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5話 浮気現場
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六限目の授業を終えた私は職員室へと戻ってきた。
隣の席の島田先生は今日使ったであろう、分厚い本をダンボールへと次々詰め込んでいた。
「お疲れ様です島田先生。相変わらずの大荷物ですね」
「あ~お疲れ様です桐谷先生。今日も結局二冊くらいしか使ってないんですけどね」
大きな黒縁眼鏡をくいっと上げながら彼は答えた。はははと少し乾いた笑みを浮かべ私は席についた。机の上を整理すると私の帰り支度は三分で終わった。
「中間テストの問題はもう出来ました?」
「え~と、今写真の設問を選んでまして、なかなか決まらないんですよ。問題用紙を五枚とかにしちゃダメですかね?」
「たぶんダメです。資源は大切にですよ島田先生」
ですよねぇと、肩を落としながら彼は最後の一冊をダンボールに無理やり押し込んでいた。お先ですと、挨拶をして私は職員室を後にし音楽室を目指した。
進学校であるうちの高校は試験の一週間前から部活は全て休みになる。もちろん修哉が顧問を務める吹奏楽部も今日は休みだ。
長い廊下を一人で歩きながら、手に持っていた先程の栞を改めて見ていた。桜の押し花を和紙にくっ付けて栞にしてある。明らかに手作りであろうそれは、修哉のお手製なんだろうか?
「こんなかわいい趣味があったんだね~」とか言って少しおちょくってみようかと私はほくそ笑んだ。
夏が終わりに近づき、すでに夕日が窓から射し込み始めていた。北校舎の一番奥にある音楽室はひっそりと静まり返っている。
私は音楽室へと辿り着くと、ドアのガラス部分から中をそーっと覗きこんだ。
室内はカーテンの隙間から射す夕日に照らされ綺麗なコントラストを描いていた。
もう帰っちゃったかな――ガランとした室内を見渡していると隅っこの机に腰掛けている男性らしき人影を見つけた。
まだ残っていたと、少し嬉しくなり扉を開けようとした時、男の足元でごそごそ動くもう一つの影を見つけた。目を凝らして見るとうちの女子生徒だとわかる。
薄暗くはっきりとは見えないが、その女子生徒は机に座る男の股間あたりに顔を埋めている。その行為の意味を理解した時、頭のてっぺんから足元へ血がさーっと降りていくような感覚に襲われた。
夕映えで作り出された室内が幻想的に見えるからか。
それとも私が現実逃避しているのか、まるで夢でも見ているかのようだった。
心臓の音が高鳴り、呼吸も次第に荒くなっていく。
男は女子生徒を立ち上がらせ後ろを向かせると、スカートを捲りあげ下着をずり下ろした。びくっと僅かに反応した彼女の体がゆっくりと前後に動き始める。
そして男は後ろから彼女の胸を鷲掴みにし首筋を舐め始める。
あれは修哉が私の時もよくやる動きだ。
だとしたらあの男はきっと――
気付けば手足が小刻みに震え出していた。足に力が入らずその場にしゃがみ込んでしまう。その際、膝がドアにぶつかってしまい、ガタンという音が廊下に鳴り響いた。
やばい見つかっちゃう――なぜかその時私は咄嗟にそう思ってしまった。
見られて不味いのは向こうのはずなのに。
しゃがんだ体勢から四つん這いになって音楽室をゆっくり離れる。そろりそろりと僅かに進んだところで私はさっと立ち上がると、ススッと足音を立てず滑るように廊下を突き進んだ。
彼女が長い廊下を曲がった時、男は音楽室のドアをガラガラと開いた。廊下を見渡すがそこには誰もいない。ふと足元をみると一枚の栞が落ちていた。
拾い上げて見るとどこかで見覚えのある、桜の押し花の栞だった。
「どうかしました? 高橋先生」
乱れた制服を整えながら女子生徒が高橋の後ろから声を掛けた。
「いや、なにか物音がしたから……気のせいだったかな」
振り向いて微笑むと、彼は彼女の頬を撫でる。そのまま抱き寄せると深い口づけを交わした。
「ねぇ先生、私のこと好き?」
潤んだ瞳、上気しピンクに染まった頬。若さ特有の滑らかな肌に触れ彼は頷いた。
