃつまらないと思わない?」
確かに、互いの関係性上、仕事帰りのみの付き合いだった。休日に会うと言うことは一切ないし、メッセージアプリのやり取りも連絡以外は行わない。もしも会うとすれば、休日出勤をした自分が正規のシフトの佐良に会うくらいだ。
「佐良さんに迷惑かけたくはないです。」
今こうして、個室居酒屋とはいえ二人でいるところを誰かに見られれば、それだけでリスキーな行為なのだ。
佐良を求めることと同時に、佐良に生活を失って欲しくはない。
「何言ってるの。俺がそうしたいんだから迷惑じゃないよ。それとも、嫌?」
「そんなわけ…」
佐良の質問を瞬時に否定する。
本音を言えば嬉しい。佐良とずっと居られることなんて、考えても見なかったのだから。
「じゃあ決まり。明日、駅に迎えに行くから。三日分の準備してくること。」
「三日?え…それ、どういう…?」
困惑して聞き返すと、佐良はイタズラが成功した子供のように無邪気に微笑んだ。
「だって泊まりだから。」
その言葉に脳がフリーズしたことは言うまでもない。
いくらなんでもマズイのではないか、と焦りで冷や汗が流れる。
「佐良さん、本気で言ってます?」
「当たり前。だって約束したでしょ。」
約束が何を指すのか分からず、困惑した顔をしていると、テーブルの向かい側から、不意に佐良の手のひらが髪に伸びて梳くように撫でた。
その柔らかい触れ方に頬が熱くなる。
「全部くれる約束。」
「それは…、そうですけど…。」
佐良はずるい。
こんな風にそっと触れて。彼に触れられることが、どれほどに甘美なことか、それを知らないのだろうか。
触れられれば、全てを飲み込んでしまう。
「…分かりました。」
髪を撫でる指先が頬を滑り、そっと唇に触れる。その指先が性的な意味合いを含んでいないわけもなく、そして、それに抗う術もない。湧き上がる熱に、恥ずかしくなって佐良の瞳を直視できず、伸ばされた腕をぼんやりと見つめた。
「佐良、さん…、だから…離して、」
唇の感触を楽しみ弄ぶように動く親指をそっと制するように握る。
ここは居酒屋だ。
周囲の個室から聞こえる話し声が、余計に羞恥心を煽って居た堪れない。
彼の全てに抗えない自分がとても浅ましく思えて。
「うん、分かった。」
存外に聞き分け良く離れて行く熱にほっとする。反面、名残美味しいと感じる自分に泣きそうになる。
いつから、こんなにも醜い人間になってしまったのか。
過去に自らが侮蔑した人間と正しく同じではないかと感じる。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。明日からしばらく一緒なんだから。」
先程までの雰囲気とは打って変わって、佐良はいつものように子供に接する時のような柔らかい笑みを浮かべた。
だから尚更、自分の体に燻る熱が場違いなようで、それを隠すように目を伏せる。
「ごめん…なさい。」
こんな自分に、佐良は何故執着するのか。佐良の言葉を信じていない訳ではない。でも、醜い自分は触れてはいけない存在なのは確かで。
「本当、可愛いなぁ。自覚ない?今、すごく物欲しそうな顔してる。そういうところ…だよ。」
こちらが恥ずかしくなる程に、優しくて綺麗な微笑みで彼は言った。
個室居酒屋は相変わらずに賑わいでいて、左右から酒に酔った笑い声や話し声が聞こえる。そんな中で、この個室はとても静かだ。
「明日から無理矢理休み入れられたんでしょ。だから俺も休みとったから。」
悪びれる様子もなく笑う佐良。
「佐良さん…。大丈夫なんですか?それに、実は仕事が…」
「駄目。許さない。休みは休むんだよ。それにさ、いつも仕事終わった後ばっかりじゃつまらないと思わない?」
確かに、互いの関係性上、仕事帰りのみの付き合いだった。休日に会うと言うことは一切ないし、メッセージアプリのやり取りも連絡以外は行わない。もしも会うとすれば、休日出勤をした自分が正規のシフトの佐良に会うくらいだ。
「佐良さんに迷惑かけたくはないです。」
今こうして、個室居酒屋とはいえ二人でいるところを誰かに見られれば、それだけでリスキーな行為なのだ。
佐良を求めることと同時に、佐良に生活を失って欲しくはない。
「何言ってるの。俺がそうしたいんだから迷惑じゃないよ。それとも、嫌?」
「そんなわけ…」
佐良の質問を瞬時に否定する。
本音を言えば嬉しい。佐良とずっと居られることなんて、考えても見なかったのだから。
「じゃあ決まり。明日、駅に迎えに行くから。三日分の準備してくること。」
「三日?え…それ、どういう…?」
困惑して聞き返すと、佐良はイタズラが成功した子供のように無邪気に微笑んだ。
「だって泊まりだから。」
その言葉に脳がフリーズしたことは言うまでもない。
いくらなんでもマズイのではないか、と焦りで冷や汗が流れる。
「佐良さん、本気で言ってます?」
「当たり前。だって約束したでしょ。」
約束が何を指すのか分からず、困惑した顔をしていると、テーブルの向かい側から、不意に佐良の手のひらが髪に伸びて梳くように撫でた。
その柔らかい触れ方に頬が熱くなる。
「全部くれる約束。」
「それは…、そうですけど…。」
佐良はずるい。
こんな風にそっと触れて。彼に触れられることが、どれほどに甘美なことか、それを知らないのだろうか。
触れられれば、全てを飲み込んでしまう。
「…分かりました。」
髪を撫でる指先が頬を滑り、そっと唇に触れる。その指先が性的な意味合いを含んでいないわけもなく、そして、それに抗う術もない。湧き上がる熱に、恥ずかしくなって佐良の瞳を直視できず、伸ばされた腕をぼんやりと見つめた。
「佐良、さん…、だから…離して、」
唇の感触を楽しみ弄ぶように動く親指をそっと制するように握る。
ここは居酒屋だ。
周囲の個室から聞こえる話し声が、余計に羞恥心を煽って居た堪れない。
彼の全てに抗えない自分がとても浅ましく思えて。
「うん、分かった。」
存外に聞き分け良く離れて行く熱にほっとする。反面、名残美味しいと感じる自分に泣きそうになる。
いつから、こんなにも醜い人間になってしまったのか。
過去に自らが侮蔑した人間と正しく同じではないかと感じる。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。明日からしばらく一緒なんだから。」
先程までの雰囲気とは打って変わって、佐良はいつものように子供に接する時のような柔らかい笑みを浮かべた。
だから尚更、自分の体に燻る熱が場違いなようで、それを隠すように目を伏せる。
「ごめん…なさい。」
こんな自分に、佐良は何故執着するのか。佐良の言葉を信じていない訳ではない。でも、醜い自分は触れてはいけない存在なのは確かで。
「本当、可愛いなぁ。自覚ない?今、すごく物欲しそうな顔してる。そういうところ…だよ。」
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