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第一章 北州編
再会
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乾いた冷たい風が吹き、黄色い砂塵が舞う索漠とした街に、一人の若者がたどり着いた。
年は二十代に入ったばかりというところ。旅塵に汚れてはいたが、育ちの良さそうな童顔から精気を消すことはできていない。杖を突いているのは足が悪いわけではなく、長い旅の助けのためである。彼の故郷である新野からこの鄴までは直線距離でも七百五十里(300km)は下らないのだ。
鄴は比較的大きな街で人も多い。が、今は兵の姿をよく見かける。そのことに若者は安堵した。彼が黄河を渡ってはるばる北上してきたのは、この兵をひきいる将軍に会うためだったのだから。
将の居場所を近くの兵に尋ねようとした若者だが、少し考えを変えた。どうせすぐにわかることではあるし、まずはこの街の様子や住んでいる人々、駐屯している兵の様子を見ておこうと思ったのだ。それらを観察してある程度の実状を把握しておけば、これからのためにいろいろ都合がいい。それに腹も減っている。目的の人物に会ってすぐ食事を取れるとも限らないし、先に何か腹に入れておく方がいいだろう。
そのような考えでぶらぶらと街中を歩いていた若者だが、予定は再度、突然変更された。
なんと会うべき人物を見つけてしまったのである。
彼は特に何をするということもなく、道端の古ぼけた椅子に座り込んでぼーっとしていた。堂々たる体躯をしており、立派な髭も生やしているが、それは他人を威圧するものではなく、かといって木偶の坊と称されるような鈍さも感じられない。強いて言えば不思議な安堵感と懐の深さを覚えさせる容貌だろうか。服も一般の民と変わらぬものをあえて着ているようで、目立つことはなかった。なにしろ道行く町民だけでなく、自兵の中にも彼に目を向ける者がほとんどいないのだ。
とてものこと一軍の将、ましてや「皇族」には見えない。だが彼はほんの数ヶ月前、たった三千の兵で百万の敵軍を潰走させるという、古今の戦史にもほとんど類を見ない壮挙を成し遂げた名将なのであった。
「相変わらずだ」
昔から意図せず自分の意表を突いてくる彼に、若者は小さく笑う。将と若者の年齢は十歳近く離れているが、二人は「同窓生」でもあった。
その年上の同窓生に歩み寄ると、若者は声をかけた。
「お久しゅうございます、文叔どの」
落ち着いているが明るく若々しい声にあざなを呼ばれ、ぼっとしてた将はかすかに我に返り若者を見上げる。最初は誰だかわからず若者の顔を見ているだけだったが、その面貌が記憶の中の名前と一致すると、顔を明るくしながら勢いよく立ち上がった。
「…仲華! 鄧仲華か! なぜこんなところにおる!」
突然で意外な旧友との再会に、驚きと喜びを満面どころか満身にあふれさせながら、劉文叔は左右の手で嬉しげに仲華の両肩をばんばんと何度も叩いた。
これがのちに後漢王朝の始祖となる光武帝・劉秀と、彼の軍師で「雲台二十八将」筆頭に挙げられる鄧禹との、数年ぶりの再会だった。
年は二十代に入ったばかりというところ。旅塵に汚れてはいたが、育ちの良さそうな童顔から精気を消すことはできていない。杖を突いているのは足が悪いわけではなく、長い旅の助けのためである。彼の故郷である新野からこの鄴までは直線距離でも七百五十里(300km)は下らないのだ。
鄴は比較的大きな街で人も多い。が、今は兵の姿をよく見かける。そのことに若者は安堵した。彼が黄河を渡ってはるばる北上してきたのは、この兵をひきいる将軍に会うためだったのだから。
将の居場所を近くの兵に尋ねようとした若者だが、少し考えを変えた。どうせすぐにわかることではあるし、まずはこの街の様子や住んでいる人々、駐屯している兵の様子を見ておこうと思ったのだ。それらを観察してある程度の実状を把握しておけば、これからのためにいろいろ都合がいい。それに腹も減っている。目的の人物に会ってすぐ食事を取れるとも限らないし、先に何か腹に入れておく方がいいだろう。
そのような考えでぶらぶらと街中を歩いていた若者だが、予定は再度、突然変更された。
なんと会うべき人物を見つけてしまったのである。
彼は特に何をするということもなく、道端の古ぼけた椅子に座り込んでぼーっとしていた。堂々たる体躯をしており、立派な髭も生やしているが、それは他人を威圧するものではなく、かといって木偶の坊と称されるような鈍さも感じられない。強いて言えば不思議な安堵感と懐の深さを覚えさせる容貌だろうか。服も一般の民と変わらぬものをあえて着ているようで、目立つことはなかった。なにしろ道行く町民だけでなく、自兵の中にも彼に目を向ける者がほとんどいないのだ。
とてものこと一軍の将、ましてや「皇族」には見えない。だが彼はほんの数ヶ月前、たった三千の兵で百万の敵軍を潰走させるという、古今の戦史にもほとんど類を見ない壮挙を成し遂げた名将なのであった。
「相変わらずだ」
昔から意図せず自分の意表を突いてくる彼に、若者は小さく笑う。将と若者の年齢は十歳近く離れているが、二人は「同窓生」でもあった。
その年上の同窓生に歩み寄ると、若者は声をかけた。
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落ち着いているが明るく若々しい声にあざなを呼ばれ、ぼっとしてた将はかすかに我に返り若者を見上げる。最初は誰だかわからず若者の顔を見ているだけだったが、その面貌が記憶の中の名前と一致すると、顔を明るくしながら勢いよく立ち上がった。
「…仲華! 鄧仲華か! なぜこんなところにおる!」
突然で意外な旧友との再会に、驚きと喜びを満面どころか満身にあふれさせながら、劉文叔は左右の手で嬉しげに仲華の両肩をばんばんと何度も叩いた。
これがのちに後漢王朝の始祖となる光武帝・劉秀と、彼の軍師で「雲台二十八将」筆頭に挙げられる鄧禹との、数年ぶりの再会だった。
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