愛の裏切り

相良武有

文字の大きさ
上 下
99 / 104
第一話 許されざる軽はずみ

③靖彦に富山支店への転勤が発令された

しおりを挟む
 翌年の四月一日、靖彦に富山支店への転勤命令が発せられた。
靖彦は直ぐに光子にプロポーズした。
「待って居てくれるな!必ず迎えに来るから、それまで待って居てくれよな」
「真実に待って居ても良いのね。私で真実に良いのね」
「ああ、勿論だ。君でなきゃ誰が他に居ると言うんだ!」
二人はひしと抱き合って熱い唇を重ね合った。一つになった二人の影を十三夜の朧な月が未練気に照らしていた。思い出滲む八坂神社や明るい祇園の街灯りがぼやけて見えて、名残尽きない夜が更けて行った。
 翌日の朝、靖彦は大勢の仕事仲間や親しい知人達に見送られて、特急「サンダーバード」と新幹線「はくたか」を乗り継いで北陸路へ京都駅から旅立った。
駅のホームで靖彦は光子の姿を眼で追い求めたが彼女は見送り人の輪の中にはいなかった。光子はホームの柱の陰に立って一人ひっそりとハンカチを口元に宛てて彼を見送っていた。暫し別れの車窓の内と外で、二人は何も言わず何も語らずに互いを愛する心と心を通わせ、又の逢う日を眼と眼で誓い合った。
靖彦は心で光子に詫びていた。
社命とは言え、一人、故郷へ帰る俺を許して欲しい。二人抱き合って眺めた八坂神社の十三夜の月を決して忘れはしないし、離れ離れて相呼ぶ夜にはきっと男涙で曇らせて見せるからな、光子・・・
光子も呼応して思っていた。
解っているわ、靖彦さん。もう何も言わないで。どうぞ元気で居てね・・・
思い切なく、胸をかき抱いた光子の耳に汽笛の音が響いて消えた。
 靖彦にとっては凡そ七年振りの自宅住まいだったので、独り住まいの不便さや煩わしさからは解き放たれたが、然し、その心は平静ではいられなかった。光子と逢えない寂寥感は並大抵のものではなかった。光子も淋しさと哀しさを心にいつも抱え続けた。二人はスマホでせっせとメールを書き、声が聞きたくなると何時までも時を忘れて話し続けた。
時には光子は気も狂わんばかりに嘆いた。
「どうして私の傍に居てくれないのよ!」
その度に靖彦が優しく宥めた。
「一、二年の辛抱だ、その後はいつも一緒に居られるじゃないか。二人で我慢して頑張ろうよ、な」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

処理中です...