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06. 悪役令嬢は、父様がお好き
しおりを挟む「なんですって」
本当にあの娘が――?
イレーナの脳裏に浮かんだのは窶れ、氷のように生気を失っていく姉。――
今は亡きエリーゼが、床に伏している場面が鮮明に思い出された。
「――国王陛下、私はあなたがロドリゲス先生だと信用して、イレーナに娘が妖精の呪いが掛かったと話したのです。……一人の親として、夫として、その話しの真偽をはっきりさせて頂きたいと思っております。陛下のご冗談好きは私も耳にしておりますゆえ、これがもしも、私たちをからかっているというのならば、そう仰ってください。――今ならば、今ならば間に合います」
アルバートは厳めしい顔を更に強張らせると、イレーナを守るように肩を抱いた。
「娘の前では心配をさせないようにと気丈に振舞っておりましたが、それとこれとは話が別です」
「あなた……」
震える夫の手をイレーナは自身の手で優しく被せた。
この見てくれは勇ましいが根は気弱な彼が、家族を守るために立ち向かうなんて。
イレーナは目頭が熱くなるのを感じてそっと目を閉じた。
「……やれやれ。どうやら私は相当信用されていないらしいな。――しかし、私とて妻子ある身ゆえ、その手の冗談は好まぬよ」
「では、では、本当に」
「そうだ。預かっていたロドリゲスの「鈴」が作動した。間違いなくあの黒妖精《ダークフェアリー》がこの一件に関わっているのは間違いない」
息ができない。
頭を金づちで撃たれたかのような衝撃をイレーナは受けた。
またなのか。
10年前と同じあいつが。――
また私の白薔薇を奪うのか。
深く絶望したイレーナがその場に崩れ落ちそうになると、肩を抱いていたアルバートは力強く引き抑えた。
「イレーナ! 大丈夫か!」
「………………えぇ、大丈夫よ。少し、立ちくらみがしただけ」
なおも元気のあるように装うイレーナだったが、ひどく汗を掻き小刻みに体は震えていた。
そんなイレーナを見かねたのか、カアン国王はゆっくりと口を開く。
「――イレーナよ安心するといい。呪いの方はすでに解除されておる」
「………………な」
なんですって。
イレーナはそう告げようとするが、唇が思うように動かなかった。
「それは、それはどういう意味なのです?やはり私たちをからかって?――」
混乱するアルバートはイレーナに代わるようにそう尋ねる。
「いいや、先刻まで常に作動していた鈴が、一段と強く震えたと思うたらその後は何も動かなくなってな。寝ておる娘に密かに近づいて確かめてみても、ピクリともしなかった」
これがどういうことだか、分かるか。
満面の笑みのカアン国王は手の平を広げて夫妻にもの問うが、戸惑いを隠せない夫妻はただ黙ってその言葉の続きを聞くしかできない。
――ハハハハハ!
突如高笑いを上げる国王に、夫妻は恐ろしいものを見るような目を向けた。
「……喜んで聞くがいい! お前たちの娘はな!――」
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