愛の讃歌

相良武有

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第十話 婚活相談

③宏一が選んだのは三十二歳の小学校の先生だった

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 それから宏一は二十件のオファーを申し入れた、が、それらは悉く受諾されなかった。
宏一がお見合いの申し込みをしたのは、三十歳くらいまでの、人形のようなルックスの美人ばかりだった。
相談員の聡美が彼にアドバイスをした。
「もう少し年齢の幅を広げてみませんか?」
「然し、子供が欲しいですから」
「妊娠する年齢には個人差がありますし、四十歳になっても出産する人は居ますわよ」
「それは解りますが・・・」
「美人にばかりオファーをかけても受けて貰うのは難しいですよ」
「それも解りますけど、最初は、自分で会ってみたい、と思う人にオファーをかけさせて下さい」
 その後、女性の年齢を三五歳まで広げて、五つのお見合いを組むことが出来た。
お見合いをした中で、宏一がとても気に入ったのが二八歳の看護師だった。彼女と三回目の食事を終えた時、彼は思った。彼女と結婚に向けて真剣交際に入ろう、と。
「そうですか。じゃあ、そのお気持をお相手にお伝えしましょう」
そう言っていた矢先に、彼女から「お断り」が入った。
宏一は手応えを感じていただけに、痛く落ち込んだ。
それから彼は十五人程の女性とお見合いをした。彼が、交際したい、と思った女性からは断られる、お断りしようとする女性からは「交際希望」が入る。が、交際に入っても一、二度食事をすると「お断り」が来る。上手く行かないことが暫く続いた。
 お見合いを始めてから半年が過ぎた頃、相談所に訪ねて来た宏一が言った。
「僕の何処がいけないんですかね。何で上手く行かないんですか?」
婚活疲れを起こしているのが表情から一目瞭然だった。 
「婚活って、選ぼう、としていると上手く行かないんですよ。選ぼうとしている時ってジャッジの目ですよね。ジャッジしようとすると、どうしてもお相手を減点法で見てしまう。オファーをかけてくれた女性で、この人は一寸ピンとこないな、と思っても、積極的に会ってみたら如何です?」
 こんな話を相談員の聡美と交わして暫く経った頃、宏一がオファーをかけた二六歳の女性と二七歳の女性から受諾が来た。さらに、三二歳の女性が宏一にオファーを入れて来た。
二六歳の女性は美人系、二七歳は可愛い系、三二歳はぽっちゃり型の十人並みの容姿だった。三人の写真を並べて見比べたら、男性の九割が美人か可愛い子ちゃんを選ぶだろう、男性は一歳でも若くて見た目の良い女性が好きなのだから・・・。
 お見合いの後、宏一は三人の女性と交際に入り、それぞれの女性と何度か食事やデートを重ねた。
お見合いではデート代を基本的に男性が全て持つ、それが暗黙のルールではある。
二六歳の美人は最初のデートで食事をし終えた時、「あのぉ、お勘定は?」と聞いて来たが「此処は僕が・・・」と宏一が答えると、それっきり食事をしてもお茶をしても一切財布を開かず、「御馳走さまでした」と言うだけになった。
二七歳の可愛い子ちゃんは、「お幾らですか?」と金を出そうとした。
「此処は大丈夫です」と答えると、「じゃ、次のお茶は私に御馳走させて下さい」と言ってお茶代を彼女が払うようになった。
三二歳のぽっちゃり型女性は食事の後、宏一が「此処は僕が・・・」と言っても、必ず金額の半分近い千円札を「取っておいて下さい」と差出した。
 或る日、宏一が相談員の聡美にこんなメールを送って来た。
「僕は田代美千代さんと結婚を前提にした交際に入ろうと思います」
彼が選んだのは三二歳のぽっちゃり型の女性だった。
「えっ、美千代さんと?」
意外な選択に聡美は思わず問い返してしまった。
宏一が三二歳の美千代を選んだのにははっきりした理由があった。
 田代美千代、小学校の教師を始めてもう直ぐ十年。中肉中背で太くも無く細くもなし、大きくも無く小さくもない。色白の丸顔に切れ長の涼やかな眼には光沢が宿る。微笑むと両頬に笑窪が刻まれる十人並みを越える容姿だった。写真では見えないオーラのような輝きが在った。
 或る時、宏一が美千代に、会社が残業続きですごく疲れている、と言うようなことを不覚にも話してしまったことがあった。
次のデートの日、最初に入った喫茶店で向かい合うと、美千代は直ぐに、バッグから小さな瓶を取り出した。
「このアロマオイルは疲れにとっても効くんですよ」
そう言って宏一の左手の甲にそれを塗った。
「こうやってハンドマッサージをすると疲れが取れるんです。さあ、其方の手もお出しになって・・・」
照れながら躊躇いがちに差し出した宏一の右手にも丁寧にマッサージを施した。
「どうぞ、お持ち帰りになって自由にお試しになって下さい」
宏一は美千代の優しさに胸の中がじい~んと熱くなった。無論、マッサージの心地良かったことも終生忘れることは無い。
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