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第五話 宮大工に恋して
⑭今夜、子供のことを打ち明けよう
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午後六時を回った頃に家の駐車場の扉が開いて、亮介の乗った軽トラがバックで入って来た。家の中へ直接通じる洋間のガラス戸を引き開けて良美が彼を迎えた。
「お帰り、遅かったのね」
「おう、今帰った。仕事が一日延びて棟梁も兄弟子も皆一緒に帰って来たところだ」
「そう、ご苦労さん」
「ああ、腹減った。直ぐ飯を食おうか」
「先にお風呂にしたら?」
「おお、もう風呂が沸いているのか。流石に俺の嫁さんだな、真っ先にお身拭いをさせてくれるって言うんだな」
「もう五分もすれば湧き上がるから、御飯の前に入ったら?」
「よっしゃ、有難ぇ」
ゆっくりと汗を流して心身の疲れを解した亮介は、久し振りに差し向いの食卓で良美と向き合った。
「今回は年末ということもあって、随分と長いこと留守にしたな。どうだ、変わったことは無かったか?」
「うん、別にこれと言って取り立てて言うことは無かったわ」
「そうか、それなら良いんだが・・・」
「どうしたの?何か気懸かりなことでもあったの?」
「別に何も無いよ。ひょっとして、淋しくて泣いていたんじゃないかと思って、な」
良美は声を立てて笑った。
「何言っているのよ、私ももう子供じゃないわ。宮大工の嫁さんになってもう三年よ。頑張っているあなたのしっかりした奥さんに成らなきゃあと毎日必死でやって居るわ」
「毎日必死、とは大袈裟だな、はっはっはっはっは」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
亮介は仕事の話を始めた。ふん、ふん、と相槌を打ちながら、良美は胸の中のしこりがいつの間にか消え、何でもない日常の暮らしが戻って来たのを感じた。
やがて、亮介は十時過ぎに二階の寝室へ上がって行った。
「疲れたから先に上がるぞ」
「うん。私はお煮しめを仕上げてから上がるから、先に休んで居て」
煮上がった煮しめ物を大鉢や大皿に盛りつけた時にはもう十一時を少し回っていた。
良美は風呂を追い炊きにしてエプロンを外し、不要な個所の灯を消して浴室に入って行った。程良い湯温のバスタブに身を沈めてゆっくり温まると、一日の身体のしこりが緩やかに溶けて行った。
浴室から出た良美は脱衣所の鏡に自分の身体を映した。鏡は父親の勝次が妻良枝の為に特注して作らせた全身大の三面鏡だった。勝次の良枝に対する並々ならぬ深い愛情を象徴した一物である。その鏡の中に綺麗な裸身が映っている。色白の餅肌、豊かな胸、括れた腰、丸いヒップ、艶やかな恥毛・・・この私の、何処が不足なのよ・・・
良美は自分の身体に見惚れながら、胸の中で呟いた。昼間に聞いた嫌な噂話が胸に蟠っていた。良美は秘かに、自分はそんなに悪い器量の女ではないと思っている。亮介も男っぽくていなせな男だが、結婚した時は似合いのカップルだと言われた。鏡を覗いて居ると、その自信が戻って来るのを感じた。
浮気なんかしたら承知しないから。変な真似はしない方が良いわよ、あなた・・・
良美は胸の中でまた呟いた。
良美は丸い乳房を両手で掬い上げて鏡に映してみた。身籠ると乳首の色が変わると聞いているが、その印が仄かに表れていた。
月のものが止まっていた。二ケ月になる。良美は近頃、食欲が落ち、食べ物の好みも変わったような気がしている。食べ物だけでなく、気持にも照り陰りが在り、後になってみると何でもないと思えるようなことに気を苛立てたり、くよくよ思い悩んだりすることがある。身籠ったのだと良美は確信していた。
亮介は子供を欲しがっているので、打ち明ければ喜ぶだろう。だが、良美は未だ亮介には話していなかった。もっとはっきりしてからだ、と思っていた。
良美は胸を捩ってもう一度、乳房を鏡に映して見た。
隠し女なんか居たら、子供なんて産んでやらないからね・・・
薄化粧を施して寝室に入って来た良美を見て亮介が相好を崩した。
「おお、奥さんが寝化粧をしてやって来たな。そうじゃないかと俺も眼を見開いて待っていたぜ」
「何言っているのよ、馬鹿ね」
そう言いながら良美は、亮介が捲ったダブルベッドの布団の中へ足を滑り込ませた。そして、今夜、子供のことを打ち明けよう、と思った。
「お帰り、遅かったのね」
「おう、今帰った。仕事が一日延びて棟梁も兄弟子も皆一緒に帰って来たところだ」
「そう、ご苦労さん」
「ああ、腹減った。直ぐ飯を食おうか」
「先にお風呂にしたら?」
「おお、もう風呂が沸いているのか。流石に俺の嫁さんだな、真っ先にお身拭いをさせてくれるって言うんだな」
「もう五分もすれば湧き上がるから、御飯の前に入ったら?」
「よっしゃ、有難ぇ」
ゆっくりと汗を流して心身の疲れを解した亮介は、久し振りに差し向いの食卓で良美と向き合った。
「今回は年末ということもあって、随分と長いこと留守にしたな。どうだ、変わったことは無かったか?」
「うん、別にこれと言って取り立てて言うことは無かったわ」
「そうか、それなら良いんだが・・・」
「どうしたの?何か気懸かりなことでもあったの?」
「別に何も無いよ。ひょっとして、淋しくて泣いていたんじゃないかと思って、な」
良美は声を立てて笑った。
「何言っているのよ、私ももう子供じゃないわ。宮大工の嫁さんになってもう三年よ。頑張っているあなたのしっかりした奥さんに成らなきゃあと毎日必死でやって居るわ」
「毎日必死、とは大袈裟だな、はっはっはっはっは」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
亮介は仕事の話を始めた。ふん、ふん、と相槌を打ちながら、良美は胸の中のしこりがいつの間にか消え、何でもない日常の暮らしが戻って来たのを感じた。
やがて、亮介は十時過ぎに二階の寝室へ上がって行った。
「疲れたから先に上がるぞ」
「うん。私はお煮しめを仕上げてから上がるから、先に休んで居て」
煮上がった煮しめ物を大鉢や大皿に盛りつけた時にはもう十一時を少し回っていた。
良美は風呂を追い炊きにしてエプロンを外し、不要な個所の灯を消して浴室に入って行った。程良い湯温のバスタブに身を沈めてゆっくり温まると、一日の身体のしこりが緩やかに溶けて行った。
浴室から出た良美は脱衣所の鏡に自分の身体を映した。鏡は父親の勝次が妻良枝の為に特注して作らせた全身大の三面鏡だった。勝次の良枝に対する並々ならぬ深い愛情を象徴した一物である。その鏡の中に綺麗な裸身が映っている。色白の餅肌、豊かな胸、括れた腰、丸いヒップ、艶やかな恥毛・・・この私の、何処が不足なのよ・・・
良美は自分の身体に見惚れながら、胸の中で呟いた。昼間に聞いた嫌な噂話が胸に蟠っていた。良美は秘かに、自分はそんなに悪い器量の女ではないと思っている。亮介も男っぽくていなせな男だが、結婚した時は似合いのカップルだと言われた。鏡を覗いて居ると、その自信が戻って来るのを感じた。
浮気なんかしたら承知しないから。変な真似はしない方が良いわよ、あなた・・・
良美は胸の中でまた呟いた。
良美は丸い乳房を両手で掬い上げて鏡に映してみた。身籠ると乳首の色が変わると聞いているが、その印が仄かに表れていた。
月のものが止まっていた。二ケ月になる。良美は近頃、食欲が落ち、食べ物の好みも変わったような気がしている。食べ物だけでなく、気持にも照り陰りが在り、後になってみると何でもないと思えるようなことに気を苛立てたり、くよくよ思い悩んだりすることがある。身籠ったのだと良美は確信していた。
亮介は子供を欲しがっているので、打ち明ければ喜ぶだろう。だが、良美は未だ亮介には話していなかった。もっとはっきりしてからだ、と思っていた。
良美は胸を捩ってもう一度、乳房を鏡に映して見た。
隠し女なんか居たら、子供なんて産んでやらないからね・・・
薄化粧を施して寝室に入って来た良美を見て亮介が相好を崩した。
「おお、奥さんが寝化粧をしてやって来たな。そうじゃないかと俺も眼を見開いて待っていたぜ」
「何言っているのよ、馬鹿ね」
そう言いながら良美は、亮介が捲ったダブルベッドの布団の中へ足を滑り込ませた。そして、今夜、子供のことを打ち明けよう、と思った。
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