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第三章 常連客、プレイおやじ、若原

⑤電話に出た若原の顔が日の出のように明るくなった

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 その時、若原の携帯電話がプルプルと鳴った。
電話に出た若原の顔が一瞬にして、日の出のように明るくなった。
電話は彼女からだった。
「気持ちの整理をつける為に、トルコから中近東へ、友達と旅行に行って来たんだってさ。イスタンブールの歴史地区やカッパドキアの岩石遺跡群、トロイの遺跡やパムッカレやヒエラポリスなど、大好きな世界遺産を見て廻って来たらしい。今帰って来たばかりだが、これから直ぐに会いたいって言っているよ」
心弾ませて一も二も無く応諾した若原は、直ぐに、そそくさと帰り支度を始めた。
「それじゃ又な」
「おい、此処の勘定はどうするんだよ?」
「俺の方につけておいて貰ってくれ」
言うなり若原はもう夕闇に包まれてネオンが明るく煌めいて輝く街へ踏み出して行った。その足取りは浮き立つ心と重なるようにとても軽やかだった。
 見送った荒川が苦笑を浮かべて言った。
「なんだ、あいつは。将にプレイオヤジだな」
「なんです、そのプレイオヤジって?」
聞いた嶋木に荒川が笑いながら答えた。
「若い女誑しはプレイボーイと言うだろう。あいつはもう中高年のおやじだからプレイオヤジなんだよ、はっはっはっは」
嶋木も思わず吹き出した。
荒川が更に一言付け加えた。
「然し、あいつもこれで撃沈だな」
嶋木も微笑いながら応えた。
「若原さんのジャケットのポケットから、モーパッサン短編集が覗いていましたよ。今頃きっと、心の中でハミングしながら道を急いでおられますよ」
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