詩集「支離滅裂」

相良武有

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第一章 二十歳の詩集

⑪波止場

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 霧の波止場に灰色が流れて

 汽笛が咽ぶ


 兄さあん・・・

  <言って来るぞ、達者で居ろよな、って

   肩を叩いたあの大きな手>

 想い出す度にまた泣けるんです

 この鉛色の海を渡ってそれっ切り

 二度と逢えない

 二人の肉親の二つの心

 兄さん

 兄さんの帰って来るのを

 唯それだけを

 僕は毎日祈ってるんです


 やるせない銅鑼の響きが思慕を告げて

 泣いて消える


 兄さあん・・・

  <今度帰るまで、これを俺だと思ってろ、って

   残してくれた錨のペンダント>

 想い出す度にまた泣けるんです

 たった一人の肉親である兄さんに

 再び会える日は何日

 兄さんが難船したなんて

 僕にはとても信じられません

 あの逞しい兄さんが・・・

 兄さん

 兄さんの無事との便りを

 せめてそれだけを

 海の鴎に託して下さい


 呼ぶ霧笛を

 波が洗い去る

 波止場には

 海猫の群れ

 

 
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