25 / 108
第十一話 骨まで削った愛
④二カ月後、再度の移植が必要になった
しおりを挟む
二ヶ月が経った十二月の初めだった。
正一が病室に入って行くと奈津美がしくしく泣いていた。もう大分前から泣いていたらしく、眼元が腫れていた。
「どうしたんだ?」
正一が訊くと奈津美は暫く啜り上げた後、顔を上げて答えた。
「また手術をしなければいけないんだって・・・」
「なにっ!」
「駄目だったんだって・・・」
「そんな馬鹿な!あの医者、藪じゃないのか、良い加減にしろっ、て言うんだ!」
「正ちゃん・・・」
「何だよ」
「また骨を呉れる?」
「そりゃ良いけど、そんなことはお安い御用だけど、どうして失敗したんだ?俺、医者に訊いて来る」
正一が看護師詰所へ行くと、医師は、昨日、ギブスを解いて撮った奈津美のレントゲン写真を蛍光板に掲げて説明した。
「この前、採って植えたばかりじゃないですか、どうしてもう一度やらなきゃ駄目なんです?」
「骨がくっ付く為には、周りの筋肉や皮膚が健康でなければ駄目なんです。血の巡りが良く、どんどん栄養が行き渡る状態だと治りやすいんですが、井田さんの場合、初めから皮膚も肉も抉られていて在りませんし、長い間に、周りの筋肉もすっかり弱っています」
「じゃ、この前移植した骨はどうなったんですか?」
「一部は化膿して押し出され、一部は残っては居ますが、白くなって死んでいるんです」
「骨が死ぬんですか?」
「要するに、生きが悪くなっていると言うことです」
「それで、何日やり直すのですか?」
「出来れば少しでも早い方が・・・」
正一が二度目の手術を受けたのはその翌日の昼前だった。
前回と同じように、午前中に正一が手術を受け、午後からは奈津美が受けた。今回も正一は会社から一週間の休暇を取っていた。
「何度も骨を採り上げて、ご免・・・」
「そんなこと、俺はちっとも構わないけど、速く良くなってくれよ、な」
「正ちゃんがそう言ってくれるのは有難いけど、何だか、今度も駄目なんじゃないかって、凄く不安なの」
前回の手術に期待して居ただけに、今度は、奈津美は自信が無さそうだった。
「一昨日、ギブスを外されたのを見たけど、お婆さんの脚みたいに細く皺だらけで、剥げた皮膚が鱗みたいにくっ付いていて、触るとぼろぼろ落ちたの」
「今度は手術の前に、うんと栄養を取っておいたから、良い骨が採れるよ、心配するな、な」
二度の手術の失敗と半年に及ぶ闘病生活が奈津美をすっかり弱気にさせていた。正直のところ、正一も些か疲れて来ていた。初めの頃は毎日仕事の帰りに病院へ駆けつけたが、最近は少し億劫であった。奈津美への愛は変わらないが、一日くらい行かなくても良いだろう、という気持も湧いて来ている。然し、どうして来てくれなかったの?と奈津美に訊ねられると、ついつい彼女が可哀相になって、優しい言葉をかけることになる。
「植える骨は幾らでも有るんだから、最後まで頑張ろうよ、な」
「本当に幾らでも呉れるの?」
「当り前じゃないか」
自分の骨を削り取って奈津美の脚に植えるのが彼女への愛の証だ、と正一は心底そう思った。
「正ちゃん、わたし、信じて良いのね」
奈津美は漸く笑顔を見せた。
二度目の骨の移植は上手く行ったようだった。レントゲン写真で見ると、前回よりもがっちりと骨が入っているように見えた。
二度の手術で正一の骨盤の前の突っ張りは両方とも無くなった。裸で鏡の前に立つと、下腹の左右に同じ傷跡があり、突き出た骨の部分が無くなって平たくなっていた。鏡に映ったウエストの下が頼りなくなった自分の裸を見ながら、正一は、三度も手術をして苦しんでいる奈津美を守ってやるのが男の務めだ、と改めて強く思った。
