人生の時の瞬

相良武有

文字の大きさ
上 下
27 / 63
第7話 老女優

②映画監督、嶋木譲二との再会

しおりを挟む
 ややあって、ふと彼女が顔を上げると、顔見知りの人物が数人の男女に囲まれるようにしてドアから入って来るところだった。その内の大柄な肩広の一人が手持ちカメラを肩に担いでいた。
 顔見知りの人物は山高帽を被っている所為で、実際の身長よりも高く見える。山高帽は半球のクラウン(山の部分)とクルっとカールしたブリム(つば)が特徴で、チャールズ・チャップリンが愛用したことでも有名である。イギリスが発祥の地で元々は乗馬用だったが、十九世紀に若い層に人気を得て爆発的に流行したものであった。
窓から入る初夏の陽光を浴びて彼の顔の色艶も良い。だが、漆黒のサングラスをかけているその老映画監督は、最近、両方の眼が相当に悪くなっているらしい、そんな記事を彼女は何かで読んだ記憶が有った。
「だから殆ど盲目同然なのよ」
誰かが言って居たが、真実だろうか・・・
目下、近くの文化博物館で彼の映画を回顧する催しが開かれており、旧作が十本ほど上映されている、という記事も彼女は何かの雑誌で読んだことがあった。
 今、彼の隣には、テープレコーダーを持った聡明そうな若い女性が付き添っている。
直ぐに三本の照明燈に灯が入り、カメラのフラッシュがたかれて、インタビューの準備が整ったようである。
その光景を眺めている内に一色彩は、若かりし頃の自分の裸体を見た数少ない現存者の一人がその監督であることを思い出した。
監督の名は嶋木譲二、まるで俳優の芸名のようだわ、と初めてその名を聴いた時、彼女は思ったものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大人への門

相良武有
現代文学
 思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。 が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ルビコンを渡る

相良武有
現代文学
 人生の重大な「決断」をテーマにした作品集。 人生には後戻りの出来ない覚悟や行動が在る。独立、転身、転生、再生、再出発などなど、それは将に人生の時の瞬なのである。  ルビコン川は古代ローマ時代にガリアとイタリアの境に在った川で、カエサルが法を犯してこの川を渡り、ローマに進軍した故事に由来している。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...