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⑮ラブコールベル
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田代美千代、小学校の教師を始めてもう直ぐ十年。中肉中背で太くも無く細くもなし、大きくも無く小さくもない。色白の丸顔に切れ長の涼やかな眼には光沢が宿る。微笑むと両頬に笑窪が刻まれる十人並みの容姿、婚活写真では見えないオーラのような輝きが在った。
或る時、宏一が「会社が残業続きですごく疲れている」と漏らすと、次のデートの日、最初に入った喫茶店で向かい合った美千代は、直ぐにバッグから小さな瓶を取り出した。
「このアロマオイルは疲れにとっても効くんですよ」
そう言って宏一の左手の甲にオイルを擦り込んだ。
「こうやってハンドマッサージをすると疲れが取れるんです。さあ、其方の手もお出しになって・・・」
宏一は美千代の優しさに胸の中がじい~んと熱くなった。
「どうぞ、お持ち帰りになって自由にお試しになって下さい」
それから二人はよく逢い、会話は弾んだ。
「小学校の先生という貴女の仕事も結構大変なんじゃないですか?中学や高校と違って小学校の先生は担任を持つと全教科を教えなきゃならないし、躾や挨拶や行儀なども教えなきゃいけない」
「そうですね。特に低学年のクラスを受け持ちますと、勉強以前のところから始めなければならないことが多くありますわね」
「知育、徳育、体育などというレベルには遠く及ばない話でしょうね、きっと」
「はい。掃除の仕方や食事の仕方、或は、服の着替え方などを学校で指導しなければならない子供が増えているのは事実ですね」
「食事の仕方まで教えるのですか?」
「はい。箸の持ち方が出来ない子や好き嫌いの多い子も居ますから、特に、箸はきちんと持てるようになるまで結構時間がかかりますので、根気強く指導しなければなりませんわ」
小学校の先生の役割は生徒に勉強を教えるだけではなかった。特に、六歳から十二歳くらいの間は人格形成に大きな影響を及ぼす時期である。子供達の個性を伸ばし人間性豊かに育つように指導するのも先生の大きな役目だった。
「苛めなどの問題が起きた時は大変でしょうね」
「そう言う問題は解決には大変時間がかかりますし、失敗すると取り返しがつかない状況になります。他の先生にも助けて貰って、漸く問題を解決出来た時にはほっと肩の荷が降ります」
「先生の仕事は世間の人が想像する以上に大変なんですね」
「小学校の教師というのは一人で一つの学級を任されますので、クラスの子供に対してはひときわ強く愛着を持ちます。ですから、小さな問題であっても解決出来た時の喜びは口では簡単には表せません。クラスの子たちが一つに纏った時、運動会や学芸会、卒業式などでは特に感動するんです。真実に、教師をやっていて良かったなあ、ってしみじみ思います」
それから、最後に美千代はこう言って話を締めくくった。
「教師は笑顔を消してはいけないんです。子供たちはそういうことを敏感に感じ取ります。教師の顔から笑顔が消えると、子供たちが寄って来なくなります。彼等の態度は普段と変わらなくても遠巻きにしているだけで自分からは寄って来ないんです。そうなると教師と子供たちの関係は悪くなって行くばかりです」
「なるほど、それは解るような気がします」
「それともう一つ・・・。毎日毎日、子供たちに教えたり指導したりしていると、私たちは自分の気付かぬうちに、上から目線になっているんです。これが子供達だけでなく保護者の方に対しても、世間の皆さんに対しても、ついつい出てしまうんですね。十分に心しなければならないことだと肝に銘じてはいるのですが・・・」
何事にも前向きに対処しようとする美千代の姿に、宏一は凛とした気構えと真摯さを感じた。
「ご免なさいね、自分の仕事のことばかり話しちゃって・・・真実にごめんなさい」
それから、美千代が躊躇いがちに宏一に訊ねた。
「あのぉ、今日の夕食は何処かに予約を入れていらっしゃいます?」
「いえ、特には未だ・・・」
「そうですか。なら、宜しければ私の知っているお店に付き合って頂けませんか?」
「ええ、それは一向に構いませんが」
案内されたのは、黒い大きな冠木門の中に駐車場が拡がり、その先に古民家風の平屋が建つ純和風の店だった。格子戸の入口には「うどん会席の店 つる幸」と記された小さな看板が架かっていた。
引き戸を引いて中に入ると、三和土の奥の板の間に和服の女性が立って笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
導かれた小部屋には天井からオレンジ色の照明がひとつポツンと吊り下がっていた。古い昔の家の居間のような雰囲気に、宏一は安らぎと落ち着きを覚えた。
「お酒は呑みますか?」
「はい、少しなら・・・」
「じゃあ、僕は日本酒を熱燗で」
「私は白ワインのグラスを一杯だけ」
料理はこの店自慢の「ミニ寄せ鍋」二人分を美千代が注文した。
最初に、運ばれて来た食前酒で乾杯をして、二人のディナーが始まった。
「美味しい!」
「うん、旨い!」
鍋をつつきながら美千代が訊ねた。
「お母様のその後は如何ですか?」
「えっ、母のこと、知っていたんですか?」
「はい、少しだけ・・・」
「知っていて僕と交際ってくれたんですか?」
「ええ、まあ・・・」
宏一の胸に熱いものが込み上げて来た。
「お蔭さまで大分、癒くなって来ています。親父が一生懸命に介護し、僕が家に戻り、妹が結婚を先延ばしたりして、何年振りかで一家が全員で暮らすようになって母も気持が落ち着いたのだと思います。やっぱり家庭というのは大事なんだとつくづく思いました」
「そうですか、それは何よりですね」
宏一の盃が空いているのも見て、美千代が、どうぞ、と酌をした。
「わたし、この春に、大学時代から親しかった友人を亡くしたんです。彼女には婚約者がいて結納も済ませ挙式の日取りも決まっていたのですが、建築技師だった相手の方が、突然、現場の事故で亡くなられたんです。彼女は身を捩って泣きに泣きました。それから、もぬけの殻になって、活力も気力も無くし、自宅に引き籠ってしまいました。そして、相手の人の三回忌法要が終わった今年の春に自ら命を絶ちました。最愛の婚約者を失ったことが致命傷になったんです」
「そうですか。そんな哀しい、痛々しいことがあったんですか」
「彼女の葬儀に参列しその遺影をじっと見つめながら、私、思ったんです。私にもこれまで幾つかの恋愛経験はありました、が、別れて致命傷になるほどの人には出逢いませんでした。否、違うんです。私がそこまで、去られて致命的な痛手を受ける程にまで深く相手の人を愛してはいなかったんです。それを悟った時、もう一度、真剣に真摯に生き直さなければ、と思いました。婚活を始めたのはそれからです」
人を愛し結婚し、家族となって家庭を作り、寄り添い合い支え合って生きて行く、それにはそれなりの覚悟が要るんだ、と美千代が言っているように宏一には思われた。
テーブルナプキンを取ろうと延ばした美千代の手に、宏一は自分の掌をそっと重ねて力を込めた。美千代は恥ずかしそうな微笑いを見せ、それから、さり気なく引いた手で耳の後ろへ髪をかき上げて熱いうどんを啜った。その姿をじっと見詰める宏一の胸に温かいものがじわ~っと拡がった。二人の心が一つに重なった瞬間だった。
ハンドマッサージをしてくれたり、母親のことを気に懸けてくれたり、飾り気無くうどん啜ったりする美千代の姿を見て、宏一は今、彼女なら互いに大事にし合えるだろう、と思った。
一カ月後、宏一は美千代を伊豆の恋人岬へ誘った。
