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公爵令嬢の病
公爵令嬢の病3
しおりを挟む扉を開けると、そこは別世界だった……というわけでもなく、ごく普通の高位貴族の令嬢が好みそうな、淡いピンクを基調とした部屋があった。日当たりも良く、風通しも良さそうだ。だが、どことなく少し冷たく感じるのは、状況が状況だからであろう。
ピッ……ピッ……ピッ……
機械的な電子音が響く中、部屋の中に入るよう促される。ベッドの傍らに立つ美女と目が合った。思わず会釈する。
「紹介しよう、わたしの妻のマリーだ」
すっ、とスカートを軽くもち、腰を下げ、淑女の礼を取る様はまさに大貴族に嫁ぐに相応しい姿で、挨拶のやり方等あまり知らない男でも見惚れるほどだ。
「この度は、お越し下さりありがとうございます。」
「いえ、若輩者ですが出来る限りのことはさせていただきますので」
ちら、っと中央のベッドに横たわる少女を横目で観察する。顔立ちは少し幼いように見えるが、骨はしっかりしているようだ。俺のところの娘と同じくらいだろうか。
透き通るような白い肌はどこか青白く見え、今にも消えてしまいそうだ。薄く淡いピンク色の唇。見るだけでサラサラだとわかるシルクのような金髪。閉じられている瞼の奥は見えないが、容易に想像できるほどの美少女である。
(……夫人に似だな)
公爵の方に似なくてよかった、と思ってしまった。いや、公爵は悪くはない。だが、組み合わせ的にもアウトではないか?というほどの夫婦である。こんな美少女がこの世に存在するというだけで世界のメリットだ。
何を考えているんだ、俺は。
視線を戻す
「早速ですが、始めます」
スラスラと呪文を唱え始める。最後にこの術を使ったのはいつ頃だっただろうか。術が術なだけあって、この魔法は魔力がMAX状態かつ魔力増幅薬を服用しないと使えない。肝心の魔力増幅薬は使用数が月毎に決められているという代物。値段もまあまあそれなりに。
冒険者は命を削って、戦う職種である。いつ必要になるか分からないものを、と思う半分、ここで使わないでどうする?ここで使わなければ、意味がないと思う自分がいた。だから、来た。万全の準備をして。
部屋全体に魔法陣が浮かび上がる。
「――――――、回復魔法・特」
周囲から息を呑み、驚く気配を感じた。驚くのも無理はないだろう。この魔法を使える者は中々いない。なぜなら、このスキルはレベルで言うなら8/10。つまり、国に1人いたら良い方。効果は、生きている限り殆どの症状を治す、というもの。
何を隠そう、この男は元王宮魔法師団回復部隊隊長、王国の回復魔法の先任者。今を生きる魔法師団の回復魔法の使い手は俺が育てたと言っても過言ではない。給料は多かった。が、男は冒険がしたかった。世界を見て回りたかった。連れられてくる患者を治す日々。終わりの見えない日常。そんな世界が嫌で飛び出した。軽いお尋ね者だ。本人曰く引き継ぎはしたらしい。
閑話休題
部屋一面に魔法陣の光があたり、徐々に徐々に少女に浸透していき、すぅーっと消えた。
さて、どうだろう。
少女は一向に目が覚めない。
覚める様子がない。
失敗か?いや、術は発動した。間違いない。何故だ?何が問題だった?回復魔法・特だぞ?既に死んでいる?そんなはずは
慌てて少女の脈を確認する。問題ない。正常だ。
ピッ……ピッ……
機械的な電子音は続いていた。
コンコンコンッ
「あー、ちょっといいか?」
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