悪い奴ほど佳く啼く

毒島醜女

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三章 選ばれた私たち

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「すこし休憩しましょうか。マリィ。これ貸すからちょっと休んでおきなさい」
「ありがとう……ござい、ます」
アリアンヌは纏っていたマントをマリィに渡す。マリィは子供のようにそれに縋ると、マントに包まりながら横になった。
私もどこかに腰かけて休もうとしたところでアリアンヌに声を掛けられた。
「華音、ちょっとこっちに来て」
「え?ええ?」
寝ているマリィから離れた岩の影に隠れると、アリアンヌは私の顔を覗き小声で話しかけた。
「あなたの力、魔法とは違うようだけど。どんな力なの?」
「まほう?というものではないわ。鬼道というものよ。術師が疲弊した時の保険のため、こういった護符に力を納めることもあるわ。一枚使って、今あるのはこの二枚だけ」
そうよ。伊佐森家の人間だから出来る事なのよ。あの女はこんな事も出来なかったって言うのに。
「なるほど……そういうことね」
溜め息をついたアリアンヌが、私に手を差し出す。
中指に嵌めた大振りの指輪が目に入る。
横一列に彼女の髪のような薔薇色の宝石が二つはめ込まれていた。左端の一つの石だけは真っ黒にくすんで錆ついている。
「その指輪……」
「代々我が一族は魔力を宝石に込めるの。いざという時のためにね。残りは二発。詠唱無しでも魔力が溜まるはずなのに、回復しない……きっとこの空間のせいだわ」
ふと顔をあげてマリィがいる方角を見る、
「マリィも口ぶりから魔術を使えるそうだけど、その為の杖がないと何も出来ないみたい。はっ、所詮は庶民の猿真似ね。どうやらこの狂った世界で頼りになるのは私とあなただけみたいだわ」
「そのようね……っ」
手元の札を握りしめる。この二枚が唯一私が頼れる救いの手。
「そこで提案よ華音。優先すべきことを決めましょう」
「優先?」
「命の優先順位よ」
凛とした様子で彼女はそういう。
纏う鎧は飾りではないらしく、こういった命を賭する戦いに慣れているのだろう。
「力を持つ私とあなた、その次がマリィ。後は扉の向こうの奴らね。どうせ他の扉の世界にいるのだって、あの鬼婆のように口だけがご立派な無能たちに決まってるわ。でも、生かせるならなるべく生かして此処へ連れておきましょう。無能でも盾替わりにはなってくれるはず。でしょ?」
「……そうね。私たちが生きて輝石を持ってくればいいだけだものね」
「攻撃手段はあなたと私で合わせて残り四つ。慎重に動いてちょうだい。私達が七つの輝石を集めて最後まで生き延びる為に何をすべきか、をね」
そこでアリアンヌは私の肩に手を置いた。翡翠色の瞳が鋭く私を見る。
「さて、じゃあ次に行きましょうか。大丈夫?」
「ええ。もう十分休んだわ」
そうよ。絶対諦めないわ!
過去に戻ったら絶対誰にも譲るもんですか。あの女を退けて、私こそが逸人はやと様の妻になってやるんだから!
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