詩集「支離滅裂」

第二章 二十一歳の詩集

㉟ある轢死

　線路の真中に腰を下ろし

　ゆっくりと

　青年は上体を寝かせて行った

　ぴたりと背筋に

　冷たい鈍い鉄棒を感じて

　眼を見開いた青年の上に

　空の青

　海の碧

　山の緑

　三つのアオが

　奇妙なコントラストを描いていた

　そのアオさの中に

　橙色の暖かい柿が見え

　それが次第に

　首と

　胴体と

　二本の手と

　二本の足とに

　変わって行き

　青い空に

　六つの個体となって

　ふんわりと浮いていた


　　Dear和代

　　あなたはどうして私を苦しめるのです？

　　あなたは意地悪、狡い

　　私がそんなにドンファンに見えますか

　　そんな本能的な嫌悪がありますか

　　あなたは私を誤解している

　　私が真実の姿を見せているのに


　　Dear和代

　　あなたには裏切られた気持です

　　あなたをあまりにも過大評価し過ぎて

　　あなたは私を嘲笑するのですか

　　それも良い

　　だけど何か哀しく淋しい

　　しみじみと敗北感を味わっています


　淋しい、淋し過ぎる


　　Dear和代

　　愚かな人間、それはあなたです

　　それ以上に愚かな人間、それは私です

　　嘲笑って下さい思い切り、大声で

　　私も嘲笑います

　　でも　その後で

　　顔をくしゃくしゃにして

　　蒲団に頬刷りして泣いています

　　それは愚かな光景です


　尊大なあなたの顔を

　思いきり切り潰したい


　嘲笑的な笑いを浮かべているあなた


　自惚れの強い男、それは私です

　どうしてこんなにモテるんだろう

　そんな顔をしています

　自称文学青年

　情熱家を気取るセンチメンタリスト

　自信と言うものをからっきし持てず

　唯、空威張りの自惚れだけが強い人間は

　どんなにつまらないか


　そんなに自分を虐めては駄目

　同じ言葉を二人の人間から聞いた

　解かっているんです

　解かり過ぎているんです

　同情なんか要りません

　邪魔せずに放っておいて下さい

　静かにそっと


　昨晩

　地獄からの招待状を受け取りました

　あなたなど愛しは致しません

　色狂いのドンファン


　私の破綻の全てが来ました


　安眠、冬眠、永眠、

　私はどれだ、永眠


　規則正しい振動の響きと共に

　黒い巨大な鉄の鬼が

　赤茶けたトンネルから躍り出して来た

　青年は

　真実ノートを

　細かく小さく切り裂いて

　放り上げた

　それがくるくる舞い

　奇妙な音を遺して

　通り過ぎた汽車の後を

　いつまでも追っていた