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変化の兆し
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「最近、維澄さんは神沼さんといると、よく笑うようになったよね?」
最近、渡辺店長が事あるごとに、いってくるセリフ。
私もその感触はおおいに感じるところだった。
…… …… ……
私がこの店でアルバイトを始めるきっかとなったエピソード。
私が維澄さんを偶然見つけてして「どなりつけてしまった」翌日の学校帰りだ。
もう一度維澄さんに会いたくてこのドラッグストアーの前をうろついてたところを渡辺店長に不審者扱いされて、咄嗟の嘘で「アルバイト希望です」といってしまったことが発端になった。
その日、アルバイト希望(と言ってしまっただけなのだが)の私に維澄さんがこの店を案内してくれた。
この時に、明らかに維澄さんは「モデル」という職業に良いイメージを持っていなかった。それは店の案内が化粧品コーナーに差し掛かった時に見せた維澄さんの異様に暗い態度がそれを物語っていた。
あの時は、化粧品コーナーに何枚も貼られたモデルのポスターに全く目を向けることなく下を向いて早足で通りすぎてしまった。まるでモデル達の写真を忌み嫌うような態度に見えた。その時の表情は”不快”というよりは”苦痛”に近いも印象を受けた。
維澄さんはモデル時代に”トラウマ”があって、それをまだ引きずっているのだと私は解釈した。
そのそのトラウマ事態は良く分からないが、それが原因でこんな田舎町にあるドラッグストアーに身を潜めるというある意味”異常な”アルバイトを続けている。
それはまるで”世間から逃げている”かのように私の目には映った。
それなのに一体どうしたというのだ?
モデルの話題を徹底的に避けていたはずの維澄さんが……
「檸檬、モデルのオーデション受けてみない?」
と自ら提案してきたのだ。
私からすると2つの驚きがあった。一つは単純に、私の憧れだった伝説のモデルIZUMIである維澄さんが、私に本気でモデルを進めてきたこと。
そしてもう一つが、なんであれだけ頑なに「避けいてた」モデルの話題に、自分から積極的に関わるようなことを言い出したのか?ということだ。
もしかすると維澄さんはモデル界を退いたがトラウマになる程の過去では全くないという事なのだろうか?ということまで考えてしまった。つまり勝手に維澄さんに暗い過去を背負わせていたのは全て私の妄想だったという……
しかし、そんなはずはないと思う。
維澄さんはかつて私に「過去の詮索はしないでくれ」とはっきり言ったことがある。しかもかなり強い口調で、そこに強い意志を感じたのを覚えている。
だとしたら、思いっきり暢気な解釈が許されるならば、その暗い過去を押してでも私をモデルとして推挙したいと思った。それは私がそれだけ素晴らしいモデルの素質があるから?
いやいや、さすがにこの想像を自分でしてしまうのは痛すぎる。
実は、私が一番しっくり来て、かつ妄想までも捗ってしまう解釈が他にある。
それは、私との出会いを通じて、維澄さんは過去のトラウマが消えつつあるという解釈だ。渡辺店長が最近よく言う様に、維澄さんは私が出会った当初に比べても各段に明るくなっている。
そう特に私といる時にそれが顕著なんだ。だから私に対しては全く警戒心を解いていしまっているのは間違いない。
私の前で維澄さんは暗い過去をさらけ出してもストレスにならないという心境に変化してきているのではないか?