一八〇度以上のパノラマが拡がり、富士山や駿河湾を一望出来る素晴らしい景観の岬に愛の鐘「ラブコールベル」はあった。この鐘を三回鳴らしながら愛しい人の名を呼ぶと愛が実ると言われている。
此処で、宏一は正面から真直ぐに美千代と向き合って、彼女にプロポーズした。
「美千代さん、僕と一緒になってくれませんか?否、僕と結婚して下さい!」
「えっ?」
突然の宏一の申し出に、美千代は慌てて、直ぐに言葉が出なかった。
「でも、私なんかで良いんですか?」
「君でなきゃ駄目なんです、僕は!」
美千代はじい~っと宏一の眼を覗き込むようにしながら答えた。
「良いんですね、真実に、わたしで」
「ああ!」
彼女の切れ長の両目蓋から涙が流れ落ちた。
二人は頷き合って「愛の鐘」を鳴らした。
「美千代さん」
「宏一さん」
十一月の晩秋の空に、鐘の音は、二人の愛を祝福するように澄んだ音色を残して、消えて行った。
その昔、土肥で漁師をしていた「福太郎」と恋人岬の在る小下田で畑仕事をしていた「およね」の話が恋人岬の逸話になっている。二人は惹かれ合って恋人となったが、一緒に暮らすことは出来なかった。なかなか逢うことが出来ない「およね」は近くの神社へ毎日「福太郎」との恋を願掛けしていた。その「およね」の一途な恋心にうたれた神様が二つの鍵を「およね」に授けた。「およね」は神様の慈悲を信じ「福太郎」へ片方の鍵を届けた。そして、「福太郎」が恋人岬を通る際に「およね」は岬に立って三回鐘を鳴らし、「福太郎」も呼応して互いの愛を確かめ合った。恋人や愛おしい人を信じる気持が二人を結びつけ、その気持を周りが受け止めて初めて「およね」と「福太郎」の恋が成就したのであった。
「いつの時代も、信じる気持が絆を作るのですね」
「福太郎とおよねのように互いを信じる努力を続ければ、それは絆になり、永遠の愛となる筈ですよ」
二人は鐘を鳴らした後、遊歩道の入口に在った恋人岬事務所に立ち寄って恋人宣言証明書を発行して貰った。
「恋人宣言証明書って素敵ね。恋人の先に結婚という終着駅が在るということですね。誰が考えたのでしょう・・・私たちも恋人のままの気持で居ることを大事にしましょうね」
年も押し詰まった十二月の中頃、宏一と美千代は連れ立って結婚相談所を訪れ、婚活会を退会した。
或る時、宏一が「会社が残業続きですごく疲れている」と漏らすと、次のデートの日、最初に入った喫茶店で向かい合った美千代は、直ぐにバッグから小さな瓶を取り出した。
「このアロマオイルは疲れにとっても効くんですよ」
そう言って宏一の左手の甲にオイルを擦り込んだ。
「こうやってハンドマッサージをすると疲れが取れるんです。さあ、其方の手もお出しになって・・・」
宏一は美千代の優しさに胸の中がじい~んと熱くなった。
「どうぞ、お持ち帰りになって自由にお試しになって下さい」
それから二人はよく逢い、会話は弾んだ。
「小学校の先生という貴女の仕事も結構大変なんじゃないですか?中学や高校と違って小学校の先生は担任を持つと全教科を教えなきゃならないし、躾や挨拶や行儀なども教えなきゃいけない」
「そうですね。特に低学年のクラスを受け持ちますと、勉強以前のところから始めなければならないことが多くありますわね」
「知育、徳育、体育などというレベルには遠く及ばない話でしょうね、きっと」
「はい。掃除の仕方や食事の仕方、或は、服の着替え方などを学校で指導しなければならない子供が増えているのは事実ですね」
「食事の仕方まで教えるのですか?」
「はい。箸の持ち方が出来ない子や好き嫌いの多い子も居ますから、特に、箸はきちんと持てるようになるまで結構時間がかかりますので、根気強く指導しなければなりませんわ」
小学校の先生の役割は生徒に勉強を教えるだけではなかった。特に、六歳から十二歳くらいの間は人格形成に大きな影響を及ぼす時期である。子供達の個性を伸ばし人間性豊かに育つように指導するのも先生の大きな役目だった。
