愛の裏切り

相良武有

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第七話 背信

⑤龍二、強引に郁子を抱く

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 十一月の或る夜、龍二が郁子を誘った。
「なあ、今度の連休にドライブでもしないか?」
「泊りがけで無く、日帰りなら良いわよ」
「何処か行きたいところは有るかな?」
「そうね、海が見たいわ、神戸辺りはどうかしら?」
 郁子のマンションの玄関前で待ち合せた二人は、川端通りを南進し、上鳥羽勧進橋町から阪神高速八号京都線に乗って都市高速城南宮北まで走った。更に名神高速道から阪神高速三号神戸線で都市高速京橋まで進み、国道二号線を西に五分程走ると神戸ポートタワーが見えて来た。出発してから一時間半ほどの道程だった。
 神戸ポートタワーは和楽器の鼓を長くしたような双局面構造の美しい外観で、港神戸のランドマークとして赤く聳え立っていた。
二人は一階チケット売り場でチケットを買って、地上二階に在る乗り場から展望エレベータに乗った。エレベータが上昇し始めると途中からシースルーになって眼下に景色が広がった。
「わあ~、すてき!」
郁子が思わず感嘆の声を挙げた。
展望二階で降りてベンチに腰掛けると、だんだん小さくなるフロアと窓の角度に双局面構造であるタワーの形状を実感した。
「双局面構造ってよく解らなかったけど、こういう感じだったのね」
二人は又、エレベータに乗って最上階の展望五階へ上がった。
其処から望んだ港と街は六甲山系の山々から海へと広がる大パノラマだった。
「あそこが淡路島で向こうが大阪湾かしら?」
「そうだろうね」
遠く淡路島から大阪湾対岸の山並みまでが見渡せた。移り行く光と陰、海と青空が絶妙に輝く風景だった。演出も絶妙だった。東西南北にパネルと音声による景観ガイド、テーブルにはハートのダウンライトのアクセント、天井には光ファイバーによるロマンチックな季節の星空、何とも言えぬ憎い趣向だった。
「素晴らしい眺めだな」
「綺麗ねえ!他に言い様が無いくらいの絶景だわ。今日はお天気が良くてラッキーだった
わね」
二人は暫し、時の経つのも忘れて眺望に見惚れた。
 昇りエレベータが到着する展望階の入口である展望四階にはお土産ショップとカップルの為の「ラブラブキータワー」が在った。
「ラブラブキータワー」は、来場したカップルがお互いの名前やメッセージを書き入れてガッチリとワイヤーロープに施錠し、永遠の愛を誓うものだった。流石に二人は、それは憚られた。
お土産ショップには、港や異人館や六甲山など神戸を象徴するモチーフをイメージした商品が並んでいた。龍二はキーホルダーを買った。
「わたしは止すわ」郁子は何も買わなかった。
 展望三階にはニ十分で三百六十度回転するスカイラウンジが在った。二人は昼食と休憩を兼ねて軽食を食べコーヒーを飲み、そして、神戸の街並みをゆっくりと愉しんだ。穏やかに流れる贅沢な時間だった。
 展望一階では地上七五メートルの空中散歩が楽しめた。
人が近付くとセンサーが反応して透明になる強化ガラス製の「スカイウォーク」が二カ所在った。自分の足元、視線の真下に景色が拡がったが、地上七五メートルの高さから見下ろすと人も車もまるでミニチュアのようだった。郁子は建物を見ただけではピンと来なかったが、人影などのサイズ感が判るものが見えると、急に胸がドキドキして来た。
「怖いわぁ、早く降りましょうよ」
そう言って龍二の袖を引っ張った。
「高所恐怖症なのか?」
「そうじゃないけど、でも、怖いわよ」
 下りエレベータが到着する地上三階には展示コーナーがあった。五十年に及ぶ神戸ポートタワーの歴史がパネルに展示されていた。二人は港を見渡す回廊を歩きながら神戸発展の歴史に思いを馳せた。
 神戸ポートタワーを出ると其処は魅惑のロマンチック・ベイエリアだった。
神戸海洋博物館やリゾートホテルなど斬新なデザインのシンボリックな建物が目を惹く海辺のスポットを二人は潮風に吹かれながらまったりと歩いた。
「今度来る時にはクルーズ船で海上観光をしたいわね。スイーツやコース料理を味わいながら神戸空港から明石海峡大橋まで遊覧するなんて、とても優雅じゃない?」
「そして、夜にはクルーズ船で海上から、ライトアップされた通りやイルミネーションが煌めく街を眺めるって言うのは、最高にロマンチックだとは思わないか?」
郁子は、龍二の夜の下心を察したのか、それには答えずに一人先に歩き出した。追いついた龍二が郁子の横顔を覗くと彼女はツンとしていたが、別に怒っている訳でもなかった。
 川端四条のマンション前でマイカーを停めた龍二は、いきなり郁子を抱き寄せて唇を重ねた。離れようともがく郁子を更に強く抱き締め、熱く唇を押し付けた。やがて、郁子も身体から力を抜いて、ぶら下がるように龍二の首に両腕を巻き付け、龍二の唇に呼応した。シートを後ろに倒し、熱い口づけを続け乍ら龍二は郁子の乳房に手を宛てて揉みしだき、それから、ミニスカートの裾を捲ってパンティーの下へ手を滑り込ませた。更に柔毛を摩った後、その下のクレパスへ指を差し入れた。突き上げるように動かされる龍二の指を抑えて、喘ぎながら郁子が叫んだ。
「駄目!こんな所じゃ嫌よ!私の部屋へ上がって!」
 抱き合って走り込むように入った郁子の部屋で、後ろ手にドアを閉めた龍二は再び郁子を強く抱き締めた。そして、熱い唇を重ねながら、彼女の衣服を毟り取るように一枚一枚剥がして行った。郁子も喘ぎながら龍二の上衣を脱がせ、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを外して、ズボンのベルトを緩めた。
 二人は唇を合わせたまま縺れ合うようにしてベッドに倒れ込んだ。
龍二は性急で激しかった。何の前戯も無く郁子に押し入った。龍二の激しい動きに、再び喘ぎ出した郁子は次第に高まって、腰を浮かせたり沈めたりしつつ、龍二の動きに呼応して仰け反り、悶え始めた。龍二の動きが更に激しくなるに連れて、あぁ~っ、あぁ~っ、と郁子の吐き出す歓喜の声が次第に大きくなり、郁子は堪らない喜悦の中で、全身で昇り詰めて行った。
「あぁ~っ!あぁ~っ!」
二人は頂点に達して同時に一緒に果てた。暫くは二人とも身動きが出来なかった。荒い息を吐き、放心したように二人は重なり合っていた。やがて、肉体の火照りが退き余燼が消え、彷徨う陶酔が冷めて、初めて、二人は我に返って身体を離した。
 それから郁子と龍二は頻繁に肉体を重ね合った。龍二は湧水寺の宿坊を出て清水道の端にマンションを借り、二人の密会の場所を作ったし、郁子は週末になるとせっせと其処へ通った。

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