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聞いてない!
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「なんだ櫻井?何の問題もないだろう?」
上條社長は不満な視線を櫻井さんに向けながらそう言った。
「問題が起きてからでは遅いでしょ?だから今日はここまでにしましょう」
そうか。
やっぱりそうなのだ。
上條社長は、この状況で維澄さんが精神的に動揺してしまうことを想定していたんだ。
だから自分のストッパー役に櫻井さんを呼んだのだ。
普通に考えれば例えYUKINAの彼氏とはいえ一介の大学生がこの上條社長にここまで意見しているのは、かなり違和感がある。上條社長の性格ならこの場で大学生の意見を聞くとは到底思えない。
櫻井さんは、ここに来てから全身全霊の注意を払って維澄さんの行動を注視していたんだ。
私はこの櫻井という人のあまりの”目聡さ”に気付いてた。
だから一見和やかに見えるこの場でも、私達が気付かない維澄さんの異変にもしかしらた櫻井さんだけ気づているのかもそれないという想像はできた。
しかし肝心の維澄さんは……
まったく状況を掴めていない様子で怪訝な顔で上條社長と櫻井さんのやり取りを聞いていた。
「分ったよ。櫻井。今日はこの辺しておく。」
上條社長はそう言うと、ようやく櫻井さんは少し緊張を解いた気がした。
「ところで檸檬……」
「は、はい」
突然、上條社長は話しの矛先を私に向けてきた。
私は真剣な上條社長の顔に緊張が走った。
「あなたKスタジオに入りなさい」
「へ?」
私はあまりのことに呆けた顔で間抜けな返事をしてしまった。
「か、上條さん!!その話を今しちゃダメだって!」
櫻井さんが烈火のごとく上條さんを怒鳴りつけた。
しかし、この時、この場でもっとも激しいリアクションをしたのは私でも櫻井さんでもなく維澄さんだった。
維澄さんの驚愕の顔が上條社長に向けられた。目は大きく見開き口まで唖然と開かれてしまっていた。
そして見る見ると維澄さんの顔が蒼白に変わるのが分かった。
「な、なんだ櫻井?檸檬の話しはいいだろう?」
「よくないでしょ?むしろ絶対ダメでしょう?」
「な、なんでだ?」
「分かるでしょ?ってかそれくらい分ってくださいよ?!」
櫻井さんは激しく動揺して上條さんを責め立てた。
私はいまだ上條社長が言った意味が分らずにどう反応していいか分らない。
私がKスタジオに入る?
どういうこと?
私にモデルをやれってこと?
いや、上條社長が私にモデルの才能があるなんて素振りはいままで一切見せなかった。むしろ維澄さんと比較されて揶揄されていたくらいだ。私だってモデル界で絶大なステータスを誇るKスタジオのモデルになれるなんて全く思っていない。
じゃあなんで?
「ゆ、裕子さん?今のどういう意味ですか?」
維澄さんは真っ青になってしまった顔で、上條社長を睨みつつそう言った。
「いや……この話は、また」
上條社長は櫻井さんに詰め寄られてこれ以上この話を続けようとしなかった。だから維澄さんの問いかけをうまくかわそうとした。
しかし維澄さんはそれを許さなかった。
「ごまかさないで!今の話しどう言う意味なの?」
維澄さんが大きく肩で息をしはじめている。
やばい……
私はこんな維澄さんを一度見たことがある。
まえに美香と一緒にドラッグストアを訪れた時だ。
あの時、私と一緒にいる美香をみて維澄さんは動揺してパニック発作を起こしたんだ。
まずい。またあの時と同じになる。
なんでだ?なんで維澄さんがこんなに動揺しているんだ?
分らない。櫻井さんは気づているのか?この意味に?
でも、とりあえず維澄さんの動揺をおさめないと……
「維澄さん?今日はここで止めときましょう。よかったじゃないですか?ちゃんと上條さんにあやまることができたし……がんばったよ」
私は維澄さんと上條社長の間に入って、まず維澄さんの視界に”私の顔”を入れた。そして注意を私に向けるべく両肩に手を当ててなんとか維澄さんの突然の興奮をなだめようとした。
しかし、私の努力もむなしく維澄さんは目の前にいる私には全く視線を合わせず私の肩越しから上條社長を睨みながらなお言葉を止めようとしない。
「ゆ、裕子さん?またなの?」
”また?”またってなんなの?
「裕子さん?私だって当然気付いてるわよ。檸檬が今日優勝することは」
「は?!……な、なにをいってるんですか?維澄さん?」
「それで檸檬をKスタジオのスカウトしようとしてるんでしょ?」
「維澄さん?なに訳のわからないこと言ってるんですか?どうしたんですか?そんな妄想みたいなこと?」
私は維澄さんがすでにまともな思考が出来ないくらいに混乱しているのだろうと激しく焦ってしまったが……どうやらそうではなかった。
上條社長は櫻井さんの制止と維澄さんの問いかけに挟まれて逡巡していたが、櫻井さんの表情を確認しながら慎重に話しをはじめた。
「維澄?確かにあんたも気付いいるように檸檬は特別だ。だからKスタジオにと思ったのもその通りだ。」
「な、なんですって!?どういうことですか?!」
私は驚きのあまり大声を上げた。
き、聞いてない!!維澄さんだって一度もそんなこと言ってないじゃない?
いやさっきだって、上條社長との件が終わったら、本番待たずに仙台で食事して帰ろうって約束していたじゃない?それって本番まで残れず予選で落ちる前提の話しだよね?
