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第8話 別れても・・・
②千穂は夕暮れの街へ歩き出した
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千穂はエレベーターに乗ってビルの一階に降りると、未だ陽が沈み切らずに仄明るい夕暮れの街へ歩き出した。
彼女は渋谷のビューティーサロンで美容師をしている現在の彼氏に電話をしてみようかと思った。思いの限りを彼に吐き出して、もう永遠に東京から去ってしまいたい、新幹線に乗って出来る限り遠くへ行ってしまいたい、そう言いたかった。だが、彼は何処へ行ったのか、電話には出なかった。前の晩の遊び疲れでよれよれになり、サウナへでも行って身体を癒しているに違いない男のことを思うと、千穂は、今自分が抱えている問題について彼にあれこれ言うのは憚られる気がした。そして、彼女は高輪本通りの交差点を渡りながら彼に電話をしなかったもう一つの理由に気付いてハッとなった。彼なら、例の仕事を引き受けるべきだ、と簡単に言うかもしれないと思ったのだった。千穂はそう考えただけで暗くて重々しい気分に陥った。
「ようっ、可愛い子ちゃん!」
声を掛けられて振り向くと、一人の背の高い若者がビルの入口に立ったまま、舌先を千穂の方へ突き出して卑猥にプルプル震わせていた。彼女は急ぎ足にその場を去った。
今度は、向うから弾みを付けて歩いて来る二人の若者が手にしているスマホからディスコの音楽が流れて来た。
♪♪僕は君が好きなんだ、死んでも君を離さない、抱いて、抱いて抱き締めて・・・♪♪
店のショーウインドウには、奇妙な形の下着やナイフ、金具だらけの革製品、訳の解らぬ機械や仕掛け商品などと言った大人の玩具が溢れるほどに並んでいた。
超高層のホテルからビジネスマン・スーツに身を包んだ一人の男が出て来た。彼は千穂を見て歩みを停めると笑い掛けた。彼女は男が誘いかける前に足早に彼の前を通り過ぎた。
千穂は一軒の店先のウインドウに自分の姿を映して見た。長い黒髪が風に吹かれ、ベージュ色のコートが巻き上がり、良く磨かれた皮のブーツが、彼女の背丈を実際よりもうんと高く見せていた。
千穂は思った。
確かに私の脚は短いかも知れないわ。でも、誰も彼もが長い脚が良いと思う訳でもないわ・・・短い脚を可愛いと思う人もきっと居るわ・・・
彼女は渋谷のビューティーサロンで美容師をしている現在の彼氏に電話をしてみようかと思った。思いの限りを彼に吐き出して、もう永遠に東京から去ってしまいたい、新幹線に乗って出来る限り遠くへ行ってしまいたい、そう言いたかった。だが、彼は何処へ行ったのか、電話には出なかった。前の晩の遊び疲れでよれよれになり、サウナへでも行って身体を癒しているに違いない男のことを思うと、千穂は、今自分が抱えている問題について彼にあれこれ言うのは憚られる気がした。そして、彼女は高輪本通りの交差点を渡りながら彼に電話をしなかったもう一つの理由に気付いてハッとなった。彼なら、例の仕事を引き受けるべきだ、と簡単に言うかもしれないと思ったのだった。千穂はそう考えただけで暗くて重々しい気分に陥った。
「ようっ、可愛い子ちゃん!」
声を掛けられて振り向くと、一人の背の高い若者がビルの入口に立ったまま、舌先を千穂の方へ突き出して卑猥にプルプル震わせていた。彼女は急ぎ足にその場を去った。
今度は、向うから弾みを付けて歩いて来る二人の若者が手にしているスマホからディスコの音楽が流れて来た。
♪♪僕は君が好きなんだ、死んでも君を離さない、抱いて、抱いて抱き締めて・・・♪♪
店のショーウインドウには、奇妙な形の下着やナイフ、金具だらけの革製品、訳の解らぬ機械や仕掛け商品などと言った大人の玩具が溢れるほどに並んでいた。
超高層のホテルからビジネスマン・スーツに身を包んだ一人の男が出て来た。彼は千穂を見て歩みを停めると笑い掛けた。彼女は男が誘いかける前に足早に彼の前を通り過ぎた。
千穂は一軒の店先のウインドウに自分の姿を映して見た。長い黒髪が風に吹かれ、ベージュ色のコートが巻き上がり、良く磨かれた皮のブーツが、彼女の背丈を実際よりもうんと高く見せていた。
千穂は思った。
確かに私の脚は短いかも知れないわ。でも、誰も彼もが長い脚が良いと思う訳でもないわ・・・短い脚を可愛いと思う人もきっと居るわ・・・
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