檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺

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奇跡の舞台

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私の想いが維澄さんに届いた後、あの場で上條社長はこんな事を言い出したのだ

………… ………… …………

「IZUMI?お前がKスタジオに復帰するなら、私からも一つ条件を呑んでもらいたい」

 上條社長は「維澄さんをKスタジオに復帰させる」ことを了承したすぐ後に、今度は上條社長からある条件を提示された。

 私はその条件を聞いた瞬間、あまりのことにポカンと口を開けてしまった。

 全くこの人ときたら……

 ”私と維澄さんのポジションの件は追々考える”と言っていたくせに……


 やぱりこの人の仕事のセンスとスピード感はずば抜けている。


「今日のオーデションの優勝者とゲスト審査員のYUKINAで披露撮影会を行う。それにIZUMIにも出てもらいたい。それが条件だ」

「ええ!!!」

 維澄さんはそう叫びつつ、私のプロポーズで真っ赤に染まっていた顔が一気に青ざめてしまった。


「そ、それって維澄さんをモデルとして出演させるってこと?」

「むろんそうだ」

「だって、まだ維澄さんをモデルとして復帰させるかどうかなんて先の話でしょ?」

「あくまで今日だけのサプライズイベントにする」

「そ、そんな行き当たりばったりな」

「仕事なんてそんなものだ。浮かんだアイデアは直ぐに行動に移す。これが成功の秘訣だぞ、檸檬?」

「い、いいですよ。別に私は上條社長の経営サポートなんて話、真に受けていませんから」

「それからIZUMIの名前は敢えて伏せる。でも業界の人間は絶対に気付く。そしてIZUMIを見たことない人は度肝を抜かれる。」

「で、でも裕子さん。私はずっとモデルから遠ざかっているし、さっきから大泣きして顔だったボロボロだし……」

「ハハハ、大丈夫だよ。たしかにIZUMIは7年ものブランクがある。でも逆にそのIZUMIがどのくらいのリアクションがとれるのか。私としては見極めておくのも悪くない」

「でもそれってこのオーデションの優勝者が可哀そうじゃないですか?きっと維澄さんの美しさが会場を”全部持っていっていまう”んじゃないですか?」

「まあ、そうなる可能性は高いな。だから檸檬には申し訳ない」

「そ、それってやっぱり私が優勝するってこと?」

「それはさっき言ったろう?」

 え?……ということは私と維澄さんとYUKINAが同じステージに立つ?

 これは所謂”公開処刑”というヤツでは?

 でもそんな”恥をかく”ことよりも私と維澄さんが同じステージに立つということの興奮がそれを上回って私は天にも昇る高揚感に満たされてしまった。

 だって私が夢にまで見た光景が現実のものとなるなんて。

 私はあまりの興奮でステージでの記憶がほとんどなくなってしまうほどだった。

 果たして……

 上條社長の予想通り……いや、きっとそれ以上の事件となってこの時の映像が全国区のニュースで流れてしまった。

 たかだか地方のモデルオーデションが全国区のニュースになるなんて、さすがマスコミを支配するKスタジオだ。

 案の定、反響はすさまじいものがあった。

 ”だれだ?あの美女は?””女神がいる””あれはCGじゃないの?”ととにかく注目は全部維澄さんに集まった。

 私はおろか、今やトップを走るYUKINAですらその存在感がかき消される程のインパクトを維澄さんは残してしまった。

 そして”あれはもしかして伝説のモデルIZUMIじゃないか?”と維澄さんの存在に気付いた人も多くいたようだった。

 美香が口にした「あの映像」とはこの時の維澄さんの映像のことだ。


 私は維澄さんとYUKINAの存在感に隠れて随分可哀そうになってしまったのだけれど、それもで学校では大騒ぎになった。

 それから毎日のように一度も話をしたことがない生徒から先生までがひっきりなしに尋ねてくるようになって、告白される頻度も男女問わず数え切れないほどになってしまった。

 美香と杏奈には維澄さんがこのドラッグストアーにいることは口止めして貰っている。

 まさかこのドラッグストアーに”女神と話題の女性”が私と一緒にアルバイトをしているなんて知れたら大変なことになる。

 幸いなことに……というか非常に不思議なことに、渡辺店長は私がオーデションに優勝したことはニュースで見たと言っていたのに維澄さんのことに気付いていない。

 全くあの店長はどこまでいっても抜けているから助かった。

 もちろん知ったら卒倒して失神しかねないが。


 …… …… ……

「檸檬、東京行ってもちゃんと連絡してよね?」

「もちろんよ!美香も東京に来ることがあったら必ず言ってね?」

「二人で檸檬とあっても大丈夫?維澄さん?」

「も、もちろん構わないわよ……」

「あ、ちょっとやな顔してた……フフフ」

「美香、もう維澄さんからかうのはヤメテよ?」

「いいじゃない!この先二人はずっと一緒んなんでしょ?これくらいの意地悪したって全然いいの!」


 私は美香だけには、維澄さんとの顛末を全て話をした。

 維澄さんも私のことを好きでいてくれたこと。

 二人でKスタジオに入ること。

 そして……東京で一緒に暮らすことも。

 この話をした時、少しだけ美香は辛い顔をした。

 中学以来、私にとって唯一の理解者である大親友だ。

 そして彼女は私に友人以上の感情を抱いてくれていた。

 私はそれを嬉しくも思っている。

 美香はそれでも私が維澄さんを愛していることを知っても、いままでと同じように接してくれている。

 だから美香とも一生親友として関係を継続していきたい。

 きっと美香だった同じ気持ちのはずだけど……やっぱりそれ以上の感情が美香にあるのだと思うと辛い。

 ただ……

「維澄さんにあきたら私の相手もしてね」

 と何度も言う時の美香の目が……

 結構本気っぽくて少々焦るのだが。
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