だとすれば、私がこの「モデルにならない?」という提案に乗らない選択肢はない。私がもっと維澄さんに踏み込むためにも、そしてもしかすると維澄さんの過去のトラウマを解消するためにも。
「維澄さんが”そんなに押すなら”オーデション受けますよ?」
「それだと無理やり私に”やらされてる”みたいじゃない?」
「違いますよ。モデルの素質なんてないと思ってたのに維澄さんがそこまで言うから出来る気になちゃったってことです」
「そうなの?なら、檸檬も前向きに考えてくれてるってこと?」
「もちろんですよ!」
「そう、よかった」
維澄さんはホッとしたように少し笑みを浮かべた。
「でも一つだけ条件があります」
「条件?」
「はい、維澄さんにお願いいたいことがあります」
「え?私に?」
「維澄さんにしか頼めません!」
「え?……な、なに?」
「維澄さん……私のオーデションまでモデルの指南役なってください」
「は?!……え?!」
最近、渡辺店長が事あるごとに、いってくるセリフ。
私もその感触はおおいに感じるところだった。
…… …… ……
私がこの店でアルバイトを始めるきっかとなったエピソード。
私が維澄さんを偶然見つけてして「どなりつけてしまった」翌日の学校帰りだ。
もう一度維澄さんに会いたくてこのドラッグストアーの前をうろついてたところを渡辺店長に不審者扱いされて、咄嗟の嘘で「アルバイト希望です」といってしまったことが発端になった。
その日、アルバイト希望(と言ってしまっただけなのだが)の私に維澄さんがこの店を案内してくれた。
この時に、明らかに維澄さんは「モデル」という職業に良いイメージを持っていなかった。それは店の案内が化粧品コーナーに差し掛かった時に見せた維澄さんの異様に暗い態度がそれを物語っていた。
あの時は、化粧品コーナーに何枚も貼られたモデルのポスターに全く目を向けることなく下を向いて早足で通りすぎてしまった。まるでモデル達の写真を忌み嫌うような態度に見えた。その時の表情は”不快”というよりは”苦痛”に近いも印象を受けた。
維澄さんはモデル時代に”トラウマ”があって、それをまだ引きずっているのだと私は解釈した。
そのそのトラウマ事態は良く分からないが、それが原因でこんな田舎町にあるドラッグストアーに身を潜めるというある意味”異常な”アルバイトを続けている。
それはまるで”世間から逃げている”かのように私の目には映った。
それなのに一体どうしたというのだ?
モデルの話題を徹底的に避けていたはずの維澄さんが……
「檸檬、モデルのオーデション受けてみない?」
と自ら提案してきたのだ。
私からすると2つの驚きがあった。一つは単純に、私の憧れだった伝説のモデルIZUMIである維澄さんが、私に本気でモデルを進めてきたこと。
そしてもう一つが、なんであれだけ頑なに「避けいてた」モデルの話題に、自分から積極的に関わるようなことを言い出したのか?ということだ。
もしかすると維澄さんはモデル界を退いたがトラウマになる程の過去では全くないという事なのだろうか?ということまで考えてしまった。つまり勝手に維澄さんに暗い過去を背負わせていたのは全て私の妄想だったという……
しかし、そんなはずはないと思う。
維澄さんはかつて私に「過去の詮索はしないでくれ」とはっきり言ったことがある。しかもかなり強い口調で、そこに強い意志を感じたのを覚えている。
だとしたら、思いっきり暢気な解釈が許されるならば、その暗い過去を押してでも私をモデルとして推挙したいと思った。それは私がそれだけ素晴らしいモデルの素質があるから?
いやいや、さすがにこの想像を自分でしてしまうのは痛すぎる。
実は、私が一番しっくり来て、かつ妄想までも捗ってしまう解釈が他にある。
それは、私との出会いを通じて、維澄さんは過去のトラウマが消えつつあるという解釈だ。渡辺店長が最近よく言う様に、維澄さんは私が出会った当初に比べても各段に明るくなっている。
そう特に私といる時にそれが顕著なんだ。だから私に対しては全く警戒心を解いていしまっているのは間違いない。
私の前で維澄さんは暗い過去をさらけ出してもストレスにならないという心境に変化してきているのではないか?
だとすれば、私がこの「モデルにならない?」という提案に乗らない選択肢はない。私がもっと維澄さんに踏み込むためにも、そしてもしかすると維澄さんの過去のトラウマを解消するためにも。
「維澄さんが”そんなに押すなら”オーデション受けますよ?」
「それだと無理やり私に”やらされてる”みたいじゃない?」
「違いますよ。モデルの素質なんてないと思ってたのに維澄さんがそこまで言うから出来る気になちゃったってことです」
「そうなの?なら、檸檬も前向きに考えてくれてるってこと?」
「もちろんですよ!」
「そう、よかった」
維澄さんはホッとしたように少し笑みを浮かべた。
「でも一つだけ条件があります」
「条件?」
「はい、維澄さんにお願いいたいことがあります」
「え?私に?」
「維澄さんにしか頼めません!」
「え?……な、なに?」
「維澄さん……私のオーデションまでモデルの指南役なってください」
「は?!……え?!」
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