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物語は都会の喧騒の中で健気に生きるΩの少年と、少年に拾われたロボットが友情を深めていくというストーリーらしい。
しかし1日で数秒くらいしか進んでなさそうだし、完成までには気の遠くなりそうな時間が必要だろう。
完成まで気長に待つかぁ。そのうちBLストップモーションとかやってくんないかな。俺にも手足があったら絶対やってたのにな。俺ならあのシーンは少年の顔をドアップにして 


折り紙の鶴も折れないような俺が『俺なら』? 


何考えてんだろ。まあいいやそろそろ主人が帰ってくる時間だ。俺も帰ろう。 

主人のリビングに戻るとちょうどハルマくんが帰ってきた。バイトの鬼が主人より先に帰ってくるなんて珍しい。
と思ったらなにやらキッチンでごそごそぐつぐつ作り始めた。この匂いはビーフシチュー?煮込んでる間にサラダやおつまみをぱぱっとつくって金色の文字風船を膨らまし始める。料理を並べてグラスを磨いて電気を消して…

て、手際がよすぎる…!普段鼻の穴膨らましながら家事をして褒めてもらいに行く主人と大違い!本物の生活力!
でもこれパーティの準備?だよな。もしかして今日って


「Happy birthdayサクト!」

やっぱりー!主人の誕生日!!
真っ暗な部屋に電気をつけた主人の目の前には、クラッカーを持ったフリフリエプロンのハルマくんが!!主人崩れ落ちて号泣してる!!

「19歳おめでとう~離れてた10年間のウン10倍ずっといっしょにいようね。まだお酒飲めないからバ先でノンアルワインもらって…うぷっ」
あーキスの猛攻撃が始まりました。ハルマくんの顔中がよだれでべとべとだ。

「んもう!僕よりお風呂よりご飯が先だよ!拒否権なし!がんばってつくったんだから。」
かわちいいいそして男前ぇぇ!!


主人はビーフシチューをひとくち食べてまた泣き出した。小さい頃2人で一緒に作った初めての料理らしい。
…いいなぁ、主人たちを見てるとなんかうらやましいような懐かしいような気持ちになる。童貞だったのにな。
クソボンボンのくせにこんな最高のお嫁さんもらっちゃってさ、…ムカついてきた。

っと、玄関のチャイムが鳴った。
うわーすげぇ主人機嫌悪そう。イチャイチャタイム邪魔されたもんな。ドア開けた瞬間殴り飛ばすなよ?

「誰だよっ…て、リョウか」

リョウ?聞いたことあるような無いような…主人、友達いたんだ。というかハルマくん以外に交流のある人間がいたんだ。

主人に引き摺られるように入ってきたのは…え?あのヒキニート!なんで、知り合いなのか?というかリョウって名前だったんだ。

ヒキニート改めリョウは主人に掴まれていた腕を振りほどくとずいっと紙袋を渡した。

「ハルマ、こいつ、従兄弟、リョウ。以上。」

主人、すごく嫌そう。ハルマくんを誰にも紹介したくないのか。カタコトだぞ。

「母さんからだ。お前が誕生日だからって仕送りの中に。じゃあ。」

リョウはハルマくんを一瞥するとそのまま帰ろうとした。主人がその腕を再び掴む。

「待てよ、お前…佐々木には、会ってるのか」
「うるさい!」

あっ、リョウ逃げた。佐々木って誰だ、思ったより主人の交友関係広かったんだな。リョウの元カノか? 

え 

しゅ、主人がハルマくんのこと以外でしょぼくれてる…?!ハルマくんのお胸でぽふぽふをもってしても治らない…!?
ハルマくんのお胸に向かってモゴモゴ話し始めた主人曰く。 

従兄弟のリョウにはそれはそれは大切な親友、佐々木くんがいたが、彼は8ヶ月前に子供を庇ってトラックに跳ねられ、意識不明の植物状態にあるのだという。
リョウは足げしく病室に通っていたが、遂に3ヶ月前から引きこもりを始めてしまった。
心配した彼の母、つまり主人の叔母が、同じフロアに住んでいる主人に泣きついてきたらしい。
主人は、ボロボロになりながら佐々木くんとの趣味であった映像制作にのめり込むリョウを心配しつつも何もできていなかった。

「ハルマ以外の人間なんて正直どうでもいいと思ってたけど、リョウはハルマがいなくなって荒んでた僕を気にかけて、ただ待ってるだけじゃダメだ、嫁になるには努力しろって背中を押してくれた人なんだ。」

うーん植物状態の友人の覚醒を待ち続けるイケメン…BLだな。絶対好きじゃんそれ。俺もしかしてナマモノ耐性ついてきた?
でもそうか…あのヒキニートにもそんな暗い過去があったんだな。

「今のあいつは、昔の僕みたいで…」

ハルマくんは愛おしそうに主人を撫でる。

「じゃあリョウさんと佐々木さんは僕たち2人の恩人なんだね。なら僕だって無関係じゃないんだ。2人でできることを探そう?」

いい人…さすがハルマくん。不謹慎にBLだとか言ってる俺と大違い!
でもそうだな。

俺は何もできないけど、枕にはただ話を聞くっていう役目があるんだ。 
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