檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺

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会いたい人

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「檸檬?どうしたの?朝から眉間にしわ寄せて。考えごと?」

 美香は朝のホームルーム前、一人で手持ちぶたさでいるこうしてわざわざ話をしに来てくれる。

「ああ、美香。おはよう。美香はさ……”お寺”ってどういう時に行く?」

「は?突然なに?お寺?なんでお寺?」

「いや、なんかね。ちょっと気になることがあって」

「またいつも檸檬は唐突だよね?」」

 唐突か。そうだよね。私はいつも自分の関心あることだけ色々考えすぎているからイマイチ周りに話を合わせられないのだ。

 だから私は、頭にあることをダイレクトに言葉にしてしまう。

「まあ。お寺と言えば、お墓参り?とか?」

 美香は、たいして興味のない話しにこんな風にやさしくつきあってくれる。

 でも、そうか、美香もそう思うか。

 やっぱりお寺と言ってまず想像するのは……”それ”だよね。

 維澄さんが毎月お寺に通う理由は、お墓参りが濃厚が気がするけど、昨日は否定してた。

「あとはお願いこと?祈願とか」

「え?祈願?それは神社でするんじゃないの?」

「バカだな~お寺だってお守り売ったり、祈願とかもしてるよ?初詣で有名なお寺もあるじゃない?」

「ああ確かに。年越しの番組でよくお寺中継しているね」

 なるほどお願いことか。その線もありか。でも維澄さんにそんな信仰心があるとか、微妙だなあ~。

「あとは、神社仏閣巡り?ご朱印とか流行ってるよね」

「ああ確かに!」

 若い女性の間でも”ご朱印ガール”とか”仏像ガール”だとか”社ガール”だとかなんでも”ガール”をつけて女性雑誌の特集記事になっているのを見たことがある。

 確かに”若い女性”がお寺に行く理由としては、一番可能性がありそうだが、やっぱりこれも”維澄さんのイメージ”とは少し合致しない。

「さすが美香は、物知りだよね?」

「まあ、檸檬に比べて友だち多いからね。自然と情報は集まるの」

「あ~!ヒドイ!!それいっちゃう?」

「言うわよ?檸檬は、いつも周りを”拒否り”すぎるんだよ」

「そんな事ないよ。でも確かに翔からは”近寄りがたい檸檬は女神特性ある”って言われたな」

「何それ?姉を女神とか。翔くんまだ檸檬にシスコンなんだ?」

「そうなんだよね~!未惟奈ちゃんの出現でちょっとヤバいけど、まだまだおね~さん負けてないからね!」

「ああ~未惟奈ちゃんかわいそ!檸檬が相手とか」

「え?それ私が綺麗すぎるってことでいいんだよね?」

「まあ見栄え”だけ”はね」

 確かに私は、学校での話し相手は美香ぐらいしかいない。でも美香はクラスの中心にいて”こんな日常会話”を全ての人たちとやっているのだろう。

 この娘のコミュ力は、ホント凄い。それは情報集まるよね。でもその情報通の美香と話せれば、情報は捕れる訳だから、私のコスパ高くいていいかも?

 まあそんなこと美香に行ったら”人をウェキペディア扱いすんな!”って怒られそうだけど。
 …… …… ……

 私は、学校が終わってからバイトまでの僅かな時間を使って維澄さんが毎月通っているという「大乗院」に立ち寄ることにした。

 目的は当然、情報収集だ。ネットの情報によるとこの「大乗院」というのは岩手では比較的有名らしく、美香が言う様に”祈祷”とか”祈願”を勢力的に行っているお寺らしかった。

