檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺

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一触即発

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 本来は冬休み中だが、今日はこの高校特有の”年末登校日”なので久々に学校へ登校している。

「神沼さん?」

 朝のホームルーム前に自分の席に座っていると珍しく”クラスメイト”に声を掛けられた。

 悲しいかな、そのことが自分でも珍しすぎて……

「え?私?」

 思わずそう聞き返してしまった。

「ええ、廊下にお客さん」

「あ、ありがとう」

 誰だろう?

 私は廊下まで顔を出すと……




「昨日はすいませんでした!!」

 背の低いショートカットの生徒が突然頭を下げてきた。

 ああ、昨日の……

「え~と……」

 昨日はあまりに多くのことが起きすぎて、そして維澄さんの衝撃の過去に占領されていた頭は咄嗟に彼女のことを思い出すことが出来なかった。

「益川杏奈です」

「ああ、益川さん……」

 私は露骨に”メンドクサイなあ~”という顔をしてしまったのだろうか?

 益川杏奈の顔が少し引きつってしまった。

「ホントに昨日は突然すいませんでした」

「いや、その話だったらもう怒ってないからいいよ……話はそれだけ?」

 私は早々に話を切り上げたかった。

「その……美香先輩さんからもメチャクチャ怒られて」

「え?美香?なんで?」

「私、陸上部で美香先輩の後輩なんです」

 なんだそうか……確かにちょっと美香にイメージが似てると思ったのは美香の影響受けてるのか。

 ひょっとして私だけじゃなくて美香のファンでもあるのかな?

 まあ、そんなものよね。女子高生がいう”好き”なんて。

 だから維澄さんも不安になるわけだな。

 まあ同じ女子高生でも私は全く違うんだけどね。

「ああ、そうなの。でもなんで昨日のことわざわざ美香に話したの?」

「ええ、美香先輩には言っておかないと後で恐いので……いや言っても怒られちゃったけど」

 そんな話をしているとタイミングよく(悪く?)美香が廊下から教室に向かってくるのが見えた。

 美香は私と益川杏奈が話しているが見えたらしく、血相を変えて走ってきた。

「杏奈!また……何しに来たのよ!」

「み、美香先輩……か、神沼先輩にちゃんと謝ろうとしただけですよ」

「またそんな理由つけて檸檬に会いに来ただけでしょ!?」

「美香、どうしたのよ?そんな血相変えて?」

「だっていきなり檸檬に告るとか、ありえない!!」

「美香先輩はずるいんですよ!美香先輩が神沼先輩と仲いいから協力してもらおうと思ったのに、逆にいつも私の邪魔ばかりして。」

「そうなの?美香」

「まあ……ねえ。それはそうでしょ……」

 美香は苦笑いしつつそう言った。

 ああ、まあそうなる……のかな?

 確かに……

 私は美香に続いて苦笑いをするしかなかった。

「まったく私が大きな見込み違いをしてました」

 美香のそんな表情を見ながら益川杏奈は少し不貞腐れながらそういった。

「え?どういうこと?」

 私がそう尋ねると、想定外の答えが返ってきた。

「最初、神沼先輩が美香先輩に気があるのかと思ってました」

「はあ!?」

 思わず大声が出てしまった……

「だから、ちょっと見た目を美香先輩に寄せて見たんですけど、全く逆だったんですね?」

 な、なんだ美香、後輩にバレてるわよ?

「杏奈!いいかげんにしなさいよ?私と檸檬は杏奈が考えるような安っぽい関係じゃないの」

「同じですよ!美香先輩も私と同じ片思いでしょ!?」

 なんだ、この杏奈って娘は思った以上に負けん気が強いな。

「いや益川さん、美香とは中学からの長い付き合いだから美香は私の”特別な”友だちだよ?」

「ええ、知ってます。でも”友だち”ですよね?」

「あんた、ホントに喧嘩売ってんの?!」

 美香が本気で怒りだしてしまった。

 な、なんとかしないと……

「美香とは普通の関係じゃないよね?だから時々は……ねぇ?」

 そういいながら私は美香の腕に手をまわし美香の肩に頭を預ける仕草をした。

 咄嗟のこととはいえちょっとあざとすぎたかな?……

 美香は私のそんな接近に激しく動揺して、幸いに怒りの衝動は爆発寸前で霧散してくれた。

「檸檬!……そういう冗談はやめてよ」

「ゴメン……ちょっと調子乗った。でも冗談ではないでしょ?」

「なによ美香先輩!……デレデレしちゃって」

 ま、まったくこの娘ときたら、まだやる気か……

「でも益川さん?昨日話したことは理解してくれたんだよね?」

 私はすこし厳しい口調で益川杏奈を制さざるを得なくなってしまった。

「ええ……でも私もできれば神沼先輩と友だちになれればと思ってます」

「もちろんそれは全然構わないんだけど……」

 私は今一度昨日の維澄さんのことを思い出していた。

「でも私の”あの人”への気持ちが変わることは絶対ないからそれだけは間違えないでね?」

 昨日の覚悟があったので、この言葉には有無を絶対に許さない強い語感が込められてしまった。

 なにを上から偉そうに……自分でもそう思うのだが、今回はどう思われようとこれだけはハッキリしておかなければならない。

 さすがに、これだけ語気を強めると益川杏奈の顔が引きつってしまった。

 そして私のこの言葉は自然、美香の耳にも入ることになり、美香にも一瞬辛い顔をさせてしまった。

 私も美香のそんな顔を見てしまうと、いたたまれなくなって言葉を失ってしまった。



 気まずい沈黙が続いた。



 その雰囲気に耐えられてなくなったのか、ようやく益川杏奈が口を開いた。

「あ~あ、美香先輩相手ならワンチャン勝てるかもって思ったのに、あの人には勝てる気しないなあ」

「杏奈!またそんな!」

「でも、美香先輩?振られた者同士傷なめ合って仲良くしましょうか?」

「そうだ、なんなら二人付き合えばいいじゃない?」

 つい私も調子に乗ってそんなことを言ってしまった。


 すると……


「あんたが言うな!!」

 美香と益川杏奈は口をそろえて、そう言い返しきた。




 だよね……

 つくづく自分のことばかりで、やなヤツだね……わたしは。

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