「苛めなどの問題が起きた時は大変でしょうね」
「そう言う問題は解決には大変時間がかかりますし、失敗すると取り返しがつかない状況になります。他の先生にも助けて貰って、漸く問題を解決出来た時にはほっと肩の荷が降ります」
「先生の仕事は世間の人が想像する以上に大変なんですね」
「小学校の教師というのは一人で一つの学級を任されますので、クラスの子供に対してはひときわ強く愛着を持ちます。ですから、小さな問題であっても解決出来た時の喜びは口では簡単には表せません。クラスの子たちが一つに纏った時、運動会や学芸会、卒業式などでは特に感動するんです。真実に、教師をやっていて良かったなあ、ってしみじみ思います」
それから、最後に美千代はこう言って話を締めくくった。
「教師は笑顔を消してはいけないんです。子供たちはそういうことを敏感に感じ取ります。教師の顔から笑顔が消えると、子供たちが寄って来なくなります。彼等の態度は普段と変わらなくても遠巻きにしているだけで自分からは寄って来ないんです。そうなると教師と子供たちの関係は悪くなって行くばかりです」
「なるほど、それは解るような気がします」
「それともう一つ・・・。毎日毎日、子供たちに教えたり指導したりしていると、私たちは自分の気付かぬうちに、上から目線になっているんです。これが子供達だけでなく保護者の方に対しても、世間の皆さんに対しても、ついつい出てしまうんですね。十分に心しなければならないことだと肝に銘じてはいるのですが・・・」
何事にも前向きに対処しようとする美千代の姿に、宏一は凛とした気構えと真摯さを感じた。
「ご免なさいね、自分の仕事のことばかり話しちゃって・・・真実にごめんなさい」
それから、美千代が躊躇いがちに宏一に訊ねた。
「あのぉ、今日の夕食は何処かに予約を入れていらっしゃいます?」
「いえ、特には未だ・・・」
「そうですか。なら、宜しければ私の知っているお店に付き合って頂けませんか?」
「ええ、それは一向に構いませんが」
案内されたのは、黒い大きな冠木門の中に駐車場が拡がり、その先に古民家風の平屋が建つ純和風の店だった。格子戸の入口には「うどん会席の店 つる幸」と記された小さな看板が架かっていた。
引き戸を引いて中に入ると、三和土の奥の板の間に和服の女性が立って笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
導かれた小部屋には天井からオレンジ色の照明がひとつポツンと吊り下がっていた。古い昔の家の居間のような雰囲気に、宏一は安らぎと落ち着きを覚えた。
「お酒は呑みますか?」
「はい、少しなら・・・」
「じゃあ、僕は日本酒を熱燗で」
「私は白ワインのグラスを一杯だけ」
料理はこの店自慢の「ミニ寄せ鍋」二人分を美千代が注文した。
最初に、運ばれて来た食前酒で乾杯をして、二人のディナーが始まった。
「美味しい!」
「うん、旨い!」
鍋をつつきながら美千代が訊ねた。
「お母様のその後は如何ですか?」
「えっ、母のこと、知っていたんですか?」
「はい、少しだけ・・・」
「知っていて僕と交際ってくれたんですか?」
「ええ、まあ・・・」
宏一の胸に熱いものが込み上げて来た。
「お蔭さまで大分、癒くなって来ています。親父が一生懸命に介護し、僕が家に戻り、妹が結婚を先延ばしたりして、何年振りかで一家が全員で暮らすようになって母も気持が落ち着いたのだと思います。やっぱり家庭というのは大事なんだとつくづく思いました」
「そうですか、それは何よりですね」
宏一の盃が空いているのも見て、美千代が、どうぞ、と酌をした。
