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第八章 純子ママ
④山崎、翔子の誕生パーティーに招かれる
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ちょうどその頃、山崎は自社の総務課に居た相田翔子から声を懸けられた。
「今度の日曜日に私の誕生パーティを自宅で開くのですが、山崎さんも来て頂けませんか?」
翔子は大きな得意先の社長の娘だった。大学を卒業した後、社会勉強の為に我社へ入って来た、得意先の社長から頼まれた我社の社長がそれを引き受けたのだ、と当初、専ら社員たちはそう噂していた。
翔子はツンと先の尖った鼻に切れ長のキラキラ輝く黒い瞳、やや外側にカールした短めの髪、愛嬌良く微笑う小悪魔的でキュートな二十四歳だった。女性社員たちは大方が退き気味だったが、男性社員は誰もが機会有らば彼女に近づきたいと虎視眈々と競い合っていた。山崎も若い男の一人としてこの可愛げな翔子に関心と興味を抱き、その魅力に惹きつけられていた。ましてや、相手は大事な得意先の社長の娘である、折角の誘いを断る手は無かった。
山崎が閑静な住宅街の一角に在る翔子の家に着いた時には、既に二十人余りの招待客が会場でにこやかに談笑していた。男も女も華麗に着飾ってパーティに似つかわしい身形をしていた。
翔子はピンクのセーターに薄地のドレスを着重ね、張りがあって透ける素材であるチュールレースとオーガンジーを重ねた短めのフレアスカートを穿いていた。季節は未だ肌寒さが幾分残る早春であったが、その軽やかなコーディネイトは春を先取りした新鮮な明るさが漂い、バレリーナーが着るチュチュのような印象があった。その可憐さと艶っぽさに誰もが翔子に視線を向けていた。
どの顔も知らない顔ばかりだった。会社の関係者は山崎だけのようである。どうやら山崎はプライベートな客として呼ばれたようであった。
輪の中心に居た翔子が目敏く見つけて、直ぐに山崎のところへやって来た。
「来て下さって有難う」
腕を取らんばかりにして山崎を皆のところへ連れて行き、一人ずつ引き合わせた。
「此方、山崎さん。わたしのパートナーよ」
翔子は悪戯っぽくにこやかに山崎に微笑いかけ、皆は一様に彼を注視した。
飲物の栓が抜かれ料理が運び込まれ、そして、ハッピーバースデイが合唱され、バースデイケーキの蝋燭が吹き消されて、宴は賑やかに始まった。
「今日はわたしの誕生パーティにこんなに大勢の皆さんがお祝いに駆けつけて下さって、真実に有難う!」
翔子は常に宴の真中で、主人公然と振る舞い、自慢のピアノソナタを弾いて聞かせた。招待客は皆、夫々にカラオケステージで歌を唄ったり、女性コーラスを披露したりした。
やがて照明が少し落とされてムーディーなサックスの奏でるブルースの曲が流れ出した。皆は適宜相手を選んで踊り始めた。
「踊って下さる?」
翔子が山崎を誘って来た。
「僕で良ければ喜んで・・・」
二人は踊りの輪の真中へ進み出た。
すらりと伸びた白い脚が眩しいほどの翔子と、翔子の手を取り音楽に合わせてステップを踏む足長の山崎との組み合わせは、その場の誰もが見惚れるほど似合いのカップルだった。
やがて翔子は身体全体を山崎に預け、山崎は肩を抱いた腕に力を込めた。
それから二人は頻繁に逢瀬を重ねるようになった。
翔子は快活で行動的で、山崎に対しても積極的であった。
「今度の日曜日に私の誕生パーティを自宅で開くのですが、山崎さんも来て頂けませんか?」
翔子は大きな得意先の社長の娘だった。大学を卒業した後、社会勉強の為に我社へ入って来た、得意先の社長から頼まれた我社の社長がそれを引き受けたのだ、と当初、専ら社員たちはそう噂していた。
翔子はツンと先の尖った鼻に切れ長のキラキラ輝く黒い瞳、やや外側にカールした短めの髪、愛嬌良く微笑う小悪魔的でキュートな二十四歳だった。女性社員たちは大方が退き気味だったが、男性社員は誰もが機会有らば彼女に近づきたいと虎視眈々と競い合っていた。山崎も若い男の一人としてこの可愛げな翔子に関心と興味を抱き、その魅力に惹きつけられていた。ましてや、相手は大事な得意先の社長の娘である、折角の誘いを断る手は無かった。
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翔子はピンクのセーターに薄地のドレスを着重ね、張りがあって透ける素材であるチュールレースとオーガンジーを重ねた短めのフレアスカートを穿いていた。季節は未だ肌寒さが幾分残る早春であったが、その軽やかなコーディネイトは春を先取りした新鮮な明るさが漂い、バレリーナーが着るチュチュのような印象があった。その可憐さと艶っぽさに誰もが翔子に視線を向けていた。
どの顔も知らない顔ばかりだった。会社の関係者は山崎だけのようである。どうやら山崎はプライベートな客として呼ばれたようであった。
輪の中心に居た翔子が目敏く見つけて、直ぐに山崎のところへやって来た。
「来て下さって有難う」
腕を取らんばかりにして山崎を皆のところへ連れて行き、一人ずつ引き合わせた。
「此方、山崎さん。わたしのパートナーよ」
翔子は悪戯っぽくにこやかに山崎に微笑いかけ、皆は一様に彼を注視した。
飲物の栓が抜かれ料理が運び込まれ、そして、ハッピーバースデイが合唱され、バースデイケーキの蝋燭が吹き消されて、宴は賑やかに始まった。
「今日はわたしの誕生パーティにこんなに大勢の皆さんがお祝いに駆けつけて下さって、真実に有難う!」
翔子は常に宴の真中で、主人公然と振る舞い、自慢のピアノソナタを弾いて聞かせた。招待客は皆、夫々にカラオケステージで歌を唄ったり、女性コーラスを披露したりした。
やがて照明が少し落とされてムーディーなサックスの奏でるブルースの曲が流れ出した。皆は適宜相手を選んで踊り始めた。
「踊って下さる?」
翔子が山崎を誘って来た。
「僕で良ければ喜んで・・・」
二人は踊りの輪の真中へ進み出た。
すらりと伸びた白い脚が眩しいほどの翔子と、翔子の手を取り音楽に合わせてステップを踏む足長の山崎との組み合わせは、その場の誰もが見惚れるほど似合いのカップルだった。
やがて翔子は身体全体を山崎に預け、山崎は肩を抱いた腕に力を込めた。
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翔子は快活で行動的で、山崎に対しても積極的であった。
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