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第8話 滅びのまじない
しおりを挟む結局その後、おれ達の出番はほとんどなく、あっという間に魔王城にたどり着いてしまった。流石は勇者パーティーと言ったところか。三人の力は圧倒的に強かった。
魔王城への入り口は洞窟のようになっていた。中はひんやりとして暗く、まさにラスボスへと向かう道といった雰囲気だった。
「ここからは敵の強さが格段に上がる。二人共心してくれ」
アレックスの言う通り、出現する魔物の強さの桁が違った。しかもアレックスにテルマ、そしてマリアさんに至るまで、今まで手を抜いていたんじゃないかと思うくらいその動きが変わっていた。
はっきり言っておれはついていくのがやっとだった。だが咲耶は違った。
足を引っ張るどころか三人に引けを足らないくらい暴れ回っている。
「うふふ――」
しかも笑ってやがる! 楽しんでやがる! 背後にいる呂布もちょっと引いてるんじゃないのか?
どれくらい進んだだろうか? ようやく洞窟を抜けると、だだっ広い場所へと出てきた。切り立つ壁の向こうには魔王城がそびえ立ち、目の前は沼地になっている。その沼地の真ん中に祠《ほこら》のようなものがあった。
「あれは?」
おれがそう尋ねるとマリアさんが首を傾げた。
「あんな所に祠があるなんて聞いた事ないですねぇ。いかにも休憩しろと言ってる感じがしますけど……」
「まぁせっかくだ。ちょっと行ってみよう」
アレックスの一声で、おれ達は祠へと向かった。沼地に架けられたつり橋を渡り中へと入る。するとそこには小さな炎がひとつ、まるで生き物のようにゆらゆらと浮いていた。
「よく来た、テンセイシャよ……」
突然、頭の中で響くような声がした。
「きゃっ」
咲耶が驚いて思わずおれに抱きついてきた。どうやら娘にも聞こえているようだ。
「どうした?」
アレックスが心配そうに声を掛けてきた。他の二人も不思議そうな顔でおれ達の事を見つめている。
「よく聞けテンセイシャよ。魔王は其方たちでなければ倒せぬ。今から滅びのまじないを教える。よく聞いて覚えるがよい……」
ありがちと言えばありがちな話なんだが、まさかそんな大役をおれ達が背負うなんて。咲耶と目が合う。彼女は力強い眼差しでしっかりと頷いた。
「これが滅びのまじないじゃ。Chessons les démons, laissons entrer le bonheur 」
「ちょ、ちょっと待った! なんて? シェ、シェソン、レ?」
「シェソン レ デモン、レソン アントレ ルボナールだよ」
天の声に代わって答えたのは咲耶だった。
「へ? 咲耶はわかるのか?」
「うん。たぶんフランス語。シェソン レ デモン、レソン アントレ ルボナール。はい言ってみて」
「しょせんそれでも? それあんたとるーの?」
「なんか微妙に文章になっててムカつく……」
軽くおれ達が言い合いをしていると、天の声が割り込んできた。
「ではその言葉を二人同時に叫ぶように。では健闘を――」
「ちょっと待ったー! もっと簡単にならないのか?」
おれがダメもとで聞いてみると、しばらくの沈黙の後、再び天の声が聞こえてきた。
「もしかしてお主達はニッポンジンか?」
「ああ、そうだが……」
おれがそう答えると天の声が一瞬だけおどけた感じになった。
「あーすまんすまん。では滅びのまじないを伝える……オニハソト、フクハウチ」
「えっ? そんな意味だったの!?」
おれが聞き返すと咲耶がゲラゲラと笑っていた。他の三人は終始ぽかんとした表情でおれ達を見ていた。確かに魔王はある意味鬼だろうけど……まさかそんな古典的な手法とは思う訳がない。
「豆はまかなくてもいーのか?」
おれが呆れ顔でそう尋ねると今度はアレックスが答えた。
「破邪の豆なら持ってるぞ。よく魔王の弱点を知っていたな?」
そう言って彼は袋に入った豆を見せてきた。
袋の中には黄金に輝く大豆がぎっしりと詰まっていた。
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