「わたし、この春に、大学時代から親しかった友人を亡くしたんです。彼女には婚約者がいて結納も済ませ挙式の日取りも決まっていたのですが、建築技師だった相手の方が、突然、現場の事故で亡くなられたんです。彼女は身を捩って泣きに泣きました。それから、もぬけの殻になって、活力も気力も無くし、自宅に引き籠ってしまいました。そして、相手の人の三回忌法要が終わった今年の春に自ら命を絶ちました。最愛の婚約者を失ったことが致命傷になったんです」
「そうですか。そんな哀しい、痛々しいことがあったんですか」
「彼女の葬儀に参列しその遺影をじっと見つめながら、私、思ったんです。私にもこれまで幾つかの恋愛経験はありました、が、別れて致命傷になるほどの人には出逢いませんでした。否、違うんです。私がそこまで、去られて致命的な痛手を受ける程にまで深く相手の人を愛してはいなかったんです。それを悟った時、もう一度、真剣に真摯に生き直さなければ、と思いました。婚活を始めたのはそれからです」
人を愛し結婚し、家族となって家庭を作り、寄り添い合い支え合って生きて行く、それにはそれなりの覚悟が要るんだ、と美千代が言っているように宏一には思われた。
テーブルナプキンを取ろうと延ばした美千代の手に、宏一は自分の掌をそっと重ねて力を込めた。美千代は恥ずかしそうな微笑いを見せ、それから、さり気なく引いた手で耳の後ろへ髪をかき上げて熱いうどんを啜った。その姿をじっと見詰める宏一の胸に温かいものがじわ~っと拡がった。二人の心が一つに重なった瞬間だった。
ハンドマッサージをしてくれたり、母親のことを気に懸けてくれたり、飾り気無くうどん啜ったりする美千代の姿を見て、宏一は今、彼女なら互いに大事にし合えるだろう、と思った。
一カ月後、宏一は美千代を伊豆の恋人岬へ誘った。
一八〇度以上のパノラマが拡がり、富士山や駿河湾を一望出来る素晴らしい景観の岬に愛の鐘「ラブコールベル」はあった。この鐘を三回鳴らしながら愛しい人の名を呼ぶと愛が実ると言われている。
此処で、宏一は正面から真直ぐに美千代と向き合って、彼女にプロポーズした。
「美千代さん、僕と一緒になってくれませんか?否、僕と結婚して下さい!」
「えっ?」
突然の宏一の申し出に、美千代は慌てて、直ぐに言葉が出なかった。
「でも、私なんかで良いんですか?」
「君でなきゃ駄目なんです、僕は!」
美千代はじい~っと宏一の眼を覗き込むようにしながら答えた。
「良いんですね、真実に、わたしで」
「ああ!」
彼女の切れ長の両目蓋から涙が流れ落ちた。
二人は頷き合って「愛の鐘」を鳴らした。
「美千代さん」
「宏一さん」
十一月の晩秋の空に、鐘の音は、二人の愛を祝福するように澄んだ音色を残して、消えて行った。
その昔、土肥で漁師をしていた「福太郎」と恋人岬の在る小下田で畑仕事をしていた「およね」の話が恋人岬の逸話になっている。二人は惹かれ合って恋人となったが、一緒に暮らすことは出来なかった。なかなか逢うことが出来ない「およね」は近くの神社へ毎日「福太郎」との恋を願掛けしていた。その「およね」の一途な恋心にうたれた神様が二つの鍵を「およね」に授けた。「およね」は神様の慈悲を信じ「福太郎」へ片方の鍵を届けた。そして、「福太郎」が恋人岬を通る際に「およね」は岬に立って三回鐘を鳴らし、「福太郎」も呼応して互いの愛を確かめ合った。恋人や愛おしい人を信じる気持が二人を結びつけ、その気持を周りが受け止めて初めて「およね」と「福太郎」の恋が成就したのであった。
「いつの時代も、信じる気持が絆を作るのですね」
「福太郎とおよねのように互いを信じる努力を続ければ、それは絆になり、永遠の愛となる筈ですよ」
二人は鐘を鳴らした後、遊歩道の入口に在った恋人岬事務所に立ち寄って恋人宣言証明書を発行して貰った。
「恋人宣言証明書って素敵ね。恋人の先に結婚という終着駅が在るということですね。誰が考えたのでしょう・・・私たちも恋人のままの気持で居ることを大事にしましょうね」
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