正一が病室に入って行くと奈津美がしくしく泣いていた。もう大分前から泣いていたらしく、眼元が腫れていた。
「どうしたんだ?」
正一が訊くと奈津美は暫く啜り上げた後、顔を上げて答えた。
「また手術をしなければいけないんだって・・・」
「なにっ!」
「駄目だったんだって・・・」
「そんな馬鹿な!あの医者、藪じゃないのか、良い加減にしろっ、て言うんだ!」
「正ちゃん・・・」
「何だよ」
「また骨を呉れる?」
「そりゃ良いけど、そんなことはお安い御用だけど、どうして失敗したんだ?俺、医者に訊いて来る」
正一が看護師詰所へ行くと、医師は、昨日、ギブスを解いて撮った奈津美のレントゲン写真を蛍光板に掲げて説明した。
「この前、採って植えたばかりじゃないですか、どうしてもう一度やらなきゃ駄目なんです?」
「骨がくっ付く為には、周りの筋肉や皮膚が健康でなければ駄目なんです。血の巡りが良く、どんどん栄養が行き渡る状態だと治りやすいんですが、井田さんの場合、初めから皮膚も肉も抉られていて在りませんし、長い間に、周りの筋肉もすっかり弱っています」
「じゃ、この前移植した骨はどうなったんですか?」
「一部は化膿して押し出され、一部は残っては居ますが、白くなって死んでいるんです」
「骨が死ぬんですか?」
「要するに、生きが悪くなっていると言うことです」
「それで、何日やり直すのですか?」
「出来れば少しでも早い方が・・・」
正一が二度目の手術を受けたのはその翌日の昼前だった。
前回と同じように、午前中に正一が手術を受け、午後からは奈津美が受けた。今回も正一は会社から一週間の休暇を取っていた。
「何度も骨を採り上げて、ご免・・・」
「そんなこと、俺はちっとも構わないけど、速く良くなってくれよ、な」
「正ちゃんがそう言ってくれるのは有難いけど、何だか、今度も駄目なんじゃないかって、凄く不安なの」
前回の手術に期待して居ただけに、今度は、奈津美は自信が無さそうだった。
「一昨日、ギブスを外されたのを見たけど、お婆さんの脚みたいに細く皺だらけで、剥げた皮膚が鱗みたいにくっ付いていて、触るとぼろぼろ落ちたの」
「今度は手術の前に、うんと栄養を取っておいたから、良い骨が採れるよ、心配するな、な」
二度の手術の失敗と半年に及ぶ闘病生活が奈津美をすっかり弱気にさせていた。正直のところ、正一も些か疲れて来ていた。初めの頃は毎日仕事の帰りに病院へ駆けつけたが、最近は少し億劫であった。奈津美への愛は変わらないが、一日くらい行かなくても良いだろう、という気持も湧いて来ている。然し、どうして来てくれなかったの?と奈津美に訊ねられると、ついつい彼女が可哀相になって、優しい言葉をかけることになる。
「植える骨は幾らでも有るんだから、最後まで頑張ろうよ、な」
「本当に幾らでも呉れるの?」
「当り前じゃないか」
自分の骨を削り取って奈津美の脚に植えるのが彼女への愛の証だ、と正一は心底そう思った。
「正ちゃん、わたし、信じて良いのね」
奈津美は漸く笑顔を見せた。
二度目の骨の移植は上手く行ったようだった。レントゲン写真で見ると、前回よりもがっちりと骨が入っているように見えた。
二度の手術で正一の骨盤の前の突っ張りは両方とも無くなった。裸で鏡の前に立つと、下腹の左右に同じ傷跡があり、突き出た骨の部分が無くなって平たくなっていた。鏡に映ったウエストの下が頼りなくなった自分の裸を見ながら、正一は、三度も手術をして苦しんでいる奈津美を守ってやるのが男の務めだ、と改めて強く思った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる