アラフォーパパはアキレス腱を切って、なぜか異世界に飛ばされました

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第4話 異世界で始める娘との旅

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 場が一瞬にして静まり返った。たき火からは揺らめく炎がパチパチと心地いい音色を奏でていた。マリアさんもテルマもおれの答えを待つかのように、黙ったままこちらを見ていた。咲耶も不安そうな顔でおれの言葉を待っている。

「実はおれたちは……」

「もしかしたらテンセイシャだろ!?」

 突然アレックスが立ち上がり声を張り上げた。まるでそれを待ち望んでいるかのような満面の笑みで。

「ええっと……そうなんだが。どうしてわかった?」

「やっぱりかー! なんか雰囲気が違うと思ってたんだ。てことはサーシャもそうなのか?」

 アレックスだけでなくマリアさんもテルマもニコニコと笑っている。てっきり秘密にしなけりゃいかんと思っていたのに……。咲耶も同じ考えだったようで呆気に取られていた。

「う、うん……。うちらは本当の親子だから。てか転生者って言葉よく知ってるね?」

 咲耶の質問に答えたのはマリアさんだった。相変わらず快調に葡萄酒を飲んでいる。

「これまでテンセイシャというのは何度か現れているんです。有名なとこですとベンケー、ノブナガ、ムサシ・ミヤモト。そういえばジャンヌ・ダルクという女勇者もいましたね」

「なんだ、その錚々そうそうたる面子は……」

 全員歴史の教科書に載ってるような人物ばかりじゃないか。おれがあんぐり口を開けているとテルマがおれと咲耶の方へと近付いてきた。

「テンセイシャはなぜかみんな強いのよ。サーシャもカシワギどっちも凄い魔力だよ。私と変わらないくらい」

 テルマの目が赤くぼんやりと光を放っている。おれ達の魔力とやらが見えるのだろうか?

「たしかにさっき剣を振った時に炎が巻き起こったが、あれは魔法なのか?」

「あれは魔法剣というやつさ。カシワギが使ったのはフレイムソードと呼ばれている。おそらくおまえの属性は火なんだろうな」

 アレックスはさっきからずっと嬉しそうに笑っている。まさかそっちの気があるんじゃ……。

「アレックスには故郷にちゃんと奥さんと子供がいますよ」

 おれの考えが読めているかのようにマリアさんが耳打ちをしてきた。おれ思わずほっと胸を撫で下ろす。

「サーシャの属性は雷と水だねー。相性抜群じゃんかー」

「うちも魔法が使えるの!?」

 咲耶が勢いよく立ち上がりテルマに詰め寄った。

「うんもちろん! カシワギより魔力が多いよー。君は弓使いのようだから弓に魔法を纏わせることができるんじゃないかな? マジックアローってやつ」

「マジで!? わーどうしよどうしよ! パパ! 弓で魔法が打てるって!」

 ぴょんぴょんと跳ねながら咲耶がおれに抱きついて来た。その笑顔は昔、本格的な競技用のリカーブボウを買ってあげた時のようだった。あの時は泣きながら抱きついてたな。

「試しに打ってみたらどうだ? その様子だとまだやったことがないんだろ?」

 アレックスが弓をひょいと持ち上げて咲耶に渡した。

「でも、うち矢を持ってないよ?」

「大丈夫。君の魔力なら魔法で矢を顕現させることが出来る。頭の中で雷の矢を想像してみて」

 テルマが咲耶の後ろに立ち、背中にそっと手を当てた。

「詠唱とか要らないの?」

「わりと細かいな! あれは魔力が弱い奴が集中力を高めるためにやってることだよ。でも雰囲気は大事だから打つ時に一言いえばいいよ」

 テルマがなにやら咲耶の耳元でささやき、それを聞いて咲耶がこくりと頷く。

 目を閉じ、一度大きく深呼吸してから咲耶が弓をぐっと引いた。無駄な力がはいっていない綺麗なフォームだ。すると弓の中心に一本の光り輝く矢が現れた。時折バチバチと電気の火花が散っている。

「サンダーアロー!!」

 大きな掛け声と共に咲耶は真っ暗闇の空へ目掛け矢を放った。眩い閃光が闇夜を切り裂く。それは一本の光の筋を残しながら遥か遠くまで飛んでいった。

「やったー! やったやった! パパ見た!?」

「ああ! 凄かったぞ!」

「やるねー! 結構上位クラスの魔法に匹敵するよ」

「すげえなお嬢ちゃん! おれも目で追うのがやっとだったぞ」

「酔いが醒めました~お見事です」


 みんなが口々に褒め称えた。咲耶は体をくねくねとさせながら照れたように笑っていた。その時突然、アレックスがポンと一度手を叩いた。


「よし! これで二人の実力はわかった。テルマもマリアも異論はないよな?」

「うんもちろん! サーシャがいたら私も楽できるし」

「私ももちろん大賛成です」

 二人の言葉を聞いて、アレックスがおれの元へとやってくる。そして両手を肩に乗せながらにやりと笑った。

「カシワギ。おれ達と一緒に魔王を倒してくれ」

「へ?」

 思わず気の抜けたような声が出た。おれが驚き固まっていると咲耶がダダダと走ってきた。

「うちらをパーティーに入れてくれるの!? やったー! もちろんやるよね? 魔王討伐!」

 キラキラとした目で咲耶がおれを見てきた。ここまで娘に言われちゃあおれも男だ。

「もちろん! やってやんよー! 魔王だろうが竜王だろうがかかってこいやー!」

「おっ! 竜王も行くか? 魔王より強いぞ」

「え? 竜王もいるの?」

「ああ。魔王ですら恐れる影の支配者だ。今は長い眠りについてるがな」

「それは起こさない方がいいな。うん」

 咲耶は呆れ、マリアさんは笑っている。テルマは笑い過ぎて涙を流しながらおれ達の方へとやってきた。

「じゃあサーシャにカシワギ。二人共よろしくね。あとカシワギってなんか呼びづらいなぁ。カッシーって呼んでもいい?」

「いやだったらタケルって名前があるんだけど……」

 おれの言葉を遮るようにアレックスが肩を組んできた。

「いいじゃないかカッシーで! よし! 新たなパーティー結成を祝して乾杯だ!」

 マリアさんが次々と葡萄酒を取り出す。咲耶には特別に果実水まで用意してくれた。


 こうして、おれと娘の異世界での冒険は幕を開けた。



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