上 下
23 / 59
第13話 哀愁の遠距離恋愛

㊲哀愁の遠距離恋愛(3)

しおりを挟む
 厳粛な気持になって生命を洗われた二人は又、「永平寺ライナー」に乗って福井市内へ戻った。
「疲れたろう。晩飯までには未だ時間が在るから、何処かそこらでコーヒーでも飲もうか?」
「うん、そうしようよ」
 二人は駅前の喫茶店に入ってコーヒーと水ようかんを注文した。紙箱に薄く詰まった水ようかんはつるりとしたあっさり味で幾らでも食べられそうな感じだった。因みに、福井県では水ようかんは冬の風物詩だと言うことだった。
「ねえ、富山へ帰って来てもう三か月が過ぎたけど、元気でやっているの?」
「ああ、大丈夫だ。全て順風満帆だよ」
靖彦はそう言って仕事の話を熱く語り始めた。
「俺はビジネスマンとして大きな成果を挙げたいと思っているから、やってやろうじゃないか、という熱い闘志を毎日胸の中に滾らせて、やっているよ」
「うん・・・」
「俺たちの会社は日本経済を牽引する、その一翼を担う大企業である訳だろう。今や中国や東南アジアを越えてインドやアフリカまでグローバリーゼーションが拡がる時代だ。これから、混沌と模索の二十一世紀を生きて行く俺たちに今必要なのは、人としての生きかた、在り方みたいなものだ。プラスにしろマイナスにしろ、自分の持ち味を極端なまでに活かすこと。それは「自分は自分」という強烈な自負心であり、短所でさえ活かせば強力な武器になるという「逆転の発想」と言えるかもしれない。一人の人間の性格、能力、考え方というものは一つに特定出来るものではない。色々な側面がある筈で、そうであれば、その時の状況に応じて自分の一番良い部分を出すという柔軟性こそが絶対条件となって来る。パーソナリティの時代とはそういうことだと俺は思っている。そして、それは個人個人の持つ気概に懸かっている。人間が持っている個々の能力はこの気概によってのみ引き出される。その気概とは何か?それは、未来を創る気概だ、と俺は思っているんだよ」
「そうね。会社の未来、日本の未来、人類の未来・・・でも、あなたには先ず自分の未来をしっかり創ることから始めて貰いたいと私は思っているわ」
光子はそう答えながらも何処かちぐはぐな思いを胸にくすぼらせた。自分の思いとしっくり噛み合っていないもどかしさが在った。
私の聞きたいのは、そんな仕事に対する考え方や姿勢の話などではなく、もっと二人にとって切実で身近なもの、逢えなくて寂しい二人の思いやこれからのこと、二人で歩んで行く人生や未来のこと、それらについて聴きたいし、もっと話したいと思っているのよ・・・
しおりを挟む

処理中です...