不必要な僕の偉大なる発明 ~スマホを覗かなくても、彼女の浮気は丸見えです~

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41話 悪魔来たりて

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 事件の話はそっちのけで、夕食はとても楽しい宴となった。メアリー達も譲さん親子に会うのが久し振りだったようで昔話に花が咲いていた。

 メアリーが五歳の時に鳳月さんは離婚しアメリカから帰国。その時のご近所さんが譲さん一家だったらしい。そう説明していた鳳月さんがくすっと笑った。

「それでメアリーが十歳の時、また引っ越さなくちゃいけなくなったんだけどね。引っ越し当日、この子ったらジョニーくんと離れるのが嫌で家に立て籠もっちゃったの! しかもジョニーくんを人質にして」

 くっくと笑う鳳月さんに対しメアリーが反論する。

「立て籠るなんて大袈裟な。ちょっと駄々こねただけでしょ?」

「いやあれは立派な立て籠りだよ。おれなんてオモチャの手錠はめられてたからな」

 ジョニーくんがそう言うとジョージさんと鳳月さんが大笑いしていた。メアリーは素知らぬ顔で料理を口に運んでいる。

「ちょうどその時、引っ越しの手伝いでネゴシエイターやってる私の同僚が来てたんだけど、説得するのにかなり苦労してたわよ」

 笑い過ぎて泣いたのか、鳳月さんが涙を拭きながらそう言った。するとメアリーが不機嫌そうにその話を続けた。

「最後は未解決事件の極秘ファイルを見せてやるって言葉に騙されたわ」

 そんな言葉に騙される十歳の少女もどうかとは思うけど……。楽しい思い出話もようやく尽きたのか、食事が終わる頃にやっと今回の事件の話をすることになった。


 僕と天助の関係性をより詳しく理解してもらうため、僕は怜奈に浮気された所から話をした。全て話し終えるとなぜかジョニーくんがおれの手を握りながらうんうんと頷いてきた。少し泣いているようにも見える。

 そういえば怜奈の浮気を知ったというくだりで、彼はいきなり立ち上がり壁を睨みつけていたような気がする。まさかジョニーくんも浮気された経験でもあるのだろうか? でもなぜ壁を? まさか彼もナクトと同じような力を――

「今回の件は私が必ず無罪を勝ち取ってみせる。任せといてくれ」

 今度はジョージさんが僕とがっちり握手をし、ダンディスマイルを見せながらそう言ってくれた。


 そしてその言葉通り、僕の裁判は弁護側の圧勝で終わった。僕は無事、無罪となり検察側が控訴しても棄却されるだろうとのことだ。


 僕の裁判が終わった頃、いよいよ天助の裁判が始まった。僕とメアリーも参考人としていずれ呼ばれることになるが、裁判初日は傍聴席からその様子を見守ることにした。

 法廷に天助は車椅子で現れた。あの時両足を骨折していたらしく、まだ満足に歩くことが出来ないらしい。審議中天助はずっと虚ろな目をしながらぼーっと虚空を見つめていた。その姿はまるで生気を失っているかのようでまるで別人のようだった。

 ジョージさんの話では今回は誘拐、傷害、殺人未遂及び犯罪グループの犯罪も加えると懲役二十年は下らないだろうとのことだった。その話を聞いて、これでようやくあいつにも天罰が下るのかと僕は思った。


 そしてもうひとつ、父と母が離婚することになった。今回の事件がなくてもいずれ母の不貞が原因で離婚していただろうと、父は自嘲気味に言っていた。

 離婚届を突き付けられ慰謝料まで請求された母は当初「そんな端金《はしたがね》、あの人が払ってくれるわ」と息巻いていたそうだ。しかしその不倫相手も、経営していた着付け教室が着物の悪徳商法を行っていたとし逮捕された。すると母は態度を急変させ復縁を迫ってきたそうだが父はそれを突っぱねたそうだ。


 最後に怜奈だが、彼女は結局あの家は引き払うことにしたようだ。今の仕事も辞め実家のある北海道へ帰るのだという。


「見送りはいかなくていいの? コウヤっち」

 怜奈の話を聞いたメアリーが僕を心配そうに見ながらそう言った。

「うん。引っ越しの時、最後のお別れはしたからね」

 僕がそう言うとメアリーは「そっか」と少し笑ってみせた。


「なんかさぁナクトを発明してからコウヤっちの周りってみんな不幸になってない?」

 唐突にメアリーにそう言われ僕は思わずナクトをポケットから出した。言われてみれば確かにそうだ。ナクトを作ったあの瞬間から不幸が次々に始まった。

 もしや『ナクト』は悪魔の道具かなにかだろうか? もしかしたらマテウスさんは人の姿を借りた悪魔で、人の世をかき乱すために僕にナクトを作らせたのではないのか? その罠にまんまとはまった僕はこれからも不幸をばら撒き、最後には人類をも滅ぼしてしまう存在となりうるのではないのだろうか。

 
 その時突然スマホが鳴り響いた。画面には孔雀さんの名前が表示されている。あの事件の後、近況報告などで何度が連絡は取り合っていた。そろそろあの時のお礼でもしないとなと思ってた頃だった。

「もしもし孔雀さん、どうされました?」

 僕が電話に出ると孔雀さんはひどく慌てた様子だった。

「おお! あんちゃん! 大変な事になっちまった。客が……タクシーに乗ってた客が突然消えちまったんだ!」


 やはり僕はすでに悪魔の申し子なのか……思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。






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