「ああ、愛してるよ」
夕日が沈み暗闇に塗り替えられた音楽室で、二人は再び一つになった。
隣の席の島田先生は今日使ったであろう、分厚い本をダンボールへと次々詰め込んでいた。
「お疲れ様です島田先生。相変わらずの大荷物ですね」
「あ~お疲れ様です桐谷先生。今日も結局二冊くらいしか使ってないんですけどね」
大きな黒縁眼鏡をくいっと上げながら彼は答えた。はははと少し乾いた笑みを浮かべ私は席についた。机の上を整理すると私の帰り支度は三分で終わった。
「中間テストの問題はもう出来ました?」
「え~と、今写真の設問を選んでまして、なかなか決まらないんですよ。問題用紙を五枚とかにしちゃダメですかね?」
「たぶんダメです。資源は大切にですよ島田先生」
ですよねぇと、肩を落としながら彼は最後の一冊をダンボールに無理やり押し込んでいた。お先ですと、挨拶をして私は職員室を後にし音楽室を目指した。
進学校であるうちの高校は試験の一週間前から部活は全て休みになる。もちろん修哉が顧問を務める吹奏楽部も今日は休みだ。
長い廊下を一人で歩きながら、手に持っていた先程の栞を改めて見ていた。桜の押し花を和紙にくっ付けて栞にしてある。明らかに手作りであろうそれは、修哉のお手製なんだろうか?
「こんなかわいい趣味があったんだね~」とか言って少しおちょくってみようかと私はほくそ笑んだ。
夏が終わりに近づき、すでに夕日が窓から射し込み始めていた。北校舎の一番奥にある音楽室はひっそりと静まり返っている。
私は音楽室へと辿り着くと、ドアのガラス部分から中をそーっと覗きこんだ。
室内はカーテンの隙間から射す夕日に照らされ綺麗なコントラストを描いていた。
もう帰っちゃったかな――ガランとした室内を見渡していると隅っこの机に腰掛けている男性らしき人影を見つけた。
まだ残っていたと、少し嬉しくなり扉を開けようとした時、男の足元でごそごそ動くもう一つの影を見つけた。目を凝らして見るとうちの女子生徒だとわかる。
薄暗くはっきりとは見えないが、その女子生徒は机に座る男の股間あたりに顔を埋めている。その行為の意味を理解した時、頭のてっぺんから足元へ血がさーっと降りていくような感覚に襲われた。
夕映えで作り出された室内が幻想的に見えるからか。
それとも私が現実逃避しているのか、まるで夢でも見ているかのようだった。
心臓の音が高鳴り、呼吸も次第に荒くなっていく。
男は女子生徒を立ち上がらせ後ろを向かせると、スカートを捲りあげ下着をずり下ろした。びくっと僅かに反応した彼女の体がゆっくりと前後に動き始める。
そして男は後ろから彼女の胸を鷲掴みにし首筋を舐め始める。
あれは修哉が私の時もよくやる動きだ。
だとしたらあの男はきっと――
気付けば手足が小刻みに震え出していた。足に力が入らずその場にしゃがみ込んでしまう。その際、膝がドアにぶつかってしまい、ガタンという音が廊下に鳴り響いた。
やばい見つかっちゃう――なぜかその時私は咄嗟にそう思ってしまった。
見られて不味いのは向こうのはずなのに。
しゃがんだ体勢から四つん這いになって音楽室をゆっくり離れる。そろりそろりと僅かに進んだところで私はさっと立ち上がると、ススッと足音を立てず滑るように廊下を突き進んだ。
彼女が長い廊下を曲がった時、男は音楽室のドアをガラガラと開いた。廊下を見渡すがそこには誰もいない。ふと足元をみると一枚の栞が落ちていた。
拾い上げて見るとどこかで見覚えのある、桜の押し花の栞だった。
「どうかしました? 高橋先生」
乱れた制服を整えながら女子生徒が高橋の後ろから声を掛けた。
「いや、なにか物音がしたから……気のせいだったかな」
振り向いて微笑むと、彼は彼女の頬を撫でる。そのまま抱き寄せると深い口づけを交わした。
「ねぇ先生、私のこと好き?」
潤んだ瞳、上気しピンクに染まった頬。若さ特有の滑らかな肌に触れ彼は頷いた。
「ああ、愛してるよ」
夕日が沈み暗闇に塗り替えられた音楽室で、二人は再び一つになった。
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