アラフォーパパはアキレス腱を切って、なぜか異世界に飛ばされました

oufa

文字の大きさ
上 下
2 / 11

第2話 勇者達との出会い

しおりを挟む

 抱き起した咲耶の顔は蒼白く、血の気が失せていた。

「おいっ咲耶! しっかりしろ!」

 咲耶はぐったりしたまま動かない。おれは少しパニックになり彼女の体を強く揺さぶった。

「ダメですよ、そんなに揺すっては。おそらく気を失ってるんでしょう」

 気付けばおれの横に一人の女性が立っていた。金色の髪に白い修道着のようなものを着ている。咲耶とやったゲームのキャラクターでいえば僧侶という感じだろうか。

「ヒール」

 手にしていた杖をかざしながら彼女がそう唱えると、咲耶の傷がみるみる治っていった。ほっとしておれも腕の力を緩める。冷静になって考えてみると、娘の顔をこんな近くで見るのはいつ振りだろうか。

「大きくなったもんだ……」

 咲耶が小学校に上がるまでは、よくこうやってだっこしながら寝ていたっけ。そしていつも目を覚ますと「パパー」と言っておれに抱きついてくれた。

「う~ん」

 寝起きのような声を出して咲耶が目を覚ました。おれは昔のように娘に優しく微笑みかけた。

「ちょっと! パパ何してんのっ!!」

 咲耶が両手でおれを押しのけた。もの凄い衝撃を感じておれは軽く後ろに吹っ飛ぶ。いつのまにそんなに力が強くなった!? おれが唖然としていると、さっきのイケメンが声をかけてきた。

「あんた達親子だったのか。おれはアレックス。一応勇者と呼ばれている」

「ああ……おれは柏木だ。って勇者!?」

 アレックスと名乗った男を見ると、まるでマンガで出てきそうな勇者然としている。

「カシワギ? 珍しい名前だな。それで、そっちのお嬢さんは?」

 イケメンに見つめられ、咲耶は少しキョドっている。

「わ……私はサーシャよ」

 咲耶がゲームで使っていた名前だ。確かにそれだとなんとなくしっくりくる。まだ今がどういう状況なのかわからないが、娘の適応能力の高さに驚く。

 アレックスが笑顔でおれ達に握手をしてきた。どうやら挨拶はこの世界でも一緒らしい。彼に続き、咲耶を魔法で直してくれた女性もやってきた。

「はじめましてカシワギさん。サーシャさん。私は聖女のマリアと申します」

 さっきは混乱して気付かなかったが、マリアさんはかなりの美人だ。それこそまさにアニメの世界のお姫様のようにキラキラと輝いて見えた。おれが彼女に見とれていると咲耶が肘でおれの脇腹を小突きながら小声で言ってきた。

「ちょっとパパ見過ぎだから」
 
「んっ……ああすまん。でもすごい綺麗な人だな。やっぱりこれ夢なんじゃないか?」

「なんで私とパパが同じ夢見るのよ。そっちの方が変でしょ? これはたぶん転生したんだね」

「転生?」

「そう。ラノベとかマンガで見たない? 死んだら生まれ変わるやつ」

「いやでもパパは死んだ覚えはないぞ……」


「おーい! アレックスー! あいつらどっか行っちゃったよー!」

 おれ達がこそこそと喋っていると、彼らの仲間だろうか、マリアさんとは別の女性が駆け寄って来た。

「やっぱり逃げたか。まったくどいつもこいつもいい加減な奴ばっかりだ」

 アレックスは少しイラついた感じでそう言った。走ってやってきたもう一人の女性が息を切らしながら答えた。

「どーするぅ? もう三人で先進んじゃう? ってあれ? この人達はだぁれ?」

 不思議そうな顔でおれ達ふたりを見るその女性は、咲耶よりも小柄だが出るとこは出て、マリアさんと同じくこちらもたいそう美人だ。黒を基調とした服を着ており、小さな杖を手にしている。おれは咲耶に小声で訊いてみた。

「あれってやっぱり魔法使いとかか?」

「うんたぶん。ロリ巨乳といえば魔法使いのテンプレだよね」

 二人でまたひそひそ話をしていると、その女性が覗き込むような姿勢でにっこりと笑いかけてきた。

「私はテルマ! 二人は親子なんだってね~よろしくね」

「あ、ああ。おれはカシワギだ。こっちは娘の咲、サーシャだ」

「サーシャよ。よろしくテルマ」

 おれはまだまだ照れがあるが、咲耶はすっかり馴染んできている。ううむ、やはり昭和生まれにこの展開はきついな……。

「そろそろ日が暮れる。おれ達は野営を張るつもりだが、カシワギ達もよかったら一緒にどうだ?」

 アレックスの申し出を喜んで受けた。なにより咲耶がとても楽しそうだ。

「パパ! 野営だって! やっぱり魔物の肉とか食べるのかなー!?」

「えっ!? あれ食べるのか? 腹壊しそうなんだが……」

「だってアレックスが解体してるよ。私も手伝ってこよー」

「おいおい! 迷惑掛けるなよ! まったくあいつは……」

 おれが呆れて走っていく咲耶の背中を見ていると、マリアさんが微笑みながら話し掛けてきた。

「仲がおよろしいんですね」

「いえいえ。いつも言う事聞かないんで困ってます。あっそういえば先程はありがとうございました。娘の傷を治して頂いて」

「あれくらいは造作もないことです。ところでお二人はどこかへ旅でもしてらっしゃるんですか?」

「ええっと……」

 おれが答えに窮していると咲耶が大声でおれを呼んだ。

「パパー! ご飯できたってー!」

「えっ! 早っ!」

 おれが驚いているとマリアさんが笑いながら言った。

「テルマの魔法だと一瞬で焼けますからね。じゃあとりあえずはご飯にしましょうか」

 おれはマリアさんの後ろに付いて歩いて行く。ほんのりと肉の焼ける良い匂いが鼻をついた。おれは思わずゴクリと唾を飲んだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

ハーレムを満喫したい転生魔法使い少年VS逆ハーレム希望の転生聖女様VSレッサーパンダ

坂巻
ファンタジー
よくある異世界転生には、もちろん管理側の苦労というものがある。ハーレムを満(以下略)者たちを見守る、彼らの悲喜こもごもと、世界の真実。そして、レッサーパンダさいかわ。

毎日スキルが増えるのって最強じゃね?

七鳳
ファンタジー
異世界に転生した主人公。 テンプレのような転生に驚く。 そこで出会った神様にある加護をもらい、自由気ままに生きていくお話。 ※ストーリー等見切り発車な点御容赦ください。 ※感想・誤字訂正などお気軽にコメントください!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...