 だからなのか、このお寺は、田舎によくある小さな「入りずらい」お寺ではなく、普通の「観光寺院」のように参拝者の為の大きな案内看板がいくつも設置されていた。

 私は境内に入り、本堂の横にある「寺務所」とかかれた場所に向かった。

 さすがに平日の昼間だからか人は少ない。それでも数人の参拝者とすれ違った。

「寺務所」の中には、暇そうにしている年配の僧侶が座っていた。

「あの、ちょっとお尋ねしたいのですが」

「はいはいご参拝、ご苦労さま」

 私は見た目が「不良女子高生」だから、場所によっては、モノを尋ねただけで”しかめっ面”をされることもあるが、今回は物腰は柔らかく丁寧な返事が返ってきた。

 私は少し安心して、聞きたいことをストレートに尋ねて見た。

「このお寺って毎月行ってるイベントとかってあるんですか?」

「イベント?う~ん、イベントと呼べるかどうかわからないけど、縁日のことかな?」

「縁日?あの屋台とか出る?」

「そうか、普通の縁日のイメージはそうなるか。確かに大きなお寺だと毎月そうしているところもあるだろうけど、うちは縁日の法要をやるだけだよ」

 法要?法要って、お坊さんが”ナム~”って本堂で祈る的な?

 違うな、きっとそれは。それに参加するために維澄さんが毎月通うのは違う気がする。

 でも私は念のため聞いて見た。

「その法要に、毎月来る人とかもいるんですか?」

「ああ、信仰のある人は毎月通ってくるよ」

 信仰のある人か。やっぱり違う。維澄さんが、信仰心でお寺に通うイメージが想像できない。

「あと、18日にある”観音さまの縁日”はご本尊を開帳するから、それ目当てで来る人も結構いるよ?うちの観音さまは綺麗で、好きな人には有名みたいだから」

 え!!18日?たしかあの日、維澄さんがストーキングされた日が18日だ。

 しかも店長は維澄さんは”必ず毎月中ごろに休む”と言っていた。

 こ、これだ!

 でも、観音さまの縁日?ご開帳?

「ご開帳?って、なんですか?」

「うちのご本尊は”秘仏”で普段は公開していなから、月に一度、18日の縁日だけ参拝者さんにご本尊をお見せしてるんだよ」

「ご本尊って、仏像とかってこと?」

「そうだね。ふつうは仏像なんだけど、ここのご本尊は絵なんだよ。仏画っていうんだけど」

「絵ですか」

 そうか”絵を見に来ている”というのはあるかもしれない。

 信仰と言うよりは”美術品への興味”ならあり得るかも?

 ”美”への関心ならあれだけ美しい維澄さんのイメージに合致する。

「ほら、あそこにポスターがあるから見てご覧?」

 お坊さんは、寺務所の奥に飾られていたその”ご本尊”がアップで写し出されているポスターを指差してそういった。

 ああ、なるほど。確かに綺麗な観音さまの絵だ。そしてそれは普通よく見る仏様の絵とは違ってなんか”現代風で写実的な”イメージだった。

 これなら若い人の感性でも受け入れられるかもしれない。この絵を見たくて、ここを訪れる人がいるという話も……素人の私でもなんとなく納得できるほどに美しかった。

 でも、やっぱりまだ”ふ”に落ちない。それだけで……と言う言い方は、信仰のある人は失礼だと思うが”維澄さん”のとる行動としては違和感が残る。

 ん?

 あれ?

 この絵。どこかで見たことある。

 いや、違う。誰かに似てるんだ。誰だったかな、この顔。


 ……あ!!

 え?

 ま、ま、まさか!

 ち、……違う!違うんだ!!維澄さんは……この絵を”拝みに”来てるんじゃない。”鑑賞に”来てる訳でもない。

 維澄さんはこの絵に、この絵の”人物”に……

 ”会いに来てる”んだ。

 私は”そのこと”に気付いてしまって言葉を失った。血の気が引いていくのを感じる。

「ど、どうしたの?大丈夫……?」

 数歩よろめいてしまった私を心配したお坊さんが声を掛けてくれた。私はなんとかその動揺を抑えこみながら口を開いた。

「ええ、ちょっと立ちくらみしただけです。私ちょっと貧血気味で」

「そう顔色悪いよ?ちょっと休んでいきなよ?」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。すいません。ご心配かけてしまって」

 知っている。この人。維澄さんのことをネットで調べている時に、いつもヒットしてくるから……。

 その顔は良く覚えている。そうだ。この観音さまは……

 Kスタジオの……

 上條裕子社長にウリふたつだ……。
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