「檸檬?今日はこれ以上はこの話はなしだ。とにかくあんたは今日、本番があるからそのつもりでいて」
「なっ……」
私は絶句したまま動けなくなってしまった。
維澄さんの動揺を治めようにも、今度は私がそれどころではなくなってしまった。
上條社長は不満な視線を櫻井さんに向けながらそう言った。
「問題が起きてからでは遅いでしょ?だから今日はここまでにしましょう」
そうか。
やっぱりそうなのだ。
上條社長は、この状況で維澄さんが精神的に動揺してしまうことを想定していたんだ。
だから自分のストッパー役に櫻井さんを呼んだのだ。
普通に考えれば例えYUKINAの彼氏とはいえ一介の大学生がこの上條社長にここまで意見しているのは、かなり違和感がある。上條社長の性格ならこの場で大学生の意見を聞くとは到底思えない。
櫻井さんは、ここに来てから全身全霊の注意を払って維澄さんの行動を注視していたんだ。
私はこの櫻井という人のあまりの”目聡さ”に気付いてた。
だから一見和やかに見えるこの場でも、私達が気付かない維澄さんの異変にもしかしらた櫻井さんだけ気づているのかもそれないという想像はできた。
しかし肝心の維澄さんは……
まったく状況を掴めていない様子で怪訝な顔で上條社長と櫻井さんのやり取りを聞いていた。
「分ったよ。櫻井。今日はこの辺しておく。」
上條社長はそう言うと、ようやく櫻井さんは少し緊張を解いた気がした。
「ところで檸檬……」
「は、はい」
突然、上條社長は話しの矛先を私に向けてきた。
私は真剣な上條社長の顔に緊張が走った。
「あなたKスタジオに入りなさい」
「へ?」
私はあまりのことに呆けた顔で間抜けな返事をしてしまった。
「か、上條さん!!その話を今しちゃダメだって!」
櫻井さんが烈火のごとく上條さんを怒鳴りつけた。
しかし、この時、この場でもっとも激しいリアクションをしたのは私でも櫻井さんでもなく維澄さんだった。
維澄さんの驚愕の顔が上條社長に向けられた。目は大きく見開き口まで唖然と開かれてしまっていた。
そして見る見ると維澄さんの顔が蒼白に変わるのが分かった。
「な、なんだ櫻井?檸檬の話しはいいだろう?」
「よくないでしょ?むしろ絶対ダメでしょう?」
「な、なんでだ?」
「分かるでしょ?ってかそれくらい分ってくださいよ?!」
櫻井さんは激しく動揺して上條さんを責め立てた。
私はいまだ上條社長が言った意味が分らずにどう反応していいか分らない。
私がKスタジオに入る?
どういうこと?
私にモデルをやれってこと?
いや、上條社長が私にモデルの才能があるなんて素振りはいままで一切見せなかった。むしろ維澄さんと比較されて揶揄されていたくらいだ。私だってモデル界で絶大なステータスを誇るKスタジオのモデルになれるなんて全く思っていない。
じゃあなんで?
「ゆ、裕子さん?今のどういう意味ですか?」
維澄さんは真っ青になってしまった顔で、上條社長を睨みつつそう言った。
「いや……この話は、また」
上條社長は櫻井さんに詰め寄られてこれ以上この話を続けようとしなかった。だから維澄さんの問いかけをうまくかわそうとした。
しかし維澄さんはそれを許さなかった。
「ごまかさないで!今の話しどう言う意味なの?」
維澄さんが大きく肩で息をしはじめている。
やばい……
私はこんな維澄さんを一度見たことがある。
まえに美香と一緒にドラッグストアを訪れた時だ。
あの時、私と一緒にいる美香をみて維澄さんは動揺してパニック発作を起こしたんだ。
まずい。またあの時と同じになる。
なんでだ?なんで維澄さんがこんなに動揺しているんだ?
分らない。櫻井さんは気づているのか?この意味に?
でも、とりあえず維澄さんの動揺をおさめないと……
「維澄さん?今日はここで止めときましょう。よかったじゃないですか?ちゃんと上條さんにあやまることができたし……がんばったよ」
私は維澄さんと上條社長の間に入って、まず維澄さんの視界に”私の顔”を入れた。そして注意を私に向けるべく両肩に手を当ててなんとか維澄さんの突然の興奮をなだめようとした。
しかし、私の努力もむなしく維澄さんは目の前にいる私には全く視線を合わせず私の肩越しから上條社長を睨みながらなお言葉を止めようとしない。
「ゆ、裕子さん?またなの?」
”また?”またってなんなの?
「裕子さん?私だって当然気付いてるわよ。檸檬が今日優勝することは」
「は?!……な、なにをいってるんですか?維澄さん?」
「それで檸檬をKスタジオのスカウトしようとしてるんでしょ?」
「維澄さん?なに訳のわからないこと言ってるんですか?どうしたんですか?そんな妄想みたいなこと?」
私は維澄さんがすでにまともな思考が出来ないくらいに混乱しているのだろうと激しく焦ってしまったが……どうやらそうではなかった。
上條社長は櫻井さんの制止と維澄さんの問いかけに挟まれて逡巡していたが、櫻井さんの表情を確認しながら慎重に話しをはじめた。
「維澄?確かにあんたも気付いいるように檸檬は特別だ。だからKスタジオにと思ったのもその通りだ。」
「な、なんですって!?どういうことですか?!」
私は驚きのあまり大声を上げた。
き、聞いてない!!維澄さんだって一度もそんなこと言ってないじゃない?
いやさっきだって、上條社長との件が終わったら、本番待たずに仙台で食事して帰ろうって約束していたじゃない?それって本番まで残れず予選で落ちる前提の話しだよね?
「檸檬?今日はこれ以上はこの話はなしだ。とにかくあんたは今日、本番があるからそのつもりでいて」
「なっ……」
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