人生の時の瞬

相良武有

文字の大きさ
上 下
8 / 63
第10話 思春期

①香織、その膨らみ始めた胸を喧嘩大将に触られる

しおりを挟む
 あれは小学校五年生の夏休み前だった。
クラスの木村香織と言う大柄な女の子がその膨らみ始めた胸を喧嘩大将の金田に触られた。
「何するのよ!」
彼女は金田に食って掛かって行ったが、彼はへらへらと嘲笑って他の仲間達とより一層囃し立てた。それにカッと腹を立てた香織は、いきなり、自分よりも遥かに躰の大きな金田に掴み掛かって行った。同級生達は男の子も女の子も、相手がガキ大将の悪学童だったので、見て見ぬ振りで素知らぬ顔をしていた。
聡亮はそんなクラスメイトに訳の解らぬ怒りを覚え、香織と同じように自分も恥ずかしめられたように感じて、大きな声で怒鳴った。
「金田、謝れよ!原口に謝れよ!」
振り返って聡亮を見た金田がうすッと嗤った。
「関係無ぇだろう、お前には!黙って引っ込んでいろよ、な」
「木村の胸を触ったのはお前個人のセクハラだが、黙って見過ごせばクラス全体の問題になる。さあ、木村に早く謝れよ。謝れ!金田!」
「何だと、この野郎!やるのか!」
金田が殴り掛かって来た。机や椅子が乱れ、男の子が騒ぎ、女の子が叫喚した。金田は聡亮が所詮敵う相手ではなかった。聡亮は相手にボコボコに殴られ、押し倒されて机や椅子の脚で顔面を強打し鼻から血が流れ出た。
クラスメイト達が、男の子も女の子も、強い眼差しで詰め寄るように金田をぞろぞろと取り囲んだ。
「なんだよ、お前ら!・・・退けよ!」
金田は皆を押し退けるようにして独り教室を出て行った。
 起ち上った聡亮がグズグズする鼻を手で擦ると甲に赤い血が着いた。香織がすっとポケットからティッシュを取り出して聡亮の前に突き出した。上目遣いに彼女を見た聡亮は小さな声で「サンキュウ」と言ってそれを受け取った。
「秀才の斎藤君があんなことをするなんて、私、吃驚しちゃった」
「そうね、あの人にあんな勇気が在ったなんて、真実に驚きだわ」
「彼奴もなかなかやるじゃないか、良い根性して居るよ、全く」
「頭が良いだけじゃなくて、ハートも熱いのかな?」
女の子達が痺れ、男の子達が目を見張った。
聡亮は、もともと、勉強がとても良く出来ると言うことで一目置かれていたが、この件で彼はクラスのスターになった。
 香織は眼のくるりと大きい色白の可愛い貌で、勉強も良く出来た。先生の質問にはいつもテキパキと明確に答えたし、とりわけ、彼女の得意な科目は図工と音楽だった。香織が描いた絵はいつも学校や地域の絵画展に入選したし、唄は誰もが驚くほどに上手かった。そして、彼女の身に着けている服装はクラスのどの子のものよりも洒落ていた。聡亮にはそう見えた。聡亮と香織は急速に仲良くなって行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大人への門

相良武有
現代文学
 思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。 が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ルビコンを渡る

相良武有
現代文学
 人生の重大な「決断」をテーマにした作品集。 人生には後戻りの出来ない覚悟や行動が在る。独立、転身、転生、再生、再出発などなど、それは将に人生の時の瞬なのである。  ルビコン川は古代ローマ時代にガリアとイタリアの境に在った川で、カエサルが法を犯してこの川を渡り、ローマに進軍した故事に由来している。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...