詩集「支離滅裂」

第三章 二十二歳の詩集

52 偽善

　自殺者救助は

　この現実世界で

　最も残酷極まる遊戯


　自殺者は

　川底から引き揚げられて

　プープー呼吸を回復し

　間抜けた

　惨めな

　絶望感を味わい

　救助者は

　その自殺者が

　自殺を試みる迄に味わった

　種々雑多な

　辛い試練のことは

　思い遣りもせず

　ただ

　微笑して愉し気に

　救助するだけ

　ヒューマニズムと言う

　偽善で固まった火掻き棒で

　現実世界の

　地獄の火の中へ

　無責任に引き戻すだけ

　自殺者にとっては

　死が

　生の意味をあかす

　唯一のものであることを

　これッぽっちも

　考えもしないで


　救助者は

　責苦だらけの

　この現実世界の

　地獄の赤鬼青鬼

　それとも

　全ての価値判断を

　自己一人の基準に従って

　決定し得る

　全知全能の神？