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第八話 恋のさや当て
③劇団の配役に落胆した純は、謙二のマンションへ向かった
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その夜、純は次回公演の配役を確認する為に京都駅ビルに在る劇団事務所へ出向いた。
配役表は事務所の廊下の壁に貼り出されていた。
貼り紙を見ながら口々に喋り合っている劇団員や研究生たちの後ろに立って、純も眼を凝らして見詰めた。
同年輩の若い劇団員が寄って来て言った。
「純ちゃん、駄目だったなぁ」
「うん・・・」
純は悔しそうに頷いた。
「ヒロインを獲ったコーちゃんはなかなかの寝業師だと言うからなぁ。一体、何をしやがったのか!」
「ゲスの勘繰りで私をこれ以上惨めにしないで!」
純はぴしゃりとそう言って、夜の闇の中へ走り出た。が、失意と落胆を胸に彼女はそのまま一人住まいのマンションへ帰る気にはなれなかった。脚は自然に謙二のマンションへ向かっていた。
謙二との間で繰り返された眼眩む恍惚の余燼の中で、綾香はベッドから立ち上がろうとしてよろめき、その場に腰から崩折れた。
「君、大丈夫か?」
謙二が直ぐに彼女を抱き止めた。
抱き起されながら、喘ぐように綾香が言った。
「やっぱりあなたの若さには敵わないわ」
謙二が綾香を引き寄せて笑いながら言った。
「これでも未だ,別れるなんて言う心算か?」
「もう言わない!別れない!」
綾香の言葉は譫言のようだった。
「よお~し!」
そして、彼は綾香の耳に口を寄せて言った。
「ねぇ、思い切って純ちゃんに打ち明けようじゃないか、僕達のことを」
綾香が謙二から躰を離した。
「また、それを言う。駄目って言ったら駄目なのよ」
「どうしてです?」
「だって・・・駄目なものは、駄目なの!」
謙二が綾香の頬を両手で挟んで、じっとその眼を見詰めた。
「あなたは上手いことを言って、僕の前からいい加減に姿を消そうとしているんじゃないか?」
綾香がきっとした表情になった。
「どうしてそんなことを言うの?」
「何だか、その顔に暗い影が見えて、ふと、そんな気がしたんだ」
綾香はほっと恥にかんで謙二の胸に顔を埋めた。
「少し疲れただけよ、近頃・・・」
謙二のマンションへ辿り着いた純は正面エントランスのエレベータを避け、裏口に近い階段を、足音を殺して静かに登って行った。彼女が謙二の部屋の前まで来た時、灯の点いた窓の中から男女の明るい親し気な笑い声が聞こえて来た。話声は如何にも愉しそうであった。純は暫し呆然とその場に立ち竦んだ。直ぐに、彼女は逃げるようにしてその場を離れ、廊下を曲がった角に息を潜めて立ち止まった。
謙二の部屋の扉が開いて灯が漏れ、謙二と女性の姿が浮かび上がった。純は息を呑んだ。何と、女性は姉の綾香だった。
「外は寒くないかな」
「大丈夫よ、ほら」
そう言って綾香は謙二の掌に自分の掌を重ねた。
「ああ、未だこんなに温かいんだね」
二人はそのまま躰を寄せ合い、忍びやかな笑い声を立ててエレベータに乗り込んだ。純にはまるで二人が一つになっているように感じられた。
暫くして、裏口の闇の中へ姿を現した純は、呻くような声を挙げてその場に蹲った。
配役表は事務所の廊下の壁に貼り出されていた。
貼り紙を見ながら口々に喋り合っている劇団員や研究生たちの後ろに立って、純も眼を凝らして見詰めた。
同年輩の若い劇団員が寄って来て言った。
「純ちゃん、駄目だったなぁ」
「うん・・・」
純は悔しそうに頷いた。
「ヒロインを獲ったコーちゃんはなかなかの寝業師だと言うからなぁ。一体、何をしやがったのか!」
「ゲスの勘繰りで私をこれ以上惨めにしないで!」
純はぴしゃりとそう言って、夜の闇の中へ走り出た。が、失意と落胆を胸に彼女はそのまま一人住まいのマンションへ帰る気にはなれなかった。脚は自然に謙二のマンションへ向かっていた。
謙二との間で繰り返された眼眩む恍惚の余燼の中で、綾香はベッドから立ち上がろうとしてよろめき、その場に腰から崩折れた。
「君、大丈夫か?」
謙二が直ぐに彼女を抱き止めた。
抱き起されながら、喘ぐように綾香が言った。
「やっぱりあなたの若さには敵わないわ」
謙二が綾香を引き寄せて笑いながら言った。
「これでも未だ,別れるなんて言う心算か?」
「もう言わない!別れない!」
綾香の言葉は譫言のようだった。
「よお~し!」
そして、彼は綾香の耳に口を寄せて言った。
「ねぇ、思い切って純ちゃんに打ち明けようじゃないか、僕達のことを」
綾香が謙二から躰を離した。
「また、それを言う。駄目って言ったら駄目なのよ」
「どうしてです?」
「だって・・・駄目なものは、駄目なの!」
謙二が綾香の頬を両手で挟んで、じっとその眼を見詰めた。
「あなたは上手いことを言って、僕の前からいい加減に姿を消そうとしているんじゃないか?」
綾香がきっとした表情になった。
「どうしてそんなことを言うの?」
「何だか、その顔に暗い影が見えて、ふと、そんな気がしたんだ」
綾香はほっと恥にかんで謙二の胸に顔を埋めた。
「少し疲れただけよ、近頃・・・」
謙二のマンションへ辿り着いた純は正面エントランスのエレベータを避け、裏口に近い階段を、足音を殺して静かに登って行った。彼女が謙二の部屋の前まで来た時、灯の点いた窓の中から男女の明るい親し気な笑い声が聞こえて来た。話声は如何にも愉しそうであった。純は暫し呆然とその場に立ち竦んだ。直ぐに、彼女は逃げるようにしてその場を離れ、廊下を曲がった角に息を潜めて立ち止まった。
謙二の部屋の扉が開いて灯が漏れ、謙二と女性の姿が浮かび上がった。純は息を呑んだ。何と、女性は姉の綾香だった。
「外は寒くないかな」
「大丈夫よ、ほら」
そう言って綾香は謙二の掌に自分の掌を重ねた。
「ああ、未だこんなに温かいんだね」
二人はそのまま躰を寄せ合い、忍びやかな笑い声を立ててエレベータに乗り込んだ。純にはまるで二人が一つになっているように感じられた。
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