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ラストチャンス
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「檸檬?オーデションの本番なんだけど……」
「うん?」
「当日、私も同行しなくちゃいけないかな?」
「はあ?」
今更何を言い出すんだ?この人は。
そもそも維澄さんの強い推しがあったからこそスタートしたモデルのオーデションでしょ?
勿論、私の維澄さんに近づきたいという下心が多いにあったことは認めるけど。
「ここまで一緒に頑張ってきて本番来てくれないとか、ありえないでしょ?」
私はさすがに怒気を込めて言い返した。
「そ、そうだよね」
「何なんですか?なんか行きたくない理由でもあるんですか?」
「檸檬からメール転送してもらったオーデション本番の要綱なんだけど」
「ええ、それがどうしたんですか?」
「檸檬は、あの内容良く読んだ?」
「え~っと、まあザッとはね」
いや、実はほとんど読んでないんだよね。維澄さんにメール転送した時点で気持ち的に丸投げしてしまってたから。
「じゃあ、気付いてないんだね」
「何が?」
「だからオーデションのゲスト審査員にYUKINAが来ること」
「え!?あのYUKINAが!?マジですか?……すごじゃないですか?あんな有名人が来るなんて!」
私はつい興奮してそう言い返すと、維澄さんはまた不安な顔をした。
なんでだ?今をときめくYUKINAと維澄さんの接点は世代的におそらくないと思うんだけど?何が不安なんだ?
「まあ、YUKINAさん自体は私も凄いモデルさんだと思うし、檸檬も間近で見ておくのも勉強になると思うんだけど……」
「だけど?」
「だから、分るでしょ?YUKINAさんはKスタジオのモデルさんだから……」
そ、そうか……YUKINAが会場に来るということはこのオーデションにKスタジオのスタッフが多く来場することになる。つまり維澄さんを知る多くの人たち。そしてその人たちはきっとスタジオに大損害を与えた維澄さんを快く思っていない。
いや、そんなことよりも……”あの人”が来る可能性だ。
そうKスタジオ社長の上條裕子。
維澄さんが最も引っ掛かっているのはそこだろう。
今回は震災のチャリティーと銘打った全国レベルの大きな大会だ。TV局も入ると聞いている。だとすればメディアへの露出が多い有名人上條裕子が招待されている可能性は極めて高い。
もっと勘ぐってしまえば……
私がはじめてこのオーデションを知った時にはYUKINAがゲスト審査員で来るなんて話はなかった。
それが急にKスタジオがこのオーデションに関与してくるなんて……
まるで上條さんがこのオーデションに無理やりKスタジオをねじ込ませてきたようにも感じてしまう。
もちろん私を目当てになんて自意識過剰なことは言わない。ただ維澄さんが私の背後にいることをすでに知ってしまっている上條社長が無自覚にこんなことをするはずがない。
上條社長にとって維澄さんは未だ大きな意味を持つ人物であることには変わりはないのだ。
そうか……だったらなおさら維澄さんを本番に連れて行かない訳にはいかない。
「維澄さん?逃げちゃだめですよ?」
「れ、檸檬……私は別に逃げるとじゃなくて」
「誤魔化さないで?……きっと上條社長がきますよね?」
「ど、どうかしら?私はただ昔迷惑かけたスタッフにはちょっと顔向けできないというだけで」
「嘘つかないで。もう最後のチャンスかもしれませんよ?会って上條さんにちゃんと謝りましょう?そしてスタッフの皆にも」
「そ、そんな簡単に言わないでよ」
当事者でない私だからこそ”言うは易し”なのは分ってる。でも、維澄さんのことを思えばそうすることが絶対正解なのは間違いない。
私は早く維澄さんを上條社長から解放させてやりたい。そして自分本位のずるいことを言ってしまえば上條裕子との恋をしっかりと終わらせてほしい。
私は何があろうとも維澄さんの側に一生いる決続ける決心はついている。でも少しは維澄さんとの恋が進む未来への希望だってもってみたい。もちろん私が望むことだけど、きっと維澄さんも今のまま過去に縛られるよりその方が幸せになれる気がするから……都合のいい私の想いだけなのかもしれないけど。
「大丈夫。私がちゃんと側にいてあげるから」
「な、なによ、反対でしょ?当日は私が檸檬の側にいてサポートする側なんだから。またそんな子供扱いしないでよ」
「もちろんオーデションに関しては維澄さんに頼りまくりますよ。でも上條さんの件をちゃんと知ってるのは私しかいないんでしょ?」
「それはそうよ」
維澄さんは当然のようにサラリとそう応えたが、その言葉で私は自分が維澄さんにとっての“特別”であること今一度確認させられることになり、その嬉しさとそして責任をずしりと感じていた。
「でしょ?だったらこの件は、維澄さんは私しか頼れないんだからもっと頼ってくださいよ。何度も言うけど、維澄さんを守るのが私の使命なんだからね?」
「ま、また檸檬はそんなカッコいいことばかり言うから」
維澄さんの顔が不安な表情から照れる表情に変わって私は少しホッとした。
大丈夫だ。ぜったいに本番、維澄さんを会場まで引っ張っていく。
フフフ、なんかオーデションで優勝することよりも、維澄さんのトラウマ解消の方が俄然モチベーションが上がるな。
まあ、もちろんモデルになって維澄さんと同じ風景を見たいという夢はある。でもその前に維澄さんとの未来が開けてなければそんな夢に意味がない。いや、夢そのものが成り立たない。
モデルになるチャンスは維澄さんが側にいる限りいくらでもある。
でも維澄さんが上條さんとの関係を解消するのは”ここ”しかない気がする。
きっと今回は上條社長がしかけて来ている気がする。
だったら、過去ではなく”今”維澄さんを愛する人間として私が受けて立ってやる!
だから……
待っとけよ!上條裕子!!
「うん?」
「当日、私も同行しなくちゃいけないかな?」
「はあ?」
今更何を言い出すんだ?この人は。
そもそも維澄さんの強い推しがあったからこそスタートしたモデルのオーデションでしょ?
勿論、私の維澄さんに近づきたいという下心が多いにあったことは認めるけど。
「ここまで一緒に頑張ってきて本番来てくれないとか、ありえないでしょ?」
私はさすがに怒気を込めて言い返した。
「そ、そうだよね」
「何なんですか?なんか行きたくない理由でもあるんですか?」
「檸檬からメール転送してもらったオーデション本番の要綱なんだけど」
「ええ、それがどうしたんですか?」
「檸檬は、あの内容良く読んだ?」
「え~っと、まあザッとはね」
いや、実はほとんど読んでないんだよね。維澄さんにメール転送した時点で気持ち的に丸投げしてしまってたから。
「じゃあ、気付いてないんだね」
「何が?」
「だからオーデションのゲスト審査員にYUKINAが来ること」
「え!?あのYUKINAが!?マジですか?……すごじゃないですか?あんな有名人が来るなんて!」
私はつい興奮してそう言い返すと、維澄さんはまた不安な顔をした。
なんでだ?今をときめくYUKINAと維澄さんの接点は世代的におそらくないと思うんだけど?何が不安なんだ?
「まあ、YUKINAさん自体は私も凄いモデルさんだと思うし、檸檬も間近で見ておくのも勉強になると思うんだけど……」
「だけど?」
「だから、分るでしょ?YUKINAさんはKスタジオのモデルさんだから……」
そ、そうか……YUKINAが会場に来るということはこのオーデションにKスタジオのスタッフが多く来場することになる。つまり維澄さんを知る多くの人たち。そしてその人たちはきっとスタジオに大損害を与えた維澄さんを快く思っていない。
いや、そんなことよりも……”あの人”が来る可能性だ。
そうKスタジオ社長の上條裕子。
維澄さんが最も引っ掛かっているのはそこだろう。
今回は震災のチャリティーと銘打った全国レベルの大きな大会だ。TV局も入ると聞いている。だとすればメディアへの露出が多い有名人上條裕子が招待されている可能性は極めて高い。
もっと勘ぐってしまえば……
私がはじめてこのオーデションを知った時にはYUKINAがゲスト審査員で来るなんて話はなかった。
それが急にKスタジオがこのオーデションに関与してくるなんて……
まるで上條さんがこのオーデションに無理やりKスタジオをねじ込ませてきたようにも感じてしまう。
もちろん私を目当てになんて自意識過剰なことは言わない。ただ維澄さんが私の背後にいることをすでに知ってしまっている上條社長が無自覚にこんなことをするはずがない。
上條社長にとって維澄さんは未だ大きな意味を持つ人物であることには変わりはないのだ。
そうか……だったらなおさら維澄さんを本番に連れて行かない訳にはいかない。
「維澄さん?逃げちゃだめですよ?」
「れ、檸檬……私は別に逃げるとじゃなくて」
「誤魔化さないで?……きっと上條社長がきますよね?」
「ど、どうかしら?私はただ昔迷惑かけたスタッフにはちょっと顔向けできないというだけで」
「嘘つかないで。もう最後のチャンスかもしれませんよ?会って上條さんにちゃんと謝りましょう?そしてスタッフの皆にも」
「そ、そんな簡単に言わないでよ」
当事者でない私だからこそ”言うは易し”なのは分ってる。でも、維澄さんのことを思えばそうすることが絶対正解なのは間違いない。
私は早く維澄さんを上條社長から解放させてやりたい。そして自分本位のずるいことを言ってしまえば上條裕子との恋をしっかりと終わらせてほしい。
私は何があろうとも維澄さんの側に一生いる決続ける決心はついている。でも少しは維澄さんとの恋が進む未来への希望だってもってみたい。もちろん私が望むことだけど、きっと維澄さんも今のまま過去に縛られるよりその方が幸せになれる気がするから……都合のいい私の想いだけなのかもしれないけど。
「大丈夫。私がちゃんと側にいてあげるから」
「な、なによ、反対でしょ?当日は私が檸檬の側にいてサポートする側なんだから。またそんな子供扱いしないでよ」
「もちろんオーデションに関しては維澄さんに頼りまくりますよ。でも上條さんの件をちゃんと知ってるのは私しかいないんでしょ?」
「それはそうよ」
維澄さんは当然のようにサラリとそう応えたが、その言葉で私は自分が維澄さんにとっての“特別”であること今一度確認させられることになり、その嬉しさとそして責任をずしりと感じていた。
「でしょ?だったらこの件は、維澄さんは私しか頼れないんだからもっと頼ってくださいよ。何度も言うけど、維澄さんを守るのが私の使命なんだからね?」
「ま、また檸檬はそんなカッコいいことばかり言うから」
維澄さんの顔が不安な表情から照れる表情に変わって私は少しホッとした。
大丈夫だ。ぜったいに本番、維澄さんを会場まで引っ張っていく。
フフフ、なんかオーデションで優勝することよりも、維澄さんのトラウマ解消の方が俄然モチベーションが上がるな。
まあ、もちろんモデルになって維澄さんと同じ風景を見たいという夢はある。でもその前に維澄さんとの未来が開けてなければそんな夢に意味がない。いや、夢そのものが成り立たない。
モデルになるチャンスは維澄さんが側にいる限りいくらでもある。
でも維澄さんが上條さんとの関係を解消するのは”ここ”しかない気がする。
きっと今回は上條社長がしかけて来ている気がする。
だったら、過去ではなく”今”維澄さんを愛する人間として私が受けて立ってやる!
だから……
待っとけよ!上條裕子!!
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