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カーリング
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「一緒に見ようよ」
ソファの空いたスペースをポンポンと叩いて彼が呼ぶ。
「ちょっと、待ってて」
チーズとクラッカーとそれからイカの塩辛と。
彼の好きなつまみをお皿に乗せながら背中で答えると、早く早くと急かされる。
一チーム四人。それぞれが二回づつストーンを投げる。中心までの距離は407メートル。スキップと言われる二人以上が、氷の上を強くこすりながらストーンの向きや速さ、距離を調整していく。
オリンピックを見始めてから知った、にわか知識を披露される。つい先日Wikipediaで調べてたのは知ってる。
それでも、なんだか楽しそうに説明してくるのを見るのがうれしくて、つい初めて聞いたような顔で答えてしまう。
はやりもの好き。
熱しやすく冷めやすい。
そんな彼の性格はよくわかってる。
「でさ、」
と彼はこちらをのぞき込んでくる。
「中心に一番近いストーンを投げた方の勝で、そのチームの投げたストーンの数が点数になるんだ。中心の周りをいくら囲ってもダメなの、中心に一番近いところにいるやつが勝ち」
画面を見れば赤いストーンが中心の赤い輪の周りを囲んでいる。黄色いストーンはずっと遠くに一つだけ。
手前にストーンを置くのは敵の動きを防ぐため。
そんな解説を聞きながらテレビをぼんやり見ている。
これだけ囲われたら、もう赤の勝ちなんじゃないの。
一方的な展開に少し興味がそれる。どうしてこんなにも彼が夢中になるのかわからない。
ああ、流行ってるからか。
テレビでも職場でもここ二、三日この話題で持ち切りだ。
今まで名前すら知らなかった競技も選手の名前も当たり前のように語られる。
彼はそういうことに敏感だから。
それでも楽し気にしているのをすぐ隣で見ることができるのは幸せだ。
黄色いストーンが投げられた。
「ああ、弱いな」
彼のつぶやきのとおり、ストーンは円に向かうかなり前で止まった。
もどかしい。
「強く投げて、スキップが調整するんだ」
弱く投げたものを強くすることはできないから、投げるのは慎重に、でも力強く。
そんな彼の言葉を聞きながら、取り残されたような黄色いストーンを見つめた。
慎重に、でも強く、なんていうのは簡単だけど難しいんだよ。
真ん中に一番近い場所。
一人勝ちできる場所に陣取ってやりたい。
隣に座ってたって、そこか中心かどうかなんてわからない。確かめるのが怖い。
「うわ、すげぇ」
ため息のような彼の歓声に我に返る。
画面にはするすると進む黄色いストーンがまるで導かれるかのように、大きく湾曲して中心に納まっていく。
「勝ったな」
興奮した声が耳元で響く。
敵のストーン三個の間をすり抜けて、中心の座った黄色いストーン。
奇跡か魔法かとも思うのに、まるであたりまえのような顔をしてそこにある。
いいなぁ
敵も味方の関係ない。
周りの全部を無効にしてしまうように、真ん中に居座ることができればいいのに。
ソファの空いたスペースをポンポンと叩いて彼が呼ぶ。
「ちょっと、待ってて」
チーズとクラッカーとそれからイカの塩辛と。
彼の好きなつまみをお皿に乗せながら背中で答えると、早く早くと急かされる。
一チーム四人。それぞれが二回づつストーンを投げる。中心までの距離は407メートル。スキップと言われる二人以上が、氷の上を強くこすりながらストーンの向きや速さ、距離を調整していく。
オリンピックを見始めてから知った、にわか知識を披露される。つい先日Wikipediaで調べてたのは知ってる。
それでも、なんだか楽しそうに説明してくるのを見るのがうれしくて、つい初めて聞いたような顔で答えてしまう。
はやりもの好き。
熱しやすく冷めやすい。
そんな彼の性格はよくわかってる。
「でさ、」
と彼はこちらをのぞき込んでくる。
「中心に一番近いストーンを投げた方の勝で、そのチームの投げたストーンの数が点数になるんだ。中心の周りをいくら囲ってもダメなの、中心に一番近いところにいるやつが勝ち」
画面を見れば赤いストーンが中心の赤い輪の周りを囲んでいる。黄色いストーンはずっと遠くに一つだけ。
手前にストーンを置くのは敵の動きを防ぐため。
そんな解説を聞きながらテレビをぼんやり見ている。
これだけ囲われたら、もう赤の勝ちなんじゃないの。
一方的な展開に少し興味がそれる。どうしてこんなにも彼が夢中になるのかわからない。
ああ、流行ってるからか。
テレビでも職場でもここ二、三日この話題で持ち切りだ。
今まで名前すら知らなかった競技も選手の名前も当たり前のように語られる。
彼はそういうことに敏感だから。
それでも楽し気にしているのをすぐ隣で見ることができるのは幸せだ。
黄色いストーンが投げられた。
「ああ、弱いな」
彼のつぶやきのとおり、ストーンは円に向かうかなり前で止まった。
もどかしい。
「強く投げて、スキップが調整するんだ」
弱く投げたものを強くすることはできないから、投げるのは慎重に、でも力強く。
そんな彼の言葉を聞きながら、取り残されたような黄色いストーンを見つめた。
慎重に、でも強く、なんていうのは簡単だけど難しいんだよ。
真ん中に一番近い場所。
一人勝ちできる場所に陣取ってやりたい。
隣に座ってたって、そこか中心かどうかなんてわからない。確かめるのが怖い。
「うわ、すげぇ」
ため息のような彼の歓声に我に返る。
画面にはするすると進む黄色いストーンがまるで導かれるかのように、大きく湾曲して中心に納まっていく。
「勝ったな」
興奮した声が耳元で響く。
敵のストーン三個の間をすり抜けて、中心の座った黄色いストーン。
奇跡か魔法かとも思うのに、まるであたりまえのような顔をしてそこにある。
いいなぁ
敵も味方の関係ない。
周りの全部を無効にしてしまうように、真ん中に居座ることができればいいのに。
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