アラフォーパパはアキレス腱を切って、なぜか異世界に飛ばされました

oufa

文字の大きさ
上 下
6 / 11

第6話 異世界のすゝめ

しおりを挟む

「こいつはジッキュウミツタダという名があるそうだ。カタナってやつだろう?」

 トンカラ爺さんが刀をくるくると捻りながらおれに見せてきた。

 実休光忠――確か本能寺の変の時、信長が最後まで手元に置いていたとされる刀だったはずだ。てことは本当に信長はこの世界に転生していたという事か。

「ほれ、持ってみろ」

 トンカラ爺さんに差し出され、おれは恐る恐るその刀を握った。その瞬間、刀がチリチリと音を立て剣先から火の粉が零れ始めた。これは炎に包まれてその生涯を閉じた信長の怨念か? はたまたおれが持つ魔法属性の所為なのか?

「どうやらお前さんも気に入られたみたいじゃの。特別に安くしといてやろう」

 ニコニコと笑いながらトンカラ爺さんはそろばんを弾いた。その後も盾や防具など、咲耶とアレックスがあれこれ言いながら選んでいた。そして頭のてっぺんからつま先までなにもかもが新調され、ついに“異世界おのぼりさん”が誕生した。

「見てよパパー! うちめっちゃ強そうじゃない?」

 確かに咲耶が身に着けた武器や防具はどれもかっこいい。親の贔屓目なしに言っても物語のヒロインと呼んでも過言ではないだろう。

 一方のおれはというと、こてこての鎧に日本刀。どっからどうみても魔王討伐の途中で「おれの事は置いていけ! 魔王を倒すんだ!」とか「うわっはっは! ここまで来たらお前らは用済みだ!」とか言いそうなモブキャラ全開の見た目だ。

「どうだ? 気に入ったか?」

 アレックスに満面の笑みでそう訊かれ、おれは思わずお得意の営業スマイルを見せた。

「ああ、もちろん! 恩に着るよアレックス!」

 金出してもらってるからなー。異世界に来てまで社交辞令が出るなんて……大人になんてなるもんじゃない。

 アレックスがずっしり重そうな袋を渡すと、トンカラ爺さんもほくほく顔で嬉しそうだった。

「じゃあ気をつけて行ってきな! それと、そのテンセイシャが魔王にやられたらそのカタナはまた引き取るからな」

 まったくこのジジイめ。縁起でもないことを言いよって。しかもおれだけやられるのが前提じゃんか。おれが口を尖らせながら爺さんを見ていると、がっはっはと笑いながら手を振った。

 
 店を出ておれ達は少し街をぶらぶらした。改めてその光景を見ていると本当に異世界に来たんだなぁという実感が湧いてくる。

 珍しい食べ物に怪しげな雑貨屋。魔法を使う大道芸人や不思議な魔物のペット連れた貴婦人。ただ行き交う人々全てがなぜか輝いて見えた。

 現実世界でのおれ達は、時間通りに会社や学校に向かい仕事や勉強など決められた事を淡々とやり進める。もちろん趣味や遊びなど自由を謳歌する人もたくさんいるだろう。けれどやっぱり人間社会という枠組みから逸脱することは許されない。

 贅沢な悩みだということは重々承知だ。日々安定した暮らしが送れるのは先人達が築き上げてくれた恩恵の賜物だ。それでもこの世界に生きる人達が時折羨ましく思える。

 生きる事を楽しみながら精一杯生きる。

 当たり前の事かもしれないが、はたして向こうの世界でおれはその当たり前な事がやれてただろうか? 


「パパー! 今度はあっち行ってみようよ!」

 こんなに嬉しそうにはしゃぐ咲耶を見るのも久し振りかもしれない。娘が最近学校に行きたくなさそうなのはわかっていた。悩みがあるなら相談しろとも言っていた。いつもゲームの世界に逃げ込んでいた娘を見て心配しつつも少し苛々していた。

 でも今ならそれもわかるような気がする。きっと咲耶も学校や現代社会で生き辛さを感じていたのかもしれない。

 生きていく答えを探す、なんて大それたことは思わない。とにかく今はこの世界を楽しんでみよう。 

「よし! 行ってみるか! 欲しいものがあったらなんでも買ってやるぞ~なぁ! アレックス」

 そう言っておれがバシバシと肩を叩くとアレックスは苦笑いを浮かべた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

ハーレムを満喫したい転生魔法使い少年VS逆ハーレム希望の転生聖女様VSレッサーパンダ

坂巻
ファンタジー
よくある異世界転生には、もちろん管理側の苦労というものがある。ハーレムを満(以下略)者たちを見守る、彼らの悲喜こもごもと、世界の真実。そして、レッサーパンダさいかわ。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...