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第三話 愛の覚悟~叶わなければ死ぬって言うまでの覚悟が大事なのね~
⑤「あの人は優しい真実に良い人なんです」
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夕闇に包まれた中突堤の、灯を点し始めた神戸ポートタワーの下に、聡と由美は佇んでいた。
「此処まで来て、迷ったって仕方が無いよ」
「そうね」
「はっきり言うべきだよ。竜崎社長がどう変わろうと、或は、変わらなかろうと、お母さんにははっきりした気持で居て貰わないと・・・でないと、何時まで経ってもずるずるべったりの状態が続くからな」
「解かっているわ。解って居るけど、真実にこれで良いのかしら・・・二十年近くもの歳月なのよ。その長い間、精神的にも物質的にも二人の結びつきはとても大きかった筈よ。その結びつきが仮令否定されるものであっても、私たちだけの考えで簡単に断ち切ってしまって良いのかどうか・・・」
「そういう考えがやっぱり君の中にも在るんだ・・・」
「?・・・・・」
「そういう考え方が、要するに、二十年もの間、続いて来ちゃった訳だ。何処かで断ち切らなければ、これから先も死ぬまで続くよ。人間なんて所詮弱いからね。解っていながらどんどん流されて行っちゃうんだよ」
「そうよね、解っているのよ、私も。解っているんだけど・・・でも、そうなのよね」
二人は尚も話し続け、タワーの灯は深い夕闇の中で益々映え亘っていた。
翌週の日曜日、聡と由美は青空文具店の居間で、母親光江の前に正座していた。光江の表情は極めて静かだった。
「お母さん、私たちはお母さんを責めて居るんじゃないのよ」
「解かっているわ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「聡さん。こんな娘ですけど宜しくお願いしますね」
聡は光江の出し抜けの言葉に面食らって返事に戸惑った。
「はぁ、はい・・・」
「私もね、世間から責められることくらい十分に承知していますよ。でもねぇ、あの人は優しい真実に良い人なんです。お恥ずかしい話ですが、私はあの人を今でも愛しているんです」
「・・・・・」
「私はあの人から与えられるばかりで、私が与えたものは何一つありません。あの人は求めたりもしませんでしたし・・・真実に、それはもう真実に、綺麗なお付き合いをして来たんですよ」
聡と由美は意外な面持ちで話の続きを待った。
「あなた達から見れば、却って不自然かもしれないけれど、あの人はそういう人なのよ。此処へ来ることも私は随分お断りをしたの。でも、結局、私は甘えてしまったの、私のことよりあなたのことを考えてね」
由美が唇を噛み締めて肩を震わせた。聡の胸に、竜崎社長と母親光江の、二人の心の真実が掴めなかった己の単純さへの深い後悔が充満した。
「此処まで来て、迷ったって仕方が無いよ」
「そうね」
「はっきり言うべきだよ。竜崎社長がどう変わろうと、或は、変わらなかろうと、お母さんにははっきりした気持で居て貰わないと・・・でないと、何時まで経ってもずるずるべったりの状態が続くからな」
「解かっているわ。解って居るけど、真実にこれで良いのかしら・・・二十年近くもの歳月なのよ。その長い間、精神的にも物質的にも二人の結びつきはとても大きかった筈よ。その結びつきが仮令否定されるものであっても、私たちだけの考えで簡単に断ち切ってしまって良いのかどうか・・・」
「そういう考えがやっぱり君の中にも在るんだ・・・」
「?・・・・・」
「そういう考え方が、要するに、二十年もの間、続いて来ちゃった訳だ。何処かで断ち切らなければ、これから先も死ぬまで続くよ。人間なんて所詮弱いからね。解っていながらどんどん流されて行っちゃうんだよ」
「そうよね、解っているのよ、私も。解っているんだけど・・・でも、そうなのよね」
二人は尚も話し続け、タワーの灯は深い夕闇の中で益々映え亘っていた。
翌週の日曜日、聡と由美は青空文具店の居間で、母親光江の前に正座していた。光江の表情は極めて静かだった。
「お母さん、私たちはお母さんを責めて居るんじゃないのよ」
「解かっているわ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「聡さん。こんな娘ですけど宜しくお願いしますね」
聡は光江の出し抜けの言葉に面食らって返事に戸惑った。
「はぁ、はい・・・」
「私もね、世間から責められることくらい十分に承知していますよ。でもねぇ、あの人は優しい真実に良い人なんです。お恥ずかしい話ですが、私はあの人を今でも愛しているんです」
「・・・・・」
「私はあの人から与えられるばかりで、私が与えたものは何一つありません。あの人は求めたりもしませんでしたし・・・真実に、それはもう真実に、綺麗なお付き合いをして来たんですよ」
聡と由美は意外な面持ちで話の続きを待った。
「あなた達から見れば、却って不自然かもしれないけれど、あの人はそういう人なのよ。此処へ来ることも私は随分お断りをしたの。でも、結局、私は甘えてしまったの、私のことよりあなたのことを考えてね」
由美が唇を噛み締めて肩を震わせた。聡の胸に、竜崎社長と母親光江の、二人の心の真実が掴めなかった己の単純さへの深い後悔